時代は変わるものだ。かつて怪奇小説(ホラーミステリー)と言われた横溝正史の映像化作品を、長谷川博己を主役としてNHKが制作した。しかも続編として「悪魔が来たりて笛を吹く」も作られそうだ。
獄門島へ向かう舟に金田一耕助が乗っていた。南方から復員して、戦友千万太の死を知らせるためだ。千万太は本鬼頭と呼ばれる名家の嫡男だった。彼は「俺が死ぬと、3人の妹が殺される」という千万太の最期の言葉が気になっていた。
島に到着した金田一は了然和尚の寺にお世話になることになった。島には本鬼頭の分家の嫡男一(ひとし)の生還する知らせがあり、軍に供出された釣鐘も無傷で返されてきたのだ。
本鬼頭家には嘉右エ門は終戦後間も無く亡くなり、今では発狂して座敷牢に入れられた与三松(千万太の父)、3人のギャルにしか見えない妹たち、さらに分家の一の妹早苗が全員の世話を見ていた。与三松の後見人には了然和尚、医師幸庵、荒木村長が入っていた。
戦死公報も入ったので千万太の正式な葬儀をあげることにした。その夜、花子が行方知らずになる。夜道を手分けをして捜索したが、何と寺の木に逆さずりされて殺されているのを寺に戻った和尚が発見する。死体を見て和尚が「きちがいだが仕方ない」と言ったのを金田一は聞き逃さなかった。境内で英語辞書を使った紙巻きタバコも見つけた。外部犯だろうか。
花子が殺されて残った二人の命も危険だと金田一は知るが、交番巡査は金田一を逮捕してしまう。翌朝、釣鐘から雪枝の死体が出て来た。アリバイが立証された金田一は岡山県警の磯川警部と捜査に戻る。磯川警部は海賊犯行説を採り山狩りを実行する。そして復員兵姿の死体を発見する。撲殺された痕があった。
死体を発見してるころ、祈祷所に白拍子姿でこもっているはずの月代の応答がない。開けると絞殺されていて、周りに萩の花が・・・
次の日金田一は、俳句に詳しい巡査に協力させて、寺の寝間に置かれてある屏風の句を読ませた。そこには3人の死に様を描写することが書かれていて、これが見立て殺人だと気付く。
続いてライバルの分鬼頭を金田一は訪れ痛風病みの儀兵衛から話を聞いて、すべての謎は解けた。
脚本家として喜安浩平を指名する辺り、NHKもずいぶん柔らかくなったものだ。喜安は自分の劇団を率いる一方、10年続くロボットアニメ「蒼穹のファフナー」シリーズで主役の声を演じて、さらに日本アカデミー賞脚本賞を受賞している。
喜安は原作に忠実な脚本を書いている。
まず金田一は狂気の人だった。苦しむ犯人を笑ってショック死させたんだから。
しかし三人娘がまるで平成のギャルだったので個性の色分けに失敗した。
仲里依紗も使い方が下手だと思う。もっと綺麗に撮ってあげなくては金田一が惚れる理由がわからない。でも市川監督もずい分年を取ってから女性を描けるようになったから、痛み分けかな。
演出にも些細な点では市川崑監督へのオマージュも感じられた。
音楽は市川監督のように和製音楽に拘らず、マリリン・マンソンなどの洋楽を多用している。これが日本人に聞きやすかったか、大事な台詞に被らなかったか心配だ。
果たしてこの作品は評価されるだろうか?僕個人としては、わざわざ犯人を原作と変えてしまった市川崑作品より良いと思う。
配役
金田一耕助 – 長谷川博己
了然 – 奥田瑛二
早苗 – 仲里依紗
磯川警部 – 小市慢太郎
荒木村長 – 菅原大吉
幸庵 – 綾田俊樹
巡査 – 山中崇
儀兵衛 – 古田新太
お志保 – 山田真歩
鵜飼 – 柳俊太郎
【原作】横溝正史「獄門島」
【脚本】喜安浩平
【演出】吉田照幸