「女囚さそり・けもの部屋」で主演梶芽衣子と衝突して干された伊藤俊也監督が、日本各地の狐憑き(犬神憑き)を精力的に取材し自ら脚本を書いたもので、原子力技師と山村の娘の結婚から、つぎつぎと起る怪奇現象を描くオカルト映画。
撮影は仲沢半次郎が担当。
主演は大和田伸也。共演は泉じゅん、山内恵美子、新人長谷川真砂美。
併映映画は「新女囚さそり・特殊房X」(主演夏樹陽子)。
あらすじ
加納竜次は東亜開発の原子力技師である。同僚安井と西岡と共に、ウラン鉱探査のため久賀村へやって来た。西岡が車の運転をあやまって、道端のほこらをこわして、さらに犬をひき殺してしまった。それから村娘麗子とかおりに出会う。娘二人は同時に可能に対して恋心を抱くが、半年後に加納は麗子と結婚する。麗子は、ウラン鉱山の大部分を所有する富豪の娘だった。一方、かおりは轢き殺した犬の飼い主垂水の娘で、その弟は麗子との結婚式で加納に石を投げつけた。
被露宴は東京で行われ、その会場で西岡が発狂する。彼は会社のビル屋上から投身自殺する。その後、安井が犬の大群に恐われ死亡する。この事件から、麗子は三人が犬神の祟りに遭っていると感じる。
麗子は、加納の身代わりに犬神に対して自分に取り憑いてくれと祈る。そして、麗子の精神に異常が起きた。加納は、麗子の実家へ連れて帰る。父親の剣持は祈祷師に憑き物落としを依頼する。しかし体力を磨耗していくだけで、結局麗子は息をひきとった。
加納は、麗子を殺した犬神とは何か考える。村人は村八分にされている垂水が呪った所為だというが、信じられなかった。
ウラン鉱山作業所で事故が起き、硫酸を用いる新たな採鉱方法に切り替える。
村の祭りの日、村の若者たちがかおりを襲ったが、通りかかった加納が彼女を救った。それ以来、加納と垂水家の交流は再開した。
翌日、加納は大量の魚が死んでいるのを発見する。村人にも井戸水を飲んで死亡するものが出る。加納は採鉱所から硫酸が漏出したことを知ったが、会社は否定する。
村人は、垂水家の者が毒を流したと思い、垂水家を襲撃した。竜次は垂水家に向かうが、君代、かおり、勇の三人は惨殺される。雷鳴が鳴り響く瞬間に主人隆作は、「犬神の呪いよ。村人にたたれ」と叫び、犬の首を刀で切断するが、空を舞った犬の首は隆作の首へ噛み付いて、隆作は死んでしまう。それを見た麗子の妹磨子の目は輝き出して、同時に採鉱所は落盤事故を起こす・・・。
雑感
今や見ることが少なくなってカルト映画になってしまった、ジャパニーズ・ホラー映画の先駆けの一つだった。撮影の舞台は三重県名取市にある室生赤目青山国定公園内にある青蓮寺付近らしい。
公開当時は「エクソシスト」や「オーメン」のようなホラー映画が流行し、さらに国内では「犬神家の一族」「八つ墓村」と言った、扇情的な映画CMが流行していることに目を付けた岡田社長が、大々的な宣伝で公開期間は同期の東宝「八甲田山」ほどではないが、それに次ぐ興行成績を上げた。
犬の首を切るシーンがあるが、社長は記者会見で本当の犬を使ったと言って、物議を醸した。そのおかげで動物愛護協会の抗議があり、公開が一か月遅れた。実際の映像を見ると、直前までは生きていたが、切る瞬間は人形に代わっているように見える。しかし東映は抗議により、製作期間も宣伝期間も予定より一か月長くなって良かったと言っている。
映画自体は、どこの村にもある差別問題が背景にあり、それゆえに鈴木瑞穂、岸田今日子、小山明子という大物俳優が出演してくれた。差別側の遺伝的体質に問題があるのに、被差別側の恨みの問題にすり替える点が興味深い。
また原子力発電用のウラン製錬所が舞台だから、反原発の要素も含まれる。東映らしい反政府的な論点だ。
しかしわずか1時間40分の映画に、取り入れられる要素を全て放り込んだので、焦点がボケたところもある。私はエンターテイメントとしてのオカルト映画に、社会問題を持ち込むことには賛成であるが、そういうのをインテリ臭いと嫌がる輩もいよう。
出演者では、大和田伸也、長谷川真砂美の怪演が光る。長谷川はオーディションで選ばれたシンデレラガールで、当時は天才少女と呼ばれたものだ。3年後の1980年にはテレビドラマ「黄金の犬」に主演、翌年は映画「ねらわれた学園」で薬師丸ひろ子と共演し(高見沢ミチル役)、1985年を最後に芸能界から引退したようだ。
さらに日活ロマンポルノ代表の泉じゅんと東映スケバン路線の山内恵美子の裸体対決も見られる。個人的には平板な顔立ちの泉じゅんよりも、目鼻立ちのはっきりした猫型美人の山内恵美子の方が好きだ。彼女は翌年いしだあゆみの若い頃のヒットソングをカバーした「太陽は泣いている センセーション’78」をヒットさせた。これが六枚目のシングルだと思う。その後も石立鉄郎とのデュエット・ソングを歌っていた。
さらにオカルト映画で忘れてはならないのが、白石加代子だ。角川映画の横溝正史シリーズでも常連だが、この映画でも霊媒師の役で出演した。大御所なのに気軽に出演して下さるから助かる。
惜しむらくは菊池俊輔の音楽が、民謡ぽくってほのぼのしてしまった。もっと怖がらせて欲しかった。
スタッフ
企画 天尾完次、安斎昭夫
脚本、監督 伊藤俊也
撮影 仲沢半次郎
音楽 菊池俊輔
キャスト
加納竜次 大和田伸也
加納麗子 泉じゅん
垂水かおり 山内恵美子
剣持磨子 長谷川真砂美
剣持剛造 鈴木瑞穂
剣持佐和 小山明子
剣持真一(長男) 伊藤高
垂水隆作 室田日出男
垂水君代 岸田今日子
垂水勇 加藤淳也
会社上司梶山 川合伸旺
同僚西岡 小野進也
同僚安井 畑中猛重
桧垣 河合絃司
駐在 三谷昇
汚物を撒く青年団長 小林稔侍
中年の男 佐川二郎
祈祷師 三重街恒二
霊媒師 白石加代子
ネタばれ
加納は垂水家惨殺事件を起こした村の若者の一人をつかまえ、剣持家の土蔵に連れ込んだ。ところが開かずの間を開けてしまった加納は、犬神憑きになってしまった剣持家の長男真一を発見する。解放された真一は、母佐和と父剛造を殺す。剛造は加納に磨子のことを託すのだった。
しかし、犬神が磨子に憑いてしまった。そして磨子は加納を初め逃がそうとするが、加納が拒絶したため、今度は殺そうとする。狂乱した加納は犬神憑きの磨子の首を締めて、失神させる。磨子を殺したと勘違いした加納は、綱を首に括り付けて井戸に飛び込んで自殺する。
やがて磨子一人に見送られ、加納の遺体は荼毘に付される。その時、棺桶が突然開き、加納が起き出す。しかし火が乗り移って、加納は炎の中に再び消えてしまう。