ジョン・バリモアが主演する映画でチャールズ・マッカーサーベン・ヘクトチャールズ・ミルホランドの戯曲を脚色したものをハワード・ホークスが監督して、ジョー・オーガストが撮影している。
バリモアの相手役はキャロル・ロンバード。共演はウォルター・コノリー、ロスコー・カーンス、エチエンヌ・ジラルドオ、ラルフ・フォーブス、デール・フラーなどである。
 
特急二十世紀とは当時ニューヨークとシカゴを結んでいた特急列車のことだ。この社内でドタバタ喜劇が起きる。日本で言えば、渥美清の「喜劇◎◎列車」シリーズのようなもの。
 

あらすじ

 
オスカー・ジャフィは天才劇作家だった。彼はリリー・ガーランドという女優を見出しスターに育てる。しかし三年間ジャフィはリリーをヒロインにしてヒットを送り続けたが、ジャフィはリリーを束縛したので、リリーは無断でハリウッドの映画界に去ってしまう。リリーに去られるとジャフィの運も傾き、子飼いの演出家ジェーコブスは独立してしまい、新しいヒロインを育てるも失敗する。彼のシカゴの興行も不入りで、スッカラカンになり、特急二十世紀に乗って、ニューヨークへ逃げ帰る。
途中の駅でこの列車にリリーとその恋人のジョージが乗り込んで来た、リリーはニューヨークにいるジェーコブスの芝居に出るためだった。ジャフィはリリーを自分の舞台に戻すことが出来れば栄光を取り戻せると考える。先ずジャフィーとリリーの関係を明らかにしてジョージを嫉妬に狂わせ列車から降ろすことに成功する。さらに信心深いバプテスト派の製薬会社社長クラークと出会い、受難劇をするからと出資させ小切手を切らせる。しかし車掌からクラークが施設を逃げ出した狂人だと知る。絶望したジャフィは拳銃で自殺を計った。そこに再び現れたクラークは自分が狙われているものと考えて、ジャフィを誤射するが幸いにも弾は当たらなかった。だが致命傷を受けたことを装い、ジャフィは瀕死の重傷だとリリーを騙して彼女に彼の芝居に出演するという署名をさせた。その途端に、ジャフィーは飛び上がり、リリーは映画で忘れてしまった舞台の基礎から叩き込まれるのだった。
 

雑感

 
ジョン・バリモアの時代的でハイテンションな演技が、いかにも1930年台前半のスクリューボール・コメディだ。
キャロル・ロンバードもその演技に引っ張られて、作品全体がジェットコースター・コメディっぽく見える。
また、エチエンヌ・ジラルドがボケ老人を演じて、とぼけた良い味を出しているので後半の画面が引き締まってくる。
1940年台に入ると、ケイリー ・グラントの英国流オフビート演技がスクリューボール・コメディの中心になってくるから、今となっては貴重品だ。

ジョン・バリモアはバリモア兄弟の次男坊でかつての二枚目スタア。例えばシャーロック・ホームズ、アルセーヌ・ルパン、ドンファン、ハムレットさらに「白鯨」の映画化第一弾(サイレント)と第二弾(トーキー)でエイハブ船長を演じている。酒が過ぎるタイプで、この作品を最後に年齢的にも主演を演ずるのが難しくなり、脇役に甘んじていたが、1942年残念ながら60歳で亡くなる。なお、彼の長男の娘が今のドリュー・バリモアである。

個人的にはキャロル・ロンバードとアイリーン・ダン、グレタ・ガルボは少しイメージが重なる。
その中でもキャロルはスクリューボール・コメディの女王として個性を発揮していた。クラーク・ゲーブルと結婚してこの世の春を謳歌していたが、戦時中の1942年国内慰問旅行に出かけて母と飛行機事故に遭い33歳の若さで亡くなる。奇しくもジョン・バリモアが亡くなった年である。クラーク・ゲーブルはその後二度結婚するが、「荒馬と女」の撮影後に亡くなったとき、遺言でキャロルの隣の墓に入ったそうだ。

 
イシグロ・カズオが2017年ノーベル賞を取ったとき、「特急二十世紀の夜といくつかの小さなブレークスルー」と題された受賞記念講演を行った。
21世紀の最初の年2001年にイシグロ・カズオが自宅で好きな映画「特急二十世紀」のビデオを見ていた。すると、それまで面白く感じられた俳優たちの演技がふと面白くなくなったそうだ。
そして、名作の名作たる理由が登場人物のキャラクターではなく、その人間関係にあると気付いた。これを大きなターニングポイントにして彼は作家として成長できたそうだ。
スクリューボール・コメディだからといって、登場人物のエキセントリックな個性を描いている間は単なる軽演劇でしかない。ジョン・バリモアがチャップリンになれなかった理由が分かる。
 

スタッフ・キャスト

 
監督 ハワード・ホークス
原作戯曲 チャールズ・ミルホランド
脚色 チャールズ・マッカーサー 、 ベン・ヘクト
撮影 ジョセフ・オーガスト

 
配役
劇作家オスカー・ジャフィ ジョン・バリモア
女優リリー・ガーランド  キャロル・ロンバード
ウェブ         ウォルター・コノリー
オマリー        ロスコー・カーンス
演出家ジェイコブス    チャールズ・レビンソン
クラーク氏       エチエンヌ・ジラルド
付き人セイディ     デール・フラー
愛人ジョージ      ラルフ・フォーブス
 

 

特急二十世紀 Twentieth Century 1934 コロンビア製作・配給

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