カリブ海に浮かぶ囚人島で理想主義に燃える青年官僚が総督夫人と燃えるような恋をして、島の保安長官から総督に上り詰めていくが、その顛末は苦いものだった。
監督ルイス・ブニュエル。主演フィリップ・ジェラール、マリア・フェリックス、ジャン・サルヴェ。
あらすじ
首都エルパオの独裁政権のもとで大西洋上のオヘダ島はバルガス総督が統治していた。この島は刑務所の囚人により開発されており、刑務官は囚人に重労働を課していた。
その妻イネスは理想主義者の秘書官バスケスを愛おしく思っていた。ある日、バスケスの友で軍人ガルシアによって総督が暗殺される。イネスはバスケスと晴れて愛し合うようになった。
新総督にグアルが着任する。彼はイネスを手に入れようと近づき、邪魔なバスケスをガルシアの件で逮捕しようと画策する。バスケスは保安長官に昇進して、法令通り刑務所の政治犯の枷を取り除く。ガルシアが逮捕され、グアルによって拷問にかけられ、バスケスが関与した証言を取られる。
バスケスとイネスは善後策を話し合う。イネスがグアルを島外に連れ出しているうちにバスケスは囚人に反乱を起こさせる。一般囚人は逃げようとしない政治犯たちを殺し、島の首都に向かっている。バスケスはグアルを捕まえて、囚人脱走の罪を被せて死刑にしてしまう。そして何とか囚人の反乱も治める。
大統領にバスケスはお褒めいただき、後任の総督に選ばれた。しかし内務大臣はグアルが反大統領派とつながっていたと証言をバスケスに見せて、イネスにサインさせて国外に逃亡させろと命令する。イネスはサインしたが、バスケスが一緒に亡命してくれないと知り、態度を豹変させる。バスケスはイネスの乗ったタクシーを軍に襲わせて、彼女を殺してしまう。
理想に燃えて官僚になったのに、どうしてこんなことになったのか?彼は政治犯にカセをつけろという大統領令を破り捨ててしまう。
雑感
フィリップ・ジェラールの遺作である。制作時に既に肝臓がんの自覚症状はあり、敢えてそれを押しての出演だった。
それも憧れのルイス・ブニュエル監督との初めての仕事だったからだ。ブニュエルはいつもなら相当ハードなことを課す監督だったが、見た目にわかる彼の病状に彼にはあまり負荷をかけまいとしたようだ。ヒロインのマリア・フェリックスと戦前からの大スターであるジャン・サルヴェの獅子奮闘でこの映画は体をなしたが、ジェラール・フィリップらしさを求めるのは酷である。マリア・フェリックス主演と考えた方がよろしい。ルイス・ブニュエルらしさは、ほとんど出ていない単なるヌーベルバーグである。。
スタッフ
監督 ルイス・ブニュエル
製作 グレゴリオ・ワラースタイン、レイモン・ボルドリー
脚本 ルイス・アルコリザ, ルイス・ブニュエル
原作 アンリ・カスティユー
撮影 ガブリエル・フィゲロア
美術 ホルヘ・フェルナンデス / パブロ・ガルバン
音楽 ポール・ミスラキ
キャスト
ジェラール・フィリップ: 秘書官->保安長官->総督ラモン・バルケス
マリア・フェリックス : 前総督夫人イネス・ロハス
ジャン・サルヴェ : 総督アレハンドロ・グアル
ミゲル・アンゲル・フェリス : 前総督マリアノ・バルガス
ラウール・ダンテ : ガルシア大尉
ドミンゴ・ソラー : カルデナス教授
ビクター・フンコ : インダルテ