(☆)暗黒街の黒幕に牛耳られたボクシング界の内幕を暴いた社会派映画。
「波止場」の脚本で知られるバッド・シュールバーグ原作小説の映画化である。
主演はハンフリー・ボガートだが、彼の遺作になった。
共演はロッド・スタイガー、マイク・レイン、ジャン・スターリング。
マックス・ベアやジャーシー・ジョー・ウォルコットといった元チャンピオンが特別出演している。白黒映画。
あらすじ
スポーツ記者エディは、新聞社の倒産で失業した。マフィアの一員であるニックに、トロというアルゼンチン出身のヘビー級ボクサーのマスコミへの売り込みを頼まれる。トロはボクシングの経験を全く持っていなかった。
しかしニックは、相手を買収して八百長試合をするつもりだった。エディは、ボクシングに目が肥えてない西海岸から初めて、全米ツアーを組んで八百長試合を仕込んで次々と勝利し、ニューヨークに乗り込むことを計画する。
最初のカリフォルニアの試合では、買収が成立しKO勝ちさせることができた。しかし、評論家アートが試合を見ていた。彼はボクシング委員会に訴えると言っている。ニックは困ってしまい、エディに何とかしてくれと泣きつく。エディは、アートに窮状を伝え、訴えないでくれと頭を下げる。彼は了解するが、エディは友人の縁を切られる。
トロは、八百長で勝ちながら米国大陸を横断し、東海岸に近付いた。ついに前ヘビー級チャンピオンのガスと戦うことになる。流石にガスとはガチの試合になった。でもガスは、前回のヘビー級防衛戦での後遺症が残っているところをダウン時に強打したため、試合中に脳出血で死亡した。新聞は、トロの殺人パンチがガスをあの世に送ったと書き立てた・・・。
雑感
ボクシングの八百長やパンチ・ドランカーの怖さを暴露する社会派映画だ。
今更、格闘技の八百長の有無は見ればわかるほど、みんな目が肥えてきたので、目新しさはないだろうが、当時は殺人パンチで有名でトロのモデルと言われたプリモ・カルネラが、この映画に対して訴訟を起こしたほどだ。(しかもカルネラは、当時ボクシングを引退してプロレスに転向していた)
この撮影は1955年の年末まで続いた。撮影を終えたハンフリー・ボガートは、病院に行くが翌年早々に末期の食道癌という診断が下りた。映画公開は、56年の3月から始まっている。そして1957年1月にハンフリー・ボガートは亡くなる。
アクターズ・スタジオを出た、若い頃のロッド・スタイガーは、どうも役の重みを感じない。太々しいのだが、どこか可愛いのである。ハンフリー・ボガートには遊ばれている。B級映画だから仕方ないが、逆に言えば晩年のロッド・スタイガーの渋さと比べるのも面白い。
スタッフ
監督 マーク・ロブソン(「チャンピオン」「愚かなり我が心」)
製作・脚本 フィリップ・ヨーダン
原作 バッド・シュールバーグ
音楽 ヒューゴー・フリードホーファー
撮影 バーネット・ガフィ
キャスト
エディ(元新聞記者):ハンフリー・ボガート
ニック(興行主):ロッド・スタイガー
トロ・モレノ(アルゼンチンの大男):マイク・レイン
ベス(エディの妻):ジャン・スターリング
ブラナン(チャンピオン):マックス・ベア(ボクシング元チャンピオン)
ジョージ(セコンド):ジャーシー・ジョー・ウォルコット(ボクシング元チャンピオン)
ジム:エドワード・アンドリュース
ポップ:ジャック・アルバートソン
ヴィンス:フェリス・オーランディ
レオ:ネヘマイア・パーソフ
アート(評論家):ハロルド・ストーン
パンチ・ドランカー:ジョー・グレブ(クレジットなし:実際にボクサーとして長いキャリアを持っていたが、パンチ・ドランカーの後遺症に苦しみ、ボクサー年金制度を訴えている)
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次戦で、いよいよヘビー級チャンピオンのブラナンとベルトをかけて戦うことになった。ニューヨークに到着して妻ベスと久々に再会したが、アートから仕事の内容を聞いていたベスは、夫を蔑んで家を出る。
トロが突然、母親が殺人のことを悲しむので出たくないと言い出す。そこでエディは、彼に八百長システムを明らかにし、ガスが死んだ原因はブラナン戦の後遺症にあることを暴露した。
気を取り直したトロは、タイトルマッチで積極的に前に出て戦うが、所詮現役チャンピオンのブラナンには叶わず、彼のパンチに3Rで敗れ去る。翌日トロは帰国するので、エディがニックの元にトロの代わりに報酬を受け取りに行く。報酬は、僅か49ドルしかなかった。さらにニックは、トロを既に他のプロモーターに譲渡していた。
エディは、ニックの人と思わない態度に怒り、自分のギャラを渡してトロをアルゼンチンに帰国させた。そんなエディを見て、妻は夫の許に戻る。そして、ニックに今回の事件を暴露してやると言って、雑誌連載記事「殴られる男」の原稿を書き出した。