南條範夫の原作「被虐の系譜」を名匠今井正監督が(連作オムニバス)映画化した。戦国時代から現代まで封建社会を凡庸な上司に尽くしてきた7代にまたがる年代記。萬屋錦之介がその7代を熱演している。作品は第13回ベルリン国際映画祭金熊賞を受賞し、第37回キネマ旬報ベスト・テン第5位。上司役は東野英治郎(一、二部)、森雅之、江原真二郎、加藤嘉、原田甲子郎、西村晃。モノクロ・シネスコ作品。

あらすじ

日東建設の営業マン飯倉進は婚約者人見杏子が自殺未遂を起こしたと聞かされ、信州の菩提寺で発見した先祖の日誌に記された呪いを思い出した。

関ヶ原の合戦後、浪人になった飯倉次郎左衛門は信州矢崎の大名堀式部に家臣として取り立てられる。寛永十五年島原の乱に幕府軍として出兵した次郎左衛門は、一揆勢に屋敷を焼かれたために叱責を受けた主君の罪を一身に被って、幕府軍本陣の門前で自害する。その甲斐あって松平伊豆守は堀式部の罪を許す。

乱後三年、近習と出世した次郎左衛門の嫡男佐治衛門は主君堀式部に仕えていた。しかし病気で短気になっていた主君の勘気に触れ閉門の上、加増分召し上げとなってしまう。まもなく亡くなった式部の後を追って、妻子を残して追腹を切った。

元禄時代、佐治衛門の孫久太郎は両刀遣いの藩主丹波守宗昌のお眼にとまりお手が付いた。おかげで小姓と昇進したが側室との一夜の過ちが元で陰湿な宗昌の勘気を被り羅切刑となって逸物を切り落とされる。しかし不義により身ごもった側室の払い下げを受けて故郷信州に帰還を許される。

天明期、農民は過酷な年貢を課せられて苦しんでいた。飯倉修蔵は御前試合で秘剣“闇の太刀”を披露し藩主安高から褒美を貰う。しかし農民五名が江戸にいる老中田沼意知に直訴してしまう。安高は修蔵の娘で許嫁数馬がいるさとを意知の妾として献上したうえ、農民五名を鋸引きにした。さらに好色な安高が修蔵の妻まきを犯そうとしたためまきは自害したが、腹いせに修蔵に閉門蟹居を命じる。修蔵のもとに意知が殺害されたさとが戻って来た。彼女がかつての許嫁数馬と出会っていることを安高の知られ、不義密通で二人とも捕えられる。娘を助けるため修蔵は処罰を決意して陣屋に行くが、安高は「闇の太刀」で罪人を斬れば閉門破りを許してやると言う。彼は目隠しをして首を斬ったが、それはさとと数馬のものだった。安高の笑い声を聞きながら修蔵はその場で切腹して果てた。

明治の御代となり、飯倉進吾は上京し、元藩主で貧乏子爵高啓の世話を看ながら車夫をしていたが、恋人ふじはボケた高啓に犯される。その後、高啓は階段からころげ落ちて亡くなった。進吾は、ふじと結婚するが身重の妻を残して日清戦争で戦死した。

飯倉進の兄修も太平洋戦争で特攻隊として海に消えた。

現代、進は上司の山岡部長に信州ダムの入札に関する競争会社飛鳥建設の情報を盗むよう言われる。飛鳥建設に勤める恋人杏子は結婚のためになるのならと産業スパイに手を貸す。ついに入札争いは日東建設が勝った。山岡は飛鳥建設に勘ぐられたくないため、進に結婚を延期するように勧める。それを聞いた杏子は睡眠薬を飲んで自殺未遂を図る。先祖の踏んだ轍を進もくり返していた。進は会社に歯向かい杏子と二人だけで結婚する決心をする。

雑感

ここまで封建社会で理不尽な目に遭ってきて、よく子孫が残せたものだ。運は良かったのだろう。
本作品は主演、監督が妙な組み合わせだ。年代記風のオムニバス映画なら、監督も俳優を変えることもできる。さらに今井正なら弟中村嘉葎雄の方が使いやすかったのではないかと思う。
ちなみにまだ見ていない頃は、先祖は片岡千恵蔵、江戸時代は萬屋錦之助、現代物は中村嘉葎雄が演じていると信じていた。

スタッフ

企画 辻野公晴 、 小川貴也 、 本田延三郎
原作 南条範夫
脚色 鈴木尚之 、 依田義賢
監督 今井正
撮影 坪井誠
音楽 黛敏郎

キャスト

(寛永15年:切腹)
飯倉次郎左衛門 萬屋錦之介
堀式部少輔 東野英治郎
家老  明石潮
松平信綱  那須伸太朗
浅井嘉兵衛 徳大寺伸

(寛永18年:閉門)
飯倉佐次衛門 萬屋錦之介
妻やす 渡辺美佐子
下僕吾平  織田政雄
下僕六助  波多野博
寺田武之進 片岡栄二郎
側用人 北竜二

(元禄年間:羅切)
飯倉修蔵 萬屋錦之介
母しげの  荒木道子
堀丹波守宗昌  森雅之
堀丹波の奥方  東恵美子
萩の方 岸田今日子
上月源左  香川良介

(天明年間:好色)
飯倉久太郎 萬屋錦之介
妻まき 有馬稲子
娘さと 松岡きっこ
嫡子十次郎 島村徹
野田数馬  山本圭
堀式部少輔安高 江原真二郎
静田権之進 柳永二郎
近藤三郎兵衛  佐藤慶
田沼意知  成瀬昌彦
村の若者 河原崎長一郎

(明治初年:痴呆)
飯倉進吾 萬屋錦之介
堀高啓 加藤嘉
井口広太郎 木村功
ふじ  丘さとみ
下田  川合伸旺

(昭和20年:特攻隊)
飯倉修 萬屋錦之介
指揮官 原田甲子郎

(昭和38年:産業スパイ)
飯倉進 萬屋錦之介
人見杏子 三田佳子
山岡部長 西村晃
木原重役 小川虎之助

武士道残酷物語 1963 東映製作・配給 ベルリン国際映画祭金熊賞受賞

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