(★★)メロドラマの秀作。泉鏡花の同名短編小説の二度目の映画化で衣笠貞之助・相良準が脚色し、衣笠貞之助が監督した。
カラー映画で、撮影は渡辺公夫
主演は山本富士子、市川雷蔵
共演は柳永二郎、上田吉次郎、小野道子

雑感

明治時代「お能」に関わる傑作恋愛映画。1943年に花柳章太郎と山田五十鈴が主演し、泉鏡花の原作を久保田万太郎の脚色を成瀬巳喜男が監督した東宝映画があった。
この作品は、それの戦後リメイク版で衣笠貞之助の演出と脚色が実に素晴らしい。主役の山本富士子、相手役の市川雷蔵さらに脇を締める柳永二郎の言葉にせずとも全てが伝わる演技が泣かせる。山本富士子の舞も見事だ。ただ残念なことに、皆の謡いは吹き替えになっている。

山本富士子は、もちろん元ミス日本なのだから当然美しい。しかし、現代風のスタイルではない。ちょうど、自分が子供の頃、30代の母や大人の女性はみんなこんなスタイルだった。太っているほどではないが、決して痩せていない。子供にとっては最も安心できる体型である。
生まれた頃のスターは、吉永小百合にせよ栗原小巻、星由里子にせよさらにスマートになっていった。思春期を迎えた頃には、中3トリオ、キャンディーズを始めとするアイドルのおかげで好みはよりスマートな女性に向いていった。
しかし、社会に出てから会った痩せた女性に対して窮屈そうな違和感が生まれた。
そして還暦を迎える今になって、自分の好みが山本富士子に戻ったと感ずる今日この頃である。

 

キャスト

山本富士子  お袖
市川雷蔵  恩地喜多八
柳永二郎  恩地源三郎
信欣三  辺見雪叟
荒木忍  宗山
倉田マユミ  宗山の妾おます
角梨枝子  宗山の妾二号おこい
上田吉二郎  倉吉
賀原夏子  お幸
小野道子  仲の良い芸妓おけい
見明凡太朗  鉄砲松
浦辺粂子  お秀
佐野浅夫  本田
小沢栄太郎  今村屋彦七

スタッフ

製作  永田雅一
企画  中代冨士男
原作  泉鏡花
脚色、監督  衣笠貞之助
脚色  相良準
撮影  渡辺公夫
音楽  齋藤一郎

 

ストーリー

明治三十年代、伊勢山田で能の観世流家元恩地源三郎を迎えて奉納能が行われた。地元で町一番の謡曲師を務め妾を二人抱えている盲目の宗山は東京から来た家元が気に入らず、門弟相手に観世流の悪口を叩いていた。
旅姿の男が現れ宗山に一曲所望する。宗山が謡い出すと、男は鼓を取り出し、宗山を煽るかのように早い拍子を取った。彼は、観世流の跡取り喜多八だった。喜多八に馬鹿にされた宗山は憤慨するし、盲目なのに庭を歩き回り古井戸に落ちて死んでしまう。
源三郎は、その事件を知って喜多八を破門した。喜多八が宗山の自宅にお焼香に行くと、美しいお袖が出迎えてくれた。源三郎は、お袖のことを宗山の妾の一人と思っていたが、宗山の一人娘と知ると強い衝撃を受ける・・・。

喜多八は、伊勢近辺の門付(流しの芸人)になった。お袖は、芸妓として売られていたが、父のことを思い出して芸事に身が入らず座敷をしくじってばかりだった。そして流れ流れて桑名にある島屋という芸者置き屋に引き取られていった。
そこでお袖は喜多八と再会した。彼がヤクザに袋だたきに遭っ他のを介抱するうちに、お袖の中に彼に対する愛情が生まれる。お袖が彼に仕舞「玉の段」の稽古を頼むと、喜多八は喜んで引受けた。
お袖の舞が仕上った日に睦屋の旦那との身請け話が決まってしまう。絶望したお袖は毒薬を懐に隠して睦屋の泊まる宿屋に向かうが、睦屋は不在だった。そこの女将に頼まれて、お袖が別の座敷に出た。その客二人は能の関係者だという。二人を前にして、お袖はこの世で最後の舞を舞う。
実は、その二人こそが恩地源三郎と鼓の師匠辺見雪叟だった。彼女の舞を見て源三郎は、喜多八とお袖の関係をすべて察した。宗山の供養として、彼女の舞に合わせて源三郎は地謡を、雪叟は鼓を務めた。お袖を探していた喜多八は、見事な鼓の音に誘われて旅籠の庭先に現れた。それを見つけた源三郎はその場で喜多八を許し、お袖と喜多八は抱き合った。

 

 

歌行燈 1960 大映東京製作 大映配給 – 山本富士子と市川雷蔵共演作

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