大怪盗と女泥棒が組んで美しき未亡人に近付いた。未亡人の運命やいかに?
これはエルンスト・ルビッチ監督流おしゃれ泥棒と言えよう。ルビッチが生前最も気に入っていた作品でもある。
オリジナルはラズロ・アラダールの舞台劇で、それを基にグローヴァー・ジョーンズが映画脚本を書いている。
主演はハーバート・マーシャル、共演はミリアム・ホプキンス、ケイ・フランシス。
プリコードの白黒映画。1935年から1958年まではコードに掛かって見ることは出来なかった。
あらすじ
ベネチアで怪盗ガストンに初めて出会った女泥棒リリーは腕試しを仕掛けるが、履いていたガーターを盗まれ、その辣腕ぶりに惚れ込んでしまう。
パリに帰ったガストン・リリーの怪盗コンビは香水会社のオーナーで未亡人マリエットに標的を定める。マリエットから知らないうちに高価なバッグを盗み、懸賞がかかったところで名乗りを上げた。最初は懸賞金狙いだったが、うまく取り入り秘書に取り立てられる。さらにリリーは事務員として採用された。
ガストンは、マリエットが銀行に預けた資金80万フランを現金として自宅に移させて、それを貰って逃げるつもりだったが、モタモタしてる間にいつの間にかマリエットとの間で情を交わすようになる。
そんなある日、マリエット宅を友人フランソワが訪れる。ガストンはフランソワの顔を見てギョッとする。ベネチアで昏倒強盗した相手だったのだ。フランソワは誰だったか思い出そうとしているようだ。さらに会社の重役ジロンが訪れ、ガストンの身元を調べ上げていた。しかしガストンも会社の計算書類に目を通して、彼らジロンが会社経理を粉飾して横領している事を知っていたため、一日の猶予をもらう。
マリエットがパーティーに行っている前に出て行かなければならない。二人の仲に気付いたリリーは嫉妬の余り金庫から10万フランを盗み出す。しかしマリエットはパーティーでフランソワからガストンの正体を聞かされ急いで帰宅する。逃げられなかったガストンは自分が10万フランを奪ったと告白する。そして自ら警察に電話をかけようとする、会社の粉飾決算のことで。マリエットは社会的信用を守るため、ガストンを警察に突き出さないことにした。そこに現れたリリーは10万フランを盗んだのは自分だと告白し、愛していたガストンにこれぐらい上げなさいと言い捨て出て行く。ガストンも最後の挨拶に、あなたとの情事は楽しかった、紛失物はこれですねと言って、真珠のネックレスをリリーへのプレゼントとして貰っていく。
マリエット宅からタクシーにガストンとリリーは乗った。ガストンはリリーに真珠のネックレスを上げようと懐を探るが、どこにもない。すでにリリーがチャッカリそれを持っていた。それどころか高価なバッグも盗んでいた。しかしリリーが盗んだ10万フランを探してもどこにもない。それはガストンがチャッカリ掏り取っていた。現金84万フランは諦めたが、それで良しとしよう。
雑感
主演の二人、ハーバート・マーシャルとデコッ八のミリアム・ホプキンスはルパン三世と峰不二子のようだが、未亡人を演じるケイ・フランシスの魅力にハートを盗まれたのはルパン三世の方だったのかも知れない。
香盤(キャスティング序列)ではミリアム・ホプキンスの次にケイ・フランシスがいて、三番目にハーバート・マーシャルがいる。しかし内容的にはハーバート・マーシャルが字体が大きくなる主演の筈であり、ミリアム・ホプキンスが二番手左、ケイ・フランシスが二番手右だろう。
実はギャラの最も安いミリアム・ホプキンス(当時29歳)が序列でゴネて週給1750ドルながら序列トップを選び、ベネチアのシーンで全く出番の無かったケイ・フランシス(当時27歳)が最も高い週給四千ドル(六週間保証付)を取り、42歳で常勤ハーバート・マーシャルが週給3500ドルで三番手を引き受けた。
イケメンだったのでファンにしばらく秘匿されていたが、ハーバート・マーシャルは第一次世界大戦で片足を失って義足だった。したがってアクションシーンにはスタントマンが使われている。
「恋の極楽特急」は小島麻由美のセカンド・シングル(1995.11)のタイトル。傑作アルバム「セシルのブルース」にも含まれていた。フレンチ・ポップ風歌謡曲を歌っていた小島にぴったりの曲調で、その名の通り、この映画の続編的な歌詞だ。小島麻由美は歌手として野宮真貴在籍時のピチカート・ファイブからの流れにいたが、彼女の方がセンスがよろしい。この映画も以前どこかで見たのだろう。
スタッフ
監督 エルンスト・ルビッチ
原作戯曲 ラスロ・アラダール
脚本 グローヴァー・ジョーンズ
脚色 サムソン・ラファエルソン
撮影 ヴィクター・ミルナー
キャスト
女泥棒リリー ミリアム・ホプキンス 「ジーキル博士とハイド氏(1932)」
怪盗ガストン ハーバート・マーシャル 「偽りの花園」
富豪マリエット ケイ・フランシス
少佐 チャールズ・ラグルズ
フランソワ エドワード・エヴァレット・ホートン 「コンチネンタル」「トップハット」
重役ジロン C・オーブリー・スミス
執事ジャック ロバート・グリーグ