新東宝明治天皇三部作の第一弾。日露戦争をテーマにした歴史映画
新東宝社長大蔵貢の原案から渡辺邦男が原作を書き、館岡謙之助が脚色、渡辺邦男が総監督して、共同監督に毛利正樹を起用した。
主演は明治天皇役に嵐寛寿郎、共演は林寛、田崎潤、宇津井健、中山昭二、高島忠夫、若山富三郎。そのほか新東宝オールスター・キャスト。
新東宝シネスコで色彩はイーストマンカラー。

あらすじ

1904年(明治37年)、帝政ロシアの南下政策に日本は脅威を感じる。それまで開戦の国民生活に与える影響を考え慎重だった明治天皇は、ロシアが満州だけでなく大韓帝国の北緯39度線まで中立地帯とする提案に、日本の安全保障に大いに支障をきたすとして、2月初旬ついに開戦のご英断を下された。

陸軍は仁川から満洲へと進撃を開始した。一方海軍は、古い艦船を沈めて旅順港にいるロシア旅順艦隊を閉じ込めるため、第一次閉塞隊を送り込むが失敗する。続く第二次閉塞隊は成功するが、指揮官広瀬少佐が沈む艦と運命を共にする。黄海大海戦でロシア艦隊の旗艦を沈めるが、日本も3隻もの軍艦を失う。

陸軍は鴨緑江や南山要塞でロシア部隊を倒す。旅順港攻略については海軍が苦戦していたので、陸軍乃木希典大将が第三軍の指揮を取り、敵将ステッセルの守る旅順要塞を攻撃するが落とせない。乃木将軍の長男も戦死した。第一回総攻撃は、新兵器の機関砲の登場に15000人の犠牲者を出して失敗に終った。
一方、大山元帥が率いる第一軍は遼東半島の中心地遼陽を攻撃し、8月31日静岡第34連隊橘少佐の活躍で陥落に成功した。

バルチック艦隊は10月になってバルト海から極東に向かって出発したが、日英同盟によりスエズ運河を通れないため、アフリカ南端喜望峰を通って日本海に向かってくる。バルチック艦隊が到着する前に旅順を落とさなければならない。
乃木大将更迭を奏上するも明治天皇は拒否して、11月3日乃木大将の第三軍は旅順203高地総攻撃を敢行するが、乃木将軍の次男保典をはじめ全員が戦死する。

しかし1905年1月に遂に陥落させることに成功し、旅順を開場した。水師営で乃木大将とステッセル元帥は会見し、旅順攻防戦の停戦条約を締結する。さらに奉天大会戦で遂に3月10日陸軍は奉天をロシアのクロパトキン大将の手から解放した。

一方、ロシアのバルチック艦隊は10月になって極東に向かって出発し、翌年5月27日東郷平八郎司令官が乗る三笠を旗艦とする連合艦隊と対馬海峡で衝突した。連合艦隊は左回頭作戦によって敵司令官ロジェストヴェンスキー中将が乗る旗艦「クニャージ・スヴォーロフ」を沈め、ついにはバルチック艦隊を壊滅させた。海戦勝利を祝う提灯行列は夜通し続いた。

 

雑感

大倉貢社長が製作総指揮及び原案を作って経営的苦境に落ち込んだ新東宝を(一時的にしろ)財政的に救った作品だ。
日本海海戦勝利を祝うシーンで終わっているのは、映画としては都合の良い終わり方である。

日本の活躍でロシアに圧迫されていた諸国で立憲民主主義の導入を急ぐものが多くなった。中華民国辛亥革命然り、ベトナム、インド、インドネシア、イランなどである。

ところが、セオドア・ルーズベルト大統領による仲介で9月5日のポーツマス条約を調印した日には、戦争賠償金を取れないことを不服として「日比谷焼打事件」が発生し、戒厳令が発せられる。同様の事件は神戸、横浜でも起きた。

敗戦国ロシアでも1905年1月「血の日曜日事件」(首都サンクトペテルスブルクでの宮殿への平和的デモに対して軍隊が発砲した事件)が起きた上、敗戦後は「戦艦ポチョムキンの叛乱」が起きた。20世紀に入ってなお絶対王政を継続するロシア皇帝に対して民心が離れ出して、赤軍活動が始まっていた。
このようにアジア諸国において様々な影響を残した戦争だった。

映画としては帝の短歌を朗じて、エピソードを繋ぐのはシリーズ第二弾「天皇・皇后と日清戦争」と同じ。ただ広瀬少佐や橘少佐、乃木大将のご令息の殉死エピソードを織り込んでいたが、「天皇・皇后と日清戦争」と比べると地味だった。あくまで中心は旅順攻防戦だとか日本海海戦だった。そこが掘り下げの足りなかったところだ。

 

日本の小火器(銃器)不足は太平洋戦争まで続いてしまい、機関銃が足りないとみるや、進軍喇叭を吹いて軽武装の歩兵が突進するのはお家芸だけど、こんなことをやっても日本より人口が多い国に勝てるわけがないだろう。歩兵第一主義は辞めて欲しい。

スタッフ

製作委員長・原案  大蔵貢
企画  野坂和馬
原作  渡辺邦男
脚本  館岡謙之助
監督  渡辺邦男、毛利正樹
撮影  渡辺孝
音楽  鈴木静一

キャスト

明治天皇 嵐寛寿郎
伊藤博文(元老、枢府議長) 阿部九洲男
山県有朋(元老、元帥後に参謀総長) 高田稔
松山正義(元老) 武村新
井上馨(元老)   藤田進
桂首相(陸軍大将)  岬洋二
山本海相(海軍大将)  江川宇礼雄
寺内陸相(陸軍大将)  広瀬恒美
大山元帥(参謀総長、後に満州軍総司令官) 信夫英一
児玉大将(参謀次長、後に満州軍総参謀長) 芝田新
伊東大将(軍令部長)    中村彰
伊集院中将(軍令部次長)  沼田曜一
東郷中将(連合艦隊司令長官後に大将) 田崎潤
島村少将(連合艦隊参謀長後に司令官) 丹波哲郎
秋山大佐(連合艦隊参謀) 明智十三郎
加藤少将(後に連合艦隊参謀長) 若杉英二
広瀬少佐(旅順閉塞隊指揮官)  宇津井健

乃木大将(第三軍司令官) 林寛
乃木保典(乃木大将次男) 高島忠夫
伊知地少将(第三軍参謀長)  中山昭二
山岡少佐(第三軍参謀、軍使)  江見俊太郎
橘少佐(静岡連隊)  若山富三郎
近衛兵C 御木本伸介
戸水博士 龍崎一郎
代議士 天知茂
岡沢侍従長 細川俊夫

 

 

 

 

 

 
明治天皇と日露大戦争 1957 新東宝製作・配給 アラカンの明治天皇シリーズ第一弾

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