早稲田松竹と言うと学生街にある老舗の名画座であるが、思い出がある。
35年ぐらい前、西早稲田に住んでいたときに、「シビルの部屋」と「ビリティス」を併映していたのだが、3~4人しか客がいない。そのうえ、婆さんがスナック菓子をボリボリ音を立てて食べている。雰囲気台無しである。客席も汚くて、次第に廃れていき、毎週変わる演目も冴えなくなった。そこで銀座文化2(現シネスイッチ銀座)など銀座有楽町の名画座へ主戦場を変えたことがあった。
実はこの映画館は松竹の関係会社ではなく、公認会計士迫本栄二氏の会社「松竹映画劇場株式会社」の所有である。映画会社の松竹の資本は入っていない。
ただし松竹の社長は弁護士迫本淳一氏であり、松竹の城戸四郎元会長の孫でお二人はご兄弟である。上が淳一氏、下が栄二氏だ。
松竹映画劇場株式会社は、渋谷松竹跡の渋谷西武の底地を所有している財産管理会社で純資産250億円に達する同族会社である。
地価が上がってきたんだから、早稲田松竹なんていつ売り飛ばしても良かったのだ。
早稲田松竹は今世紀に入って、名画座でなく少し前のロードショー番組を上映する「見逃し専門映画館」になっていた。
ところが、5年ほど前からラインアップが変わり、一月に一度ぐらいはクラシック映画や非英語洋画を上映するようになった。
ずいぶん綺麗に様変わりしたから、設備投資もしたようである。
おそらく、社長が本業(銀座の税理士法人)を番頭さんに任せていて悠々自適の生活をして、急に文化的名誉を求めるようになった。
そこで映画館を建て直そう、そのために映画史に明るい、松竹出身の支配人を置き、松竹洋画部から良い写真を卸してもらっているのではないかと思う。
それは良いことなので、どんどんやっていただきたいと思う。少々のことをしても、250億円の純利益は飛ばない。これ以上儲けても、相続税が掛かるだけである。そんなことは百も承知だろうが。