市川崑監督と和田夏十脚本が描く泉鏡花の妖艶なロマンチシズム。
淡島千景が珍しく主演して、山本富士子、若尾文子という二大大映女優と絡む。
明治時代の日本橋元大工町。
お考ときよはは日本橋で長年競い合う売れっ子芸者。
海産物問屋を経営していた五十嵐はきよはに振られたところを、お考に不憫に思われ拾われるが、やがて追い出され家屋敷も家族も失う。
医学者の葛木も身持ちの堅いきよはに振られるが、お考と偶然出会い愛し合う。
五十嵐はそれが恨めしい。
葛木は五十嵐にお考と後生だから別れてくれと懇願されて、葛木は去って行く。
しかしその日からお考は気が触れてしまう。
ややホラー風味がある部分は泉鏡花の世界である。
また花柳界も泉鏡花の得意とした分野。
何しろ奥さんが芸者さんだから。
しかしこの映画は泉鏡花よりも淡島千景の美を描いた作品である。
彼女の気っぷの良さがもっとも良く出た映画だと思える。
山本富士子でさえ江戸っ子の淡島の前では当て馬になってしまう。
なぜこういう映画を大映で撮れて、東宝で撮れなかったのか?
やはり女優力のちがいだろう。
1950年宝塚退団後、松竹に入社して当時は32才で脂がのりきった時期だ。
フリーになっていたのか各社映画に引っ張りだこだった。
そういう一番美しい時期に、江戸っ子にしかできない艶技を見せてくれた。
二年後には「喜劇駅前旅館」に出演しているから、東宝に移籍したようだが、プロパーでなかったためか主演をめったに張れなくなってしまった。
しかし1961年の「妻として女として」だって森雅之の正妻を演じ愛人の高峰秀子とぶつかる演技を見せたのだ。
惜しい女優をなくしたものだ。
死後、噂されている借金騒動も女優業に命をかけていたからこその勲章である。
どうせ周囲の人間が借金を膨らませたのだろうし、債権者も彼女に金返せとは言えなかったのだろう。
あと一つ、柳永二郎が松竹から客演している。
柳と言えば1952年の「本日休診」で町医者として主演していた。
そのとき、淡島千景は角梨絵子より目立たない役で出ていたと思う。
「君の名は」「真実一路」もそうだけど、松竹映画では淡島千景の素晴らしさは出なかった。
監督 市川崑
脚色 和田夏十
原作 泉鏡花
企画 土井逸雄
製作 永田雅一
撮影 渡辺公夫
出演
淡島千景 (おこう)
山本富士子 (きよは)
若尾文子 (千世)
品川隆二 (葛木)
柳永二郎 (五十嵐)
船越英二 (巡査)
永遠のセルマ・リッター
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