カルメン第二弾「カルメン純情す」を演出した木下恵介が脚本・監督とも担当し、戦後にすれ違う親子の悲劇を描く作品。
主役は望月優子、共演は桂木洋子田浦正巳、上原謙、高杉早苗、高橋貞二、佐田啓二。白黒映画。

あらすじ

春子は、熱海の旅館「伊豆花」で女中として働いている。彼女は戦争未亡人であり、終戦の混乱期に歌子と清一ちう思春期を迎えた子供たちを義兄夫婦に託し、かつぎ屋から酌婦(曖昧屋と当時は呼んだ)にまで身をやつし、自宅の地所も義兄夫婦に奪われた。
いまは、娘歌子を洋裁学校と英語塾に通わせて、息子清一を医大に通わせていて、春子自身も蓄えが出来た。しかし子供二人は母に冷めたかった。というのも泣く泣く叔父夫婦の元を逃げ出して母親の元へSOSを訴えに来た二人が、母と客との酔態をかいまみたことで母親に対する根深い恨みとなっていたからだった。歌子は、当時従兄弟に犯されたが、そんなことは誰にも打ち明けられなかった。中年の英語教師赤沢は、そんな歌子に想いを告げるが、妻霧子にバレて歌子は嫌がらせを受ける。
一方清一は、戦争で息子を失った病院長に養子として望まれ、籍を移すことを認めてくれと言う。春子は反対するが、親の恩を実感しない子供らは春子に冷たくなる・・・。

雑感

すでに歌子(桂木洋子)が洋裁学校に入り、清一(田浦正巳)は医大に通っているところから映画は始まるが、戦後すぐの親子が別々に暮らすシーンをランダムにフラッシュバックで見せて、過去に何があったか観客に見せる手法を取っている。

結局は、親子の行き違いなのだが、叔父親子のそばで塗炭の苦しみを味わった子供たちは母親(望月優子)の舐めた苦労がわからず、母親を売春婦のように思い込んでいる。
戦後は、どこにでもこう言う話はあった。親子が離反して30年も経ってから親のありがたみが身に染みて、桂小金治が司会する日本テレビ系バラエティ番組「それは秘密です」の視聴者再会コーナーで子供が親を探してもらうことがあった。しかしその親は亡くなっていた。「孝行したいときに親はなし」とよく言ったものだ。
今のうちに平和のありがたみと親に対する感謝をしっかり感じてほしい。いつ、この平和が崩れるかわからないのだから。

短期だが気の良い板前役の高橋貞二と売れない流し役の佐田啓二がこの映画の唯一の救いである。

 

スタッフ

製作  小出孝、桑田良太郎
脚本、監督  木下惠介
撮影  楠田浩之
音楽  木下忠司

 

キャスト

井上春子  望月優子
娘歌子  桂木洋子
息子清一  田浦正巳
赤沢正之  上原謙
妻霧子  高杉早苗
娘葉子  榎並啓子
佐藤  高橋貞二
艷歌師達也  佐田啓二
一造  日守新一
妻すえ  北林谷栄
長男勝男  草刈洋四郎
芸者若丸  淡路恵子
岩見  柳永二郎
藤田  須賀不二男
闇屋風の男  多々良純

 

***

春子は、株式相場で大穴を開けてしまう。春子が歌子に無心すると、何もかも嫌になった歌子は愛してもいない中年赤沢と岡山に駈落ちする。がっくり来た春子は上京し、病院長宅に住み込む清一に相談しようとしたが、息子は戸籍を抜くことに拘った。春子は、あきらめて養子の件を承知した。春子は、東京からの帰り道、湯河原駅のホームから列車に身を投げて死んだ。

 

 

日本の悲劇 1953 松竹大船製作 松竹配給 戦後悲劇の傑作映画

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