字幕を担当した芥川賞作家池澤夏樹も言っていたが、貧しい旅芸人一座の立ち回る先で起こる小事件を通して、1939年から1952年までのギリシャの歴史超長回しの映像で語っている。
テオ・アンゲロプーロス自身によると、1974年当時のギリシャが王権政治から民主政治に移行したが、52年体制と同じく政権を右傾化させたことに他ならないことを、この映画は暗に批判しているそうだ。
先ずギリシャの歴史を学習しよう。
ギリシャは紀元前からマケドニアの支配を受け、その後ローマ帝国領になり、ローマ分裂時は東ローマ帝国に属し、ついでにオスマン帝国に征服される。その影響か、オスマン帝国支配下におかれた地域の人種の違いがわからない。具体的にはギリシャも旧ユーゴも区別がつかない。
19世紀にトルコから支配権を奪い返して共和制を敷くが、3年ほどで破綻。一旦王国となり80年余り続くが、20世紀に入って再び共和政が敷かれる。その後、第二次世界大戦に突入する。
ギリシャと朝鮮半島(韓国)は似ている。それは共産主義に対する砦にするため、英米が極右政権を容認したことだ。
第二次世界大戦では、ギリシャがドイツに占領されてあとは、ドイツ軍が管理していた。パルチザンを除いては、比較的順応していたようだ。
1944年に英国軍が入って解放した後は、英国軍とギリシャ秘密警察が暗躍して、パルチザンや共産党と戦った。
1946年には武装解除命令が発せられるが、共産党系のパルチザンは長く山にこもってギリシャ内戦を続けた。それも1949年ごろ、軍が勝利し、民衆は右翼により抑圧された状況に置かれ、政治における左右の対立は続いた。そして52年にパパゴス元帥が総選挙によって民主的に右翼政権を樹立ことに成功する。このようにギリシャの歴史はごく共和制の時期を除いて、常に封建的である。自由主義的な時期は国情が不安定になってしまう。
一方、2018年5月現在、韓国と北朝鮮はいまだに戦争状態が続いている。しかし韓国の経済力が強いため、ある程度の自由が認められ左派政権も生まれた。
その辺りがいまだに経済が弱いギリシャとの違いである。
登場人物は、次の通り。
旅芸人の一座には父(座長)、母、長女エレクトラ、次女とその息子、長男オレステスの一家さらにピュラデス、老人の男女、詩人、アイギストスがいた。アイギストスだけはナチス崇拝者だ。
あらすじは途中で何度も時系列を往来していて多少複雑だ。また説明するための長いモノローグも挿入される。だから、ここではわかりやすくするため、敢えて時系列順に並べる。
1939年、まだギリシャが参戦していない状況だ。一座の唯一の出し物は「羊飼いの少女ゴルフォ」。ゴルフォ役はエレクトラで、相手役はオレステスが演じている。その夜、アイギストスと母の密通の場を見てしまう。オレステスが兵役にとられた後、自由主義者のピュラデスが後を引き継ぐが、アイギストスの密告により秘密警察に逮捕される。
1940年10月、ギリシャは侵入したイタリアと衝突し世界大戦に参戦した。父は母に予備役に参加したことを誇るが、母に嘲笑されたため殴って出て行く。その後からアイギストスが母の寝室に入っていく。
1942年、前年にギリシャはドイツに占領されており、パルチザンに参加したオレステスの代わりに父を銃殺刑に処する。
1944年春、一行はドイツ軍に捕まり銃殺されそうになるが、パルチザンの攻撃が始まり、難を逃れる。ドイツはギリシャから撤退し、国民統一政府が樹立される。
1944年12月、イギリス軍が駐留しており、反王党派を掃討するため、血の日曜日事件を起こす。
1945年1月、山岳地帯で公演中にパルチザンであるオレステスが銃を持って乗り込み、(まるでハムレットのように)アイギストスと母を射殺して去る。オレステスを追う秘密警察はエレクトラを犯し彼の居場所を問い質す。
1945年2月、ヴァルキザ合意が成立し、パルチザンは期限までに武装解除をするならば罪を不問に付すことになる。しかしオレステスらは山を降りてこなかった。
1949年、オレステスがイギリス軍によって逮捕される。
1950年、ピュラデスは転向したため、釈放される。妹が米兵と結婚するが、式場から息子は無言で去る。
1951年、オレステスの死刑が執行され埋葬する。
1952年、パパゴス元帥の選挙カーが回ってきて町ではうるさい。妹の息子タソスが成長してゴルフォの新たな相手役になる。
そして1939年のシーンに戻って、歴史は繰り返されるというわけだ。
感想としては「明日は我が身」と言うことだ。日本は韓国がいるから、左右の対立が比較的少ない。しかし韓国と北朝鮮が手を結んだらどうなるのか?
ギリシャの歴史は左派が強くなるにつれ、右派が警察力を使い血みどろの争いが始まることを示唆する。
人々の不幸は左派に属し自由を求めたことだ。旅芸人みたいな最下層にいなければならない人々は左派に属することは心情的に分かる。
でも彼らも今は、「あの頃は良かった、現代こそ不幸だ」と思っているだろう。それだけギリシャの闇は深い。
4時間近い映画なので半年ほど放置したが、思い切って見て良かったと思う。
たしかにロングショットだけには飽きた。もう少しカットしても良かったと思う。でも映像作家とはこういう人のことを言うのだ。
監督 テオ・アンゲロプロス
脚本 テオ・アンゲロプロス
製作 ヨルゴス・パパリオス
音楽 ルキアノス・キライドニス
撮影 ヨルゴス・アルヴァニティス
編集 タキス・ダヴロプロス、ヨルゴス・トリアンダフィル
出演
エヴァ・コタマニドゥ (エレクトラ)
ペトロス・ザルカディス (オレステス)
ストラト・スパキス (父アガメムノン )
アリキ・ヨルグリ (母クリュタイネムストラ)
マリア・ヴァシリウ (妹クリュソテミス )
ヨルゴス・クティリス  (その息子 )
キリアトス・カトリヴァノス  (ピュラデス )
グレゴリス・エヴァンゲラドス  (詩人)
ヤニス・フィリオス (アコーディオンの老人)
ヴァンゲリス・カザン (アイギストス)
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