映画「釈迦」に続き、大映大作路線第二弾として、紫式部平安王朝文学を翻案し「週刊文春」に連載した川口松太郎の同名小説を、八尋不二が脚色し森一生が監督、本多省三が撮影した。
主演は市川雷蔵寿美花代
共演は若尾文子、中村珠緒、水谷良重、中田康子。カラースコープ映像。

あらすじ

身分は低いが、帝の寵愛を受けた桐壷の更衣は、皇子を生んで周囲の妬みもあって間もなく亡くなる。皇子は臣籍降下させられ、源氏の姓を賜り、光源氏と呼ばれるようになる。光源氏は持って生まれた美貌で宮中の人気者に育ち、浮名を流す。
光源氏は、左大臣の娘である葵上を正妻に迎えて、大きな後ろ盾を得る。しかし光源氏は、父親である帝の側室で母そっくりの藤壷君と出会ってしまう。母親の顔を知らない光源氏に、藤壷は愛おしい存在だった。光源氏の従者である惟光は藤壷付き女房の王命婦と示し合わせて、光源氏を藤壷に会わせる。既に六条御息所らで女性経験は豊富であった光源氏に抱かれて藤壷は恍惚となるが、それも一時のことで妊娠した藤壷は、帝に対して背信の罪に苛まれる。

弘徽殿の女御は、かつて帝の寵愛を一身に受けたことがあったが、最近は藤壷ら若い女御に押されている。
藤壷が出産するが、あまりに光源氏と似ていたので父親は源氏の君でないかと噂が立つ。
弘徽殿の女御は、この機会に藤壷と光源氏の失脚を、兄である右大臣とはかった。右大臣の娘朧月夜は、叔母と父の企みを聞き知ってしまった。東宮の妃になることが内定している朧月夜は、恋い慕う光源氏の窮地を救うために、光源氏を几帖の中で強引に押し倒し、藤壺と会うのを邪魔する。

帝は藤壷が皇子を産んだことを歓び、退位後は東宮にし、後見人は光源氏に命ぜられる。父親を騙している光源氏は落ち込み、気晴らしに遠乗りをした光源氏は、さほど器量の良くないが理知的な末摘花と出逢い、一風変わった接待を受ける。

気の晴れた光源氏は初めて葵上と安らいだ時間を過ごし、葵上は姙った(みごもった)。葵祭の日に、先を急ぐ葵上の牛車は六条御息所の網代車と衝突して車の轅(ナガエ)を折る。かつては東宮の寵愛も受けた六条御息所は、口惜しさのあまり生霊となって葵上を呪い苦しめた。葵上は男子を産んだ後、産後の肥立ちが悪くて亡くなってしまう。

やがて父帝も崩御し、代わって朱雀帝が即位した。右大臣が左大臣を飛び越えて太政大臣となり、光源氏にとっては冷や飯を食う厳しい日々が始まった・・・。

雑感

「源氏物語」の映画化と違い、その翻案小説が原作だからかなり順番や地位が変わっている。時間経過もわかりにくい。

何より変なのはキャスティングだ。宝塚歌劇団男役の寿美花代をヒロイン桐壷/藤壷に起用している。若尾文子の方が適役だと思うが、時間的都合がつかなかったのか。
寿美花代は宮廷女性らしい所作が苦手だった。扇で顔を隠すところは、ぎこちない。おそらく準備期間が短かったのだと思う。宝塚なら日本舞踊は必修だから、本質的に所作が苦手とは考えにくい。

映画は失敗した。数年前の長谷川一夫、山本富士子、市川雷蔵出演、衣笠貞之助監督作品「源氏物語・浮舟」(源氏物語後半の宇治十帖から選ばれた作品)が非常に良い出来だっただけに、期待外れとなってしまった。
結局、これを最後に寿美花代は映画に出演していない。よほどトラウマを与えたのか。芦屋のおばちゃんの役で出演して欲しかった。

六条御息所の配役(中田康子)に政治色を感じる。中田康子は大映永田雅一社長の愛人だったからだ。しかし中田康子は、その批判を肌に感じていたはずで、思い切った名演であった。葵上(若尾文子)と六条御息所の女の争いに絞って描いた方が、良くなったかもしれない。

帝を演じた市川寿海は、関西歌舞伎の重鎮で市川雷蔵の養親である。本来は松竹に所属する寿海は初めて養子雷蔵と共演した。
六条御息所の娘役を演じた長谷川彰子は、長谷川一夫の次女で15歳だった。のちに長谷川稀世と名を改めている。
藤村志保もモブとして登場している。

スタッフ

製作 永田雅一
企画 鈴木晰成、久保寺生郎
原作 川口松太郎
脚色 八尋不二
監督 森一生
撮影 本多省三
音楽 齋藤一郎
美術 西岡善信

キャスト

光源氏  市川雷蔵
桐壺/藤壷  寿美花代
葵上  若尾文子
朧月夜  中村玉緒
末摘花  水谷良重(二代目水谷八重子)
若紫  高野通子
秋好姫(伊勢斎宮)   長谷川彰子(稀世)
弘徽殿女御(中宮)  水戸光子
六条御息所  中田康子
頭ノ中将  川崎敬三
朱雀帝  成田純一郎
兵部郷ノ宮  三田村元
惟光  大辻伺郎
右大臣(後の太政大臣)  千田是也
按察の北ノ方  阿井美千子
弁  藤原礼子
王  倉田マユミ
北ノ方  三宅邦子
竜田  橘公子
承香殿の女御  毛利郁子
左大臣  丸山修
東宮(子役)  島一男
弘徽殿女房  谷口和子
葵上女房   藤村志保
帝  市川寿海

ネタばれ

光源氏は、拉致して来た若紫の成長を毎日見て楽しんだ。しかし光源氏との情交を忘れられない朧月夜は、今や朱雀帝の妃となっていたが、藤壷の元に忍び込もうとする光源氏を見つけ几帳の中に引ずり込む。その現場を今は中宮になった弘徽殿の女御に見つかってしまう。
光源氏はその場を逃げ出すが、再び懲りもせず藤壺を訪ね、愛し合う。しかし翌日、藤壷は東宮となった幼い我が子を捨てて仏門に入る。覚悟を決めた上で光源氏に抱かれたのだ。
光源氏は朱雀帝の怒りを買い、京を捨てて須磨明石へ居を移す。

 

 

 

 

 

新源氏物語 1961 大映京都製作 大映配給 市川雷蔵・寿美花代主演の王朝絵巻

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