映画「愛の讃歌」は山田洋次が、フランスの文学者マルセル・パニョルの名作「マリウス」「ファニー」「セザール」のマルセイユ三部作を1時間30分余りにして瀬戸内海の小島に翻案したものを自ら映画化した。エディット・ピアフとは関係ない。
ハリウッド映画版と松竹の配役を比較すると、
ファニー: レスリー・キャロン 倍賞千恵子
恋人マリウス: ホルスト・ブッフホルツ 中山仁
恋人の父セザール: シャルル・ボワイエ 伴淳三郎
パニス: モーリス・シュバリエ 有島一郎
が演じている。
ちなみに山田洋次監督はこの原作を、「マリウス」という題で2017年に舞台音楽劇として再演している。
あらすじ
瀬戸内海の小島に、食堂待帆亭がある。千造と息子竜太、そして竜太の恋人春子がで働いていて、いつも賑わった。ある日竜太がサンパウロに憧れて旅立った。千造は怒り、既に竜太の子を宿していた春子は、小島の医師伊作の診療所で男児竜介を出産した。竜介に同情した伊作は養子として籍に入れ、春子や彼女の二人の妹を引き取った。千造は息子の便りを待っていたが、ついに病に倒れる。そんなある日、夢破れた竜太が、突然島へ帰ってきた。しかし、伊作とともに暮している春子を見た竜太は、再び大阪に去っていった。伊作は千造が亡くなった時、春子と竜介を竜太の許にやる決心をする。春子は竜太を愛していたが、伊作の恩との板ばさみに苦しむ。春子が島を出る日、島民は集まり、見送ってくれた。春子は伊作の顔を見て涙を流さずにいられなかった。
雑感
残念ながら、この「愛の讃歌」はイマイチ評価が低い。中山仁の役柄がいつまで経っても大人になりきれない奴だからだ。最後に中山仁をもう一度出演させて「済まない親父」と一言泣いて詫びさせたら観客も満足したと思う。そうしなかったのは、先の読めるお涙頂戴劇にするのが嫌だったのだろう。
しかし東宝軍団とも言うべき伴淳三郎、有島一郎、千秋実、渡辺篤や日活寄りの小沢昭一、大映寄りの北林谷栄を相手にする他流試合で、倍賞千恵子の26歳にして堂々とした演技は大女優の風格さえ感じさせた。
中山仁は早稲田の政経を中退後、文学座養成所から劇団NLTに入団し、同時にテレビデビューを果たす。映画でも67年だけで7本も出演する売れっ子となり、69年から始まったテレビ「サインはV」牧コーチで岡田可愛とともにお茶の間の人気者になった。
彼は杉村春子の文学座から右派が分裂をしていた頃、養成所に入っている。まず福田恆存グループが退団し、劇団雲を作ってやがて演劇集団円に分裂する。また三島由紀夫中心の劇団NLTが文学座から独立が、賀原夏子に乗っ取られフランス風喜劇を演じるようになる。三島由起夫一派は新しく浪漫劇場を作るが、三島が割腹自殺してから二年後に解散。
中山仁は三島派の人でしたが、三島が死んで他のメンバーが演劇集団円に吸収されたのに、中山は敢えてテレビに出演する。離合集散に飽きたあるいは冷めたのだろうが、もう少し舞台に欲を持って欲しかった。
スタッフ・キャスト
監督 山田洋次
製作 脇田茂
原作 マルセル・パニョル(「ファニー」永戸俊雄訳)
脚本 山田洋次 、 森崎東
撮影 高羽哲夫
音楽 山本直純
配役
立花春子 倍賞千恵子
亀井竜太 中山仁
亀井千造 伴淳三郎
吉永伊作 有島一郎
船長 千秋実
備後屋 太宰久雄
千家五平 渡辺篤
郵便屋 小沢昭一
おりん 北林谷栄
ハツ 桜京美 (「アイ・ラブ・ルーシー」の吹替)