ジョン・ハウスマンが製作にあたり、ヴィンセント・ミネリが監督した作品。ハリウッドの舞台裏を描くジョージ・ブラッドショウの原作をチャールズ・スクニーが脚色した。撮影はロバート・サーティース。
主演はのラナ・ターナー、カーク・ダグラス、共演はディック・パウエル、ウォルター・ピジョン、バリー・サリヴァン、グロリア・グレアムら。
この作品は1952年アカデミー賞で、脚色賞、助演女優賞(グロリア・グレアム)、撮影賞、美術賞、衣裳デザイン賞を受賞した。
あらすじ
ハリウッド監督のフレッド・アミエル、大女優ジョージア・ロリスン、ピューリッツァー賞を受賞した脚本家ジェームズ・バートローに、パリ在住のジョナサン・シールズから長距離電話がかかってきたが、彼らは相手にしない。
その夜、3人はシールズ・プロのハリーに呼ばれ、ジョナサンが2年ぶりの映画を制作するために3人の協力を求めていると伝える。しかし3人にはジョナサンに関わる苦い思い出があった。
18年前フレッドは、映画製作者だった彼の父ヒューゴー・シールズの葬式の日に彼と出会った。フレッドは監督志望の映画青年であり、製作意欲に燃えるジョナサンと同僚になる。二人は、B級映画製作者だったハリーの元で働き、1年で11本の映画を製作し、そのうち8本はフレッドが監督だった。ジョナサンはB級作品に飽き足りずフレッドが原案を練った、小説「遥かなる山」の映画化を企画して、共同脚本に没頭した。ハリーは作品に出資するが、もし失敗すればこの業界で仕事はできないと言った。しかし制作直前になって、ジョナサンが別の監督を起用したので、フレッドとは喧嘩別れする。その後、独力でフレッドは監督になり、2度のアカデミー監督賞に輝いた。
ジョージアは有名俳優の娘だったが、そのことがプレッシャーとなって、女優として大成しなかった。ジョナサンは彼女のことを幼い頃から知っていて、いつも気にかけていた。ジョナサンは彼女に小さな役を与え、自信をつけさせようとした。そしてジョナサンは周囲の反対を押し切り、ジョージアを次回作主演に起用する。クランクインの前日、彼女は緊張感から酒に逃げてしまう。ジョナサンは彼女を探し出してプールに突き落として雷を落とす。彼女が部屋に着替えに入った後で、主役女優交代を確認する電話がかかってくる。ジョナサンはジョージアが自室でその電話をとった音を聞いた上で、主役はジョージアだと断言した。彼女はジョナサンに愛情を抱いたが、ジョナサンが彼女に求めたものは父親から譲り受けたスター性だった。ジョージアは他の女ライラと付き合っていることを知り絶望を覚える。それでもジョージアはこの7年の間、人気女優のベストテンに選ばれていた。
脚本家ジェームズは3年前の1949年にジョナサンと会った。小説処女作を出版して、2冊目を書いていた彼はジョナサンから脚本家として招かれる。一時は断るが、ミーハーな妻ローズマリーの願いでハリウッドに出発する。ジョナサンはジェームズに「誇らしき土地」のシナリオを引き受けさせたが、処女作が7年かかったのはローズマリーが邪魔をしたからと知り、ジェームズを静かな湖畔で仕事に集中させ、その間ローズマリーは人気俳優ガウチョとの情事に耽っていた。脚本は完成したがローズマリーはガウチョと共にメキシコ行き飛行機の事故で亡くなる。さらに映画「誇らしき土地」も監督とジョナサンが衝突してお蔵入りになってしまう。腹いせにジョナサンはガウチョがあのとき飛行機で行かなかったらと喋ってしまう。そのときジェームズはジョナサンが妻とガウチョの情事を仕組んだことを知る。ジェームズはジョナサンのおかげで生活を滅茶苦茶にされたが、仕事に専念したためにピューリツァー賞を受賞していた。ジョナサンは「誇らしき土地」の製作に失敗してから、パリに渡っていた。
最後にジョナサンからハリーに長距離電話がかかって来た。正式に3人に仕事をオファーするが、彼とはもう真っ平と断って、立ち去ろうとする。しかし何故か気になる彼の話に3人は別室で電話の声を立ち聞きしてしまう。
雑感
序列順はMGMのスターであるラナ・ターナーが筆頭だが、カーク・ダグラスが実質的主演である。おそらくターナーとはギャラを安くする代わりに出演者筆頭を得て、ダグラスはギャラの上乗せを要求したのだろう。ダグラスは全編に渡って出演し、制作者としての鬼気迫った演技を見せる。
「サンセット大通り」や「イブの総て」(ともに1950)と同時期に作られた映画界の裏幕暴露映画だが、この映画は製作者入門にもなっている点が素晴らしい。
製作者になるためには、第一に脚本家出身であるか脚本を読み解けること。日本では脚本家が監督になることが多いが、米国では脚本家は製作者を目指している。米国の「助監督」という職種は制作(スケジューリング)を担当していて、いずれは製作者を目指すが、なかなか製作者になれない。
第二に男性ならば女優のご機嫌を取れること、プロデューサーは、もてなければならない。
第三にスタッフが仕事に集中できる環境を用意すること。ときにはスタッフの配偶者を誘惑したり、スタッフの浮気をバレないように工作したり。
ジョナサンのモデルはデビッド・セルズニック、オーソン・ウェルズ、ヴァル・ルートン(B級映画「キャットピープル」製作者)など複数の人物が考えられていて、特定のモデルがいるわけではない。
一方、ラナ・ターナー演ずるジョージアの姿を見てドリュー・バリモアとそっくりと言った人がいたが、名門バリモア家に生まれながら若くして薬物中毒で亡くなったダイアナ・バリモア(ドリューの伯母)がモデルになっている。
レオ・G・キャロルが英国から招聘された監督役で登場するが、モデルはアルフレッド・ヒッチコックである。
ディック・パウエル演じる脚本家ジェイムズのモデルはF・スコット・フィッツジェラルドであり、その妻ローズマリーは彼の妻ゼルダである。ともに制作時点で既に亡くなっていた。彼女のエキセントリックなことは存命中から有名であり、晩年は施設に入っていた。グロリア・グレアムはゼルダを模したローズマリーを演じ切ってアカデミー助演女優賞を得ている。登場時間9分ほどの短さで助演女優賞受賞は当時としては最短記録であった。
この作品を受けて、11年後に同じ製作、監督、脚本、主演で作ったのが、ローマでの監督と俳優の衝突を描く映画「明日になれば他人」(1962)。
スタッフ
監督 ヴィンセント・ミネリ
製作 ジョン・ハウスマン
脚色 チャールズ・スクニー (アカデミー脚色賞)
原作 ジョージ・ブラッドショウ
撮影 ロバート・サーティース (アカデミー撮影賞)
音楽 デイヴィッド・ラクシン
キャスト
女優ジョージア ラナ・ターナー
製作者ジョナサン カーク・ダグラス
ハリー ウォルター・ピジョン
脚本家ジェイムズ ディック・パウエル
監督フレッド バリー・サリバン
ローズマリー(ジェイムズの妻) グロリア・グレアム(アカデミー助演女優賞受賞)
俳優ガウチョ ギルバート・ローランド
ヘンリー・ウィトレッド監督 レオ・G・キャロル
ケイ(フレッドの妻) ヴァネッサ・ブラウン
制作補シド ポール・スチュワート
ガス サミー・ホワイト
無名女優ライラ エレーン・スチュアート
フォン・エルスタイン アイヴァン・トリーソール