自分の腹を痛めた8歳の娘がサイコパスだったという当時としては衝撃的な映画。
原作はウィリアム・マーチ原作の小説。演出家マクスウェル・アンダーソンがブロードウェイで舞台化して大ヒットを飛ばし、「若草物語」のマーヴィン・ルロイが製作と監督を兼ねて、舞台のメンバーを使って映画化した。
したがって至る所で舞台のような演技が見られる。とくに被害者の母親デーグル夫人が主人公クリスティーンに会いにくるところだけ長回しでしっかり撮っていた。その部分の演技が評価されてデーグル夫人役のアイリーン・へカートはゴールデングローブ助演女優賞を受賞している。
Synopsis:
クリスティーンは、出世街道まっしぐらの夫ケネスと8歳の娘ローダに囲まれ、幸せの絶頂にいた。
夫がワシントンに長期出張に出たある日、ペン習字で金メダルを取ったばかりのクロードが遠足中に溺れ死ぬ。付近で娘ローダを見たと言う証言があり、ファーン先生が疑いを持って現れる。ついでクロードの母親デーグル夫人も泥酔して現れる。彼女らはローダとの面会を望むが、クリスティーンは拒否する。
かつて知人が亡くなった時、知人の大切にしていたガラス玉をローダが持っていたのを思い出し、クリスティーンは娘の机を探すと例の金メダルがあった。クリスティーンはこれを隠さなければならないと思った。
クリスティーンの父ブラヴォーが訪ねてきた。この機会にクリスティーンは長年疑問に思っていたことを尋ねた。「私は本当に父さんの娘なの?」父は必死の娘に請われて事実を口にする。「お前は女性でありながら連続殺人鬼だったベッシー・デンカーの娘だ」。実母の血は娘に受け継がれているのか?
下男のルロイは実は鋭く、ローダがクロードを殺したのではないかと粉をかけてみた。するとローダは、凶器を燃やしたから分かるわけがないと口走ってしまう。その後ローダは失言に気づき、ルロイが地下で寝ている時に密閉した上でボヤを起こして一酸化中毒で殺してしまう。
クリスティーンは身近な人間が死んでも感情を出さずピアノのレッスンに励むローダがすべての犯人だと悟り、ローダに睡眠薬を多量に飲ませて殺し、自分も拳銃自殺を図る。
しかしクリスティーンは重傷だが命を取り留め、ローダも発見が早く胃洗浄して無事だった。夫のケネスが帰ってきて、代わりにローダの面倒を見ている。ローダはクロードから奪った金メダルを母に捨てられたので、雷雨の中探しに行く。必死になって探していると、そのとき雷がローダの体を貫く。
Impression:
サイコパスが遺伝するかと言う問題は、難しいが、犯罪性を伴うサイコパスの遺伝は科学的に否定されている。親や祖父母がサイコパスであっても子や孫に遺伝しない。
だがサイコパスの孫にサイコパスが現れても、決しておかしくはないのだ。因果律ではなく結果論だ。
舞台的な映画演出と言うのは、やはり性に合わない。
とくに室内での細かいカットと舞台ばりのセリフが、かっちり合わない感じがする。唯一長回しで見せ場を作ったのが、アイリーン・へカートが主人公ナンシー・ケリーに迫るシーンだった。あそこだけは腑に落ちた。
2011年の夏に夢中になって見たドラマがあった。フジテレビの「それでも、生きていく」だ。瑛太と満島ひかりが主演で少年犯罪の被害者の兄と犯罪者の妹役だった。そして忘れてはならないのが、被害者の母役を演じた大竹しのぶだった。彼女の長回しの台詞に圧倒された。
両者の立場が違うので(デーグル夫人はローダによる過失死を疑っている、それに対して大竹しのぶは犯人が少年院に入れられたあとの満島ひかり(妹)に対する怒りを表現している)演技もまた違っているが、ドラマを見たとき大竹しのぶだったらデーグル夫人をどう演じるだろうと思った。日本でも「悪の種子」を舞台化してほしいものだ。
なお、最後にローダが笑うシーンで終わる原作と違って映画ではラストシーンで天罰により雷に打たれてローダは死ぬ。それだけでなく演劇風のカーテンコールが行われ、最後はナンシー・ケリーがパティ・マコーマックのお尻を打つシーンで朗らかに終わる。
ヘイズコードのため、悪は滅びなければいけないと言うわけだ。
それからパティ・マコーマックのその後だが、天才子役も成長するにつれてただの人になるものだが、パティは違った。子役のうちは仕事に恵まれた。大人の女優への切り替えで躓いたが、長い目で見ては中堅女優として良い仕事をしている。
Staff/Cast
監督 マーヴィン・ルロイ
製作 マーヴィン・ルロイ
原作 ウィリアム・マーチ
脚色 ジョン・リー・メイン
撮影 ハロルド・ロッソン
音楽 アレックス・ノース
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出演
ナンシー・ケリー クリスティーヌ
パティ・マコーマック 娘ローダ
ヘンリー・ジョーンズ 下男ルロイ
アイリーン・ヘッカート デーグル夫人
イヴリン・バーデン 家主モニカ
ウィリアム・ホッパー 夫ケネス
ポール・フィックス 父ブラーヴォ