フランスにいる父のもとに10年ぶりに会いに行った娘ベニーは、父がすでに死んでいるという妄想に取り憑かれるが・・・。
英国の名門ハマー・フィルムがお送りする、モンスターなしのスリラー映画。
アメリカでは、”Scream of Fear” という題名で上映されている。
監督はサスペンス映画「妖婆の家」(1965、白黒)でも知られるセス・ホルト。製作と脚本はジミー・サングスター。
主演は「女優志願」のスーザン・ストラスバーグ、共演はアン・トッド、クリストファー・リー、ロナルド・ルイス。
小人数、低予算の手本のような傑作白黒映画。
あらすじ
母は十年前に離婚してから、娘ペニーを連れイタリアで暮していたが死亡した。さらに最近友人のマギーも溺死した。
孤独に耐えられなくなったペニーは、南仏リビエラに住む父に頼るためにニース飛行場についた。ペニーは9年前の落馬のため車椅子なしで移動出来ない身になっていた。父は商用で出張に行き、若いロバート(愛称ボブ)と云う運転手が迎えに来ていた。家には中年の後妻ジェーンがいた。
夜中、目を覚ましたペニーは、ゆらめく灯影を見つけ、サマーハウスへ車椅子で行った。椅子に座る形で、父が目をかっと見開いて死んでいた。悲鳴をあげたペニーはショックで倒れて記憶がない。
ペニーは、父の主治医ジェラール医師、ジェーン、ボブに囲まれたの中で気がつく。自分はベッドに眠らされていた。ペニーの見たものは幻覚だと笑われた。
翌日ペニーは、電話に出て「パパだ、出迎えに行けなくて悪かった。二日たったら帰る」と云う父の声を聞いた。ジェーンがボブに運転させて出かけた夜、ペニーは、車庫に父が乗っていた車があるのを見つけ、父の部屋からピアノの音を鳴るのを聞いた。しかし車は消えているし、ピアノも蓋に鍵がかかっていた。
ジェラール医師はこれ以上幻覚が続くと入院した方が良いと言う。
その夜ペニーは外の風を浴びて自分の部屋に戻ると、椅子に座っている父の死体を見た。ジェーンとボブがかけつけたが、その時にはもう死体は消えていた。ボブは椅子がぬれているのを見て不審がった。ボブは遺言の内容を知っているかと問う。父が死んだら遺産はペニーがもらい、ジェーンには信託利子が与えられる。しかしペニーが先か同時に死ねばジェーンが全財産を受取ることになる。従ってジェーンとジェラール医師が父を殺し、ペニーも殺して先に死んだことにして、遺産を独占するつもりだろうと、二人は推理する。
ジェーンが一人で外出した日に、ボブとペニーは家のプールの中から死体を見つける。即刻でカンヌ警察に報告しようと二人は車で飛び出す。ところが途中でジェーンが手を振っている。ボブは車を止め、ジェーンに話しかける。その時、車のサイドブレーキを引かずにいたため、斜面を勝手に走り出してしまう。後部座席に座っていたペニーはサイドブレーキを引こうと前へ乗り出すと、そこには父の遺体があった。ペニーが思わず息を飲むと、車はそのまま断崖絶壁からリビエラの海に沈んでしまった。ボブはニヤリとする。彼が愛人ジェーンのためにペニーの父を殺し、今回は娘も殺したのだ。これで全遺産がジェーンのものになって、二人で遊んで暮らせるのだ。
翌日、ペニーとボブは、警察に親子が海に沈んだと報告する。その後ボブは現場検証の立ち会いをする。その間に弁護士がジェーンのもとを訪れるが、何とペニーは三年前に神経衰弱で自殺したのだそうだ。ではあのペニーは誰なのだ。庭を見ると、車椅子に乗った女がいた。近寄るとペニーの友人マギーだと言ってその場で立ち上がる。マギーはペニーの父に3年前、娘の死を語っていた。ジェラールも同席していた。しかし今年に入り、娘宛に一緒に暮らさないかと手紙がペニーの父から届いた。それで父に何か起きていることをジェラール医師と相談して、リビエラにペニーに扮してやって来たのだ。マギーはこれ以上、ジェーンに何もする気はないと言ってその場を去る。マギーは崖の上の車椅子に座り込み、呆然とする。
現場検証の結果、車と老人の死体が一人でてきたが、それだけしかなかったという。ボブは謀られたことを知り、家に急いで戻る。庭を見ると車椅子の女が崖っぷちでぼんやりしている。この野郎と、思わず崖から車椅子を蹴り落とすと、乗っていたのはジェーンだった。すかさず警察が登場し、ボブを逮捕する。それを見守るのが、ジェラール医師とマギーだった。
雑感
「恐怖」という題名だが、怖くも何ともないハマー作品だ。ただし、伏線を用意しているので、謎解きはできる。英国古典推理小説好きにはとくに楽しめる傑作作品だ。
クリストファー・リーはこれを「ハマー・プロの出演作品の中で最も素晴らしい作品」と言っている。観客に悪役だと思わせておいて、実は探偵のオブザーヴァーだったから、そう言ってるのかも。
一方、女優アン・トッドは元デヴィッド・リーン監督の奥さんで戦後のスタアだった。アメリカ・アクターズ・プロの権化のようなユダヤ系スーザン・ストラスバーグとは相性が非常に悪かったようだ。ストラスバーグから見れば、英国俳優陣やスタッフはこんなことも知らないって感じで馬鹿にされたんだろう。
推理小説ずれしてる私は、前半からここあそこに姿を見せている伏線の多さから、最後は大どんでん返しになると思った。
例えば10年間離れた父親の顔を忘れたとか、普通に考えたら怪しいと思うところが満載だった。
スタッフ
監督 セス・ホルト
製作 ジミー・サングスター
脚本 ジミー・サングスター
撮影 ダグラス・スローカム
音楽 クリフトン・パーカー
キャスト
ペニー・アップルビー スーザン・ストラスバーグ
ボブ(ロバート) ロナルド・ルイス
継母ジェイン アン・トッド
ジェラルド医師 クリストファー・リー