戦後大映映画「怪談佐賀屋敷」につづく化猫映画
監督は荒井良平でスタッフはほぼ変わらないが、撮影が伊佐山三郎にかわった。
主演は42歳になった入江たか子、共演は坂東好太郎杉山昌三九阿井美千子北見礼子ほか。

 

あらすじ

有馬公に愛される側室おたきは正室おこよの方に嫉まれ、八百屋出身をあげつらってパワハラを行なっている。飼猫のタマは嫌がらせで虐められ始め、おたきはタマの首に鈴をつけて、女中のお仲に言って城外に捨てさせた。
おこよの方は武道の心得がある老女岩波に、おたきを打ちすえさせるが、流石に参ったと言った相手を打ったのは頼貴にもやりすぎに見える。
殿様の足が遠のいたのに逆上したおこよは、丑の刻参りをしていたのを、夜廻りに発見される。調べにあたった岩波と呉竹はおたきの自作自演と言いがかりをつける。
いたたまれなくなったおたきは、お暇を申し出た。しかし、おこよの命令で岩波らはおたきを刺殺し、偽装自害に見せかける。
それから有馬の奥御殿で怪現象が相つぐ。火の見櫓の半鐘が鳴りひびき人々が見上げると、おこよの女中七浦の惨殺死体が吊下げられていた。次におこよの女中二人が寝込みを何者かに襲われる。その夜、おこよは夜中にふと目覚めたが、女中たちの生首を見田。続いて女中呉竹とお仲が争い、行灯の火が呉竹の着物に燃え移った。岩波は怪しいやつと思い、障子に映る影を刺すが呉竹だった。岩波の前に、出現したおたきの亡霊は、自分が殺された方法で岩波を刺しころす。追手が追い付くと、亡霊の正体は化け猫だった。太刀で首を刎ねられるが、その首はおこよの喉笛に食いちぎって、共にはてる。

雑感

猫は長生きすると化けるという言い伝えのある日本において、化け猫映画は日本の代表的ホラー映画である。戦前は鈴木澄子が主に主演したが、戦後は大女優入江たか子が竹の子生活を凌ぐために出演した。
久留米藩江戸屋敷にいらっしゃる殿様の愛妾の飼猫が一悶着起こす「有馬の猫騒動」を描いた映画「怪談有馬御殿」のオリジナルは「有馬猫」というタイトルで鈴木澄子主演映画だった。怪談と言いながら実はアクション映画であり、女優が演じる奥女中達(猫が取り憑いている)が戦う場面でトンボを切る場面が綺麗だったそうだ。主演の鈴木澄子は化け猫を演じたわけではなくて、その女中であるお仲を演じておたきの方の仇を討つ役だ。鈴木澄子は一座を組んで巡業をしていて、戦争前にアメリカまで行って有馬騒動を演じ,喝采を浴びたそうだ。日本の女性アクションひいては志穂美悦子の先駆けだったのだ。もっとも外人に中国雑技団との区別が付いたか分からないが。

リメイクした「怪談有馬御殿」は戦後化け猫映画シリーズ第二弾であり、再上映時の50分足らずの短縮版で見た。オリジナルはどうやら消失しているらしい。カットされている部分は前半が中心だと思う。
主演の入江たか子が、愛妾おたきの方を演じ、日本らしい女性社会ならではのパワハラに遭って、辞めたいと実家に伝えた夜に、正妻に送り込んだ刺客に殺される。しかし本当の恐怖はこれから始まるのだ。アクションシーンも生首が夜空を飛んでるホラーシーンもふんだんだが、残念ながら大映特撮にはホラーシーンを描ききる力は足りなかった。
最後は、女中お仲を演じる名脇役女優阿井美千子が生き残って玉の輿に載りそうな終わり方だった。

入江たか子は子爵の令嬢だが、生活に困窮して芸能界に入る。戦前は美人女優として人気を集め、自分のプロダクションを持つほどだった。戦前は溝口健二を監督に起用してあげた。戦争で無一文に戻り、戦後になってやっと化け猫映画ブームで復活してから、起用された大作映画「楊貴妃」の役を大監督になっていた溝口健二に杉村春子と交代させられた。結局、大映を離れてさらに苦労したそうだ。彼女は女優としての覚悟を教えるために、自分の演じた化け猫シリーズを娘の入江若葉に見せ続けたそうだ。

スタッフ

企画 高桑義生
脚本 木下藤吉
監督 荒井良平
撮影 伊佐山三郎
音楽 高橋半

 

キャスト

おたきの方  入江たか子
お仲  阿井美千子
有馬大学 坂東好太郎
有馬頼貴 杉山昌三九
おこよの方  北見礼子
呉竹  大美輝子 (近江輝子)
七浦  橘公子
岩波  金剛麗子
浅茅  柳恵美子
庵崎  小柳圭子
小桜  松岡信枝
藤乃  小林加奈枝

 

 
怪談有馬御殿 1953 大映京都製作 大映配給

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