1924年にコネチカットであった裁判実話を第二次世界大戦直後に置き換えてドキュメンタリー風にして作った映画。エリア・カザン監督、ダナ・アンドリュース、リー・J・コップ、ジェーン・ワイアット主演。

 

平和なコネチカット州フェアポート市で夜、老神父が背後から後頭部を撃たれて即死した。犯人は7人の目撃者を振り払って逃亡した。早速、所轄警察署が捜査に当たる。

しかし一週間近く経ってもロクな情報は上がって来ず、迷宮入りかと思われた。選挙が近いため、民主党の州政府は州検事ハーヴェイに早く犯人を上げるように圧力をかけた。検事や警察本部長も署長ロビーにハッパをかける。ついにモンタージュ情報を近隣州にもバラマキ協力を要請する。するとものすごい数のタレコミがあった。それらをしらみつぶしに潰しながら、ようやく容疑者が一人現れた。退役軍人のウォルドロンで事件後、女を捨ててコネチカットからアイオワへ職を求めて移住したのだ。しかも凶器と同じ32口径の銃を持っていた。状況証拠は揃っている。それでも警察は自白が欲しい。二日間責めに責めてとうとう容疑者を落とすことに成功した。

下級審は何の問題なく原告の勝訴に終わり、いよいよ上級審でハーヴェイが勝てば容疑者は絞首台に上がる。しかし敵弁護士も第二次世界大戦中の戦功を利用して被疑者を無罪に持ち込もうと考える。民主党陣営はこの裁判に勝ってハーヴェイを州知事に出すことを画策している。

裁判が始まるとハーヴェイが冒頭陳述を行い、その中でなんと起訴取り下げをすると宣言。民主党員から猛反発を食らう。その中でもポール・ハリスは、行政と土地売買契約を締結するので友人から資金を集めて土地買収を進めており、もしこの選挙で負けると議会の承認が得られなくなるため、破産してしまう。

翌日ハーヴェイは起訴取り下げを一旦保留するが、検事局の部下と集めた証拠を積み上げて、弾道検査を否定し挙げ句の果てに犯人の発射角度では弾が発射されないことを証明して、結局ウォルドロンの無罪を明らかにしてしまう。

町中大騒ぎの中で、裁判所から出てきた男がスピード違反で警察に追われカーチェイスの結果、運転する自動車が横転して事故死してしまったが、翌日の新聞には小さな記事で扱われただけだった。

 

映画としては日本語字幕が杜撰だった。上映時のスクリプトをそのまま使っているようだ。

この事件はフランクリン・ルーズベルト大統領の初代(1933ー1939)司法長官ホーマー・カミングズが州検事時代に裁判で明らかにして冤罪としたもので、非常に珍しいケースだ。おそらく警察の捜査があまりに杜撰だったために、州検事がひっくり返したと思われる。

映画では慎重なリー・J・コップ署長の尻を叩いて選挙までに急いで起訴に持ち込ませたのは警察本部長と州検事である。その州検事が上級審になった途端、無罪を主張して得点稼ぎするとは調子が良すぎるw。

そういう意味では笑える映画でもあった。

結局、犯人は捕まっていないが、おそらく神父に恨みを抱く人間の仕業と考えられて、映画では最後に交通事故で死んだため起訴できなかったことを示唆している。

あまり目立たないが、カール・マルデンが刑事役で出演している。またハリウッドにしては珍しく市街地ロケは実際に事件が起きたフェアポート市まで行って撮影しており、現地住民を多数エキストラとして使っている。

女優ではジェーン・ワイアットがすこぶる美しい。すでに30代後半だが、鼻筋がツンと通った顔が特徴的。やがて1950年代後半にはテレビドラマシリーズ「パパはなんでも知っている」のママ役で3回エミー賞に輝く。日本テレビでも吹き替え放送していたから有名である。おそらく漫画サザエさんのこの時代の美人のモデルになったのではないかと推測する。

監督 エリア・カザン
製作 ルイ・ド・ロシュモン
原作 アンソニー・アボット
脚本 リチャード・マーフィー
撮影 ノーバート・ブロディン
音楽 デイヴィッド・バトルフ

配役
ハーヴェイ  ダナ・アンドリュース
妻  ジェーン・ワイアット
ロビンソン署長  リー・J・コッブ
アイリーン  カーラ・ウィリアムス
ウォルドロン  アーサー・ケネディ
ハリス  エド・ベグリー
刑事 カール・マルデン

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