東宝五十周年記念映画。22歳の新人南條玲子を起用した橋本忍監督脚本原作の超展開カルト巨編だ。当時、悲惨な評判を聞いただけで、オリジナルの想像を絶するスゴさを知らなかった。
あらすじ:
最初のシーンは琵琶湖西岸を若い女性(南條玲子) がジャージ姿で愛犬シロ(あまり白くないし汚いw) を連れてランニングをしている。しかも本格的にタイムや血圧を測ってトレーニング中らしい。どうやらマラソンと犬が大好きらしい。彼女が琵琶湖北端の葛籠尾崎(つづらおざき) を眺めていると笛の音が聞こえる。
彼女は何と雄琴温泉のトルコ(現ソープランド) で風俗嬢をやっていた。源氏名を「お市の方」と言い、日本髪のカツラに和服が仕事中の正装だ。あと一年勤めて2000万円貯めてから、誰かのお嫁に行くのが夢だ。そんなとき同僚ローザがお市の部屋に来てアメリカに帰ると言う。そしてローザが琵琶湖東岸に出かけたとき、彼女は石像に自分を抱いた男たちの顔を見たと言う。大手銀行雄琴支店で彼女らを担当している倉田にそっくりな像もあった。ちなみに彼女らのサラリーは歩合であり、売れっ子は一千万円単位の預金を預けていた。全く悲壮感のない明るい職場だった。
お市が琵琶湖北端の葛籠尾崎まで走っていると長尾という物静かな男が昔の横笛を吹いていた。道子は彼に好感を持つ。
そんなある日、シロが頭を撲殺されたところを発見される。ある東京のバンドが琵琶湖に慰安旅行で来ていて、その中の誰かが殺したらしい。支配人が滋賀県警を紹介してくれるが、そこでは民事での示談を勧められる。
雄琴へ来て5ヶ月の時シロと出会った。その頃傷つくことがあったが、シロが癒してくれた。シロとの結びつきはそれから深くなった。そんなシロを殺した相手を許せないと彼女は思っている。
東京の芸能事務所に弁護士を通して掛け合うと、犯人は作曲家の日夏だという。しかし日夏の事務所は居場所を明かさない。とぼとぼ東京の街を歩いていると、ローザとばったり出会う。何とローザはアメリカの諜報機関に所属するエージェントで日本の有名人データを全て持っていた。
お市は日夏のマンション前で張り込み、彼が出てくるのを待つ。思った通り、彼はジョギングに出て来た。お市は追い掛けて行って、彼に並んだ所で刺し殺そうと思うが、彼はなかなか速くて追い付けない。ようやく彼もつけてくる人影に気付いて、駒沢オリンピック公園で一気にスパートをかけ逃げ去る。
お市は傷心のまま雄琴に帰る。しばらく走る気にもならなかったが、雄琴の同僚は優しかった。ある日、銀行員倉田は川崎支店への転勤の挨拶に来る。そこで日曜日に琵琶湖東岸をデートすることになる。彼女は琵琶湖東岸を走ったことはなかったのだ。当日、ローザが言っていた仏像を見たり、沖島に人の住んでいることに驚いたりして楽しんだ。そして倉田からプロポーズされたのだった。
ところがランニングしていて葛籠尾崎で再び長尾を出会う。長尾は葛籠尾崎で笛を吹く理由を語って聞かせた。彼の祖先は笛の名人で浅井家に仕えていた。しかし織田信長に攻められて先祖の妻が捕らわれ処刑される。先祖は湖畔に逆さ吊りにされた妻を悼んで笛を吹いていた。そして長尾は葛籠尾崎で笛を吹けば愛する女性と出会えるという言い伝えに従って、ここにやってきた。長尾はお市に一緒になってほしいと言うが、お市は迷うが結局断る。
しばらくして日夏が客としてお市の前に現れる。お市は思わずカッときて、刃物を取り出し、カツラに和服のまま飛び掛かり、日夏は慌てて逃げ出す。そして琵琶湖畔を死の追いかけっこが始まる。
その頃、長尾はちょうど宇宙船から船外探査を行っていて上空から琵琶湖を眺めていた。
もう、何も言うことはない。まさにカルト映画だ。
ここまで破綻した作品をなぜプロデューサーはダメ出しできなかったのか。監督・脚本・原作は世界の黒澤明監督と脚本家としてコンビを組んで「七人の侍」など名作を数多く世に送った東宝のVIP橋本忍だった。たとえそうでも高齢な映画人に一人で三役もやらしたらとんでもない結果になることがよく分かった。
ただ琵琶湖の周辺や竹生島、沖島は美しく撮影できている。滋賀県の観光案内ならアリかもしれない。
監督脚本原作橋本忍
製作 佐藤正之 、 大山勝美 、 野村芳太郎 、 橋本忍
撮影 中尾駿一郎 、 斎藤孝雄 、 岸本正広
特撮監督 中野昭慶
音楽 芥川也寸志
配役
お市 南條玲子
長尾 隆大介
日夏 光田昌弘
倉田 長谷川初範
ローザ テビ・カムダ
お市の方 高橋惠子
織田信長 北大路欣也
みつ 星野知子