1938年にアメリカの作家兼奇術師クレイトン・ロースンが書いたベスト・セラー推理小説「Death from a Top Hat」(邦題「帽子から飛び出した死」)を元に、ジェームス・エドワード・グラントらが脚色して「魔人ドラキュラ」「フリークス」など怪奇映画の名手トッド・ブラウニングが手堅く監督したミステリ映画。
主演はロバート・ヤング(テレビドラマ「パパは何でも知っている」主演)、フローレンス・ヤングの「ロマンティック・チーム」。
共演はフランク・クレイブン、ヘンリー・フル。
白黒映画。
あらすじ
女性がソ連あるいは日本軍に捕まり、銃で体を真っ二つにされる。これは、かつての天才奇術師モーガンが、商談で現役マジシャンに売ったマジックの見本だった。彼がパリで公演をするため、新ネタを求められたのだ。モーガンは今や現役を離れ、新しいマジックを考案しては、マジシャンに売っている。
どこからでも脱出するという脱出奇術師デュヴァロが現れる。モーガンに発注した水槽を試していたのだ。デュバロは、欧州からサバト博士とラポート夫人がやって来て、心霊術を人々に見せ、心霊教会の賞金四万五千ドルを狙っていると記事を新聞から読み聞かせる。そしてサバト博士のインチキを見抜いてやろうと誘われる。
モーガンの自宅兼事務所に女性ジュディが飛び込んでくる。彼女は霊媒師が騙されているので止めて欲しいとモーガンに頼む。
二人は、トウロ教授のマジックショーを見に行く。そこでサバト博士から霊媒師マダム・ラプールの降霊会に誘われる。
ラクレア夫妻の読心術の時間が始まった。サバトは、準備があるからといって席を立った。サバトはトウロ、デュヴァロと一緒に外に出る。
ホテルの受付に外からトウロがやって来て、マジックを披露した後、ジュディが訪ねてきたので、気まずそうに出て行った。何のためにやってきたのか。ジュディは、部屋番号を確かめ、サバト博士の部屋を訪ねた。
ジュディが慌ててホテルから出るところを見かけたモーガンは、追いかけてジュディの部屋の前に来た。その時、ジュディの悲鳴がしたので、部屋に入ると、ジュディが倒れていた。幸い、怪我は無かったが、何者かが侵入したらしい。ジュディは、モーガンの父に託して、自分はジュディのメモを見て、行動を初めた。
メモに名前のあった霊媒師ラプール夫人に会いに行く。しかしジュディという女性を知らないと言う。ラプール夫人は心霊協会員のワトラス大佐を連れてきていた。
マダム・ラプール、ラクレール夫妻、モーガンが恒例会に参加するため、サヴァト博士が泊まっているホテルの部屋に集まった。しかし部屋には鍵が掛かっている。声がしたので壊して入ると、五芒星の模様の真ん中に横たわったサヴァトの絞殺死体を発見する。そこにトウロとラクレア夫妻が現れる。ラクレア夫人はサバトの愛人だった・・・。
雑感
推理小説は、奇想天外なトリックを使ったように見えるが、映像化してみると案外あっけない。米国の原作だから、トリックは大袈裟だが簡単に解けるし、犯人がたやすく被害者に化けたりするあたりは、古典派推理小説の域を出ない。特にアメリカは、英国と違い犯人の意外性を考慮しないので、犯人当てまであっけないことが多い。フーダニットの意外性では、英国の大作家アガサ・クリスティに敵うものはいない。
でも、この古典派推理小説がどのように70分映画にまとめるあたりは、職人技だった。実に手堅い作りだ。
ロバート・ヤングは、NBC/CBSテレビドラマ「パパは何でも知っている」(1954−1960;日本では1958−1964)の頃と比べると、とても若い。戦前戦中は、B級映画で三週間ほどで一本取る生活だったようだ。
フローレンス・ライスは戦前の美人女優。ロバート・ヤングと組んで「ロマンティック・チーム」と呼ばれていた。しかし戦後、若い女優が出てくるに従い、活躍する場は少なくなって、1947年引退した。この映画では、ヒロイン役であり、最後にライフルの弾丸マジックの標的までやらされて、大活躍だった。
映画の興行成績は芳しくなかった。戦争が欧州で始まった頃の上映だから、普通の映画でも苦しい所だが、よりによってパズル解き小説の映画化ときているから、アメリカ人には全く受けなかったようだ。せめて、ミステリ好きの英国に輸出したらよかったのに、英国もナチスドイツと戦争を始めてそれどころではなかった。
怪奇映画の名人トッド・ブラウニングは、サイレント時代からの名監督だが、この映画の大失敗でメジャー映画会社から干されたそうだ。この作品が彼の最後の映画作品になっている。
その後は、奥さんが亡くなったこともあり、酒浸りの日々を送って、最後は1962年に喉頭癌で亡くなった。
スタッフ
製作 J.J.コーン
監督 トッド・ブラウニング(遺作)
原作 クレイトン・ロースン 「帽子から飛び出した死」
脚本 ジェームズ・エドワード・グラント、ハリー・ラスキン、マリオン・パーソンネット
撮影 チャールズ・ロートン・Jr
音楽 ウィリアム・アクスト
キャスト
ロバート・ヤング ……元奇術師マイケル・モーガン
フローレンス・ライス……ジュディ・バークレイ
フランク・クレイヴン……モーガンの父親
ヘンリー・フル……脱出奇術師デイブ・デュヴァロ
リー・ボウマン……アル・ラクレール
アストリッド・オルウィン……ゼルマ・ラクレール夫人
クリフ・クラーク……マーティン・ギャヴィガン警部
フレデリック・ワーロック……シーザー・サバト博士
ウォルター・キングスフォード……英国ハーバート・ワトラス大佐
グローリア・ホールデン……霊媒師マダム・ラプール
***
犯行現場は、密室状態だった。トウロが、ラジオの生番組放送があるため、返してくれと言う。ひとまず返すが、モーガンが尾行につく。すると、タクシーから降りて辺りを一周して再びタクシーが発進する。覆面パトカーが止めると、運転手がトウロのふりをして一周回ってきた間に、トウロ本人は逃げ出した。
ホテルの受付とジュディが、ホテルに入るトウロを見たことで尋問を受ける。しかし密室の問題を解かなければ、犯人はわからない。そこへデュヴァロがやって来る。
モーガンは、トウロの居場所を探す。まず自宅を探すと、サバト同様に五芒星に囲まれて、殺されていた。しかも第一の殺人であるサバトの死亡時刻より以前に死んだと検察医は証言する。
その後、モーガンの自宅に匿われたジュディに、死んだはずのサバトが襲いかかる。幸い、モーガンの父がいたのでサバトは逃げた。実はジュディは、ラポート夫人の妹で悪事に加担する姉を救いたかったのだ。それ以外にも真犯人の手がかりを見てしまったのでないかとモーガンは考えた。
そこで、モーガンは関係者を一堂に集めて、降霊会でジュディが証拠を握っていることをラポート夫人を利用して語らせた。ジュディを狙わせて、逆に犯人を逮捕するためだ。
モーガンは、一回きりのショーを行うことにする。いわゆる弾抜けマジックで、標的の美女がライフルで撃たれるが、標的は銃弾を持って生還すると言うものだ。今回はジュディが標的になる。
狙撃手に陸軍大佐を招いて、弾丸には会場で選ばれた数人の男が傷をつける。そして大佐が銃を放つ。その瞬間、ジュディは撃たれて倒れる。
その時、警官隊が入ってきて、会場から逃げようとした男を捕まえた。彼は、銃弾をライフルに込めた男だった。モーガンが、変装を解くと、デュヴァロだった。彼は、サバトに脅迫されていたのだ。ジュディを狙ったのは、ホテルの受付相手にカードを操る手がトウロと逆だったのを見られたから。