川端文学の映画化である。
川端康成は好きな作家だ。
しかし文体の美しさで読ませる人だから、映画化はいつも難しい。
この映画も成瀬監督は父と嫁の関係にフォーカスを当てて、余計なものは捨象している。
それでうまくいったであろうか?
息子役の上原謙は父役・山村聰の一つ年上である。
山村聰の老け役がうまいのか、上原謙が永遠の青年なのか、
しかし成瀬監督の配役は当たっている。
嫁役の原節子はピタリである。
姑長岡輝子、小姑中北千枝子も父の手前、つらく当たれないけれど、子供を産まない嫁を小ばかにしてる点は、良く出ていた。
家庭内の人間関係は完全なのだが、長編小説をはしょりながら、急ぎ足でゴールに向かって行くと、どこかで足がもつれる。
脚本の失敗だと思う。
原作のもう一つのテーマ・老醜を映画では切り捨てているが、現代ではこちらの方が大きな問題である。
杉葉子が暗そうな秘書役を好演している。
なくなった角梨枝子も、上原の愛人役でちょっとだけ顔を出した。
丹阿弥谷津子が二人をつなぐ戦争未亡人の役。
監督 : 成瀬巳喜男
製作 : 藤本真澄
原作 : 川端康成
脚色 : 水木洋子
撮影 : 玉井正夫
山の音 東宝 1954