ジョルジュ・ベルナノス(「田舎司祭の日記」)の小説「新ムーシェット物語」を原作に、ロベール・ブレッソンが貧しい少女の不幸を映画化した。少女が泥沼に突っ込んでいく様を冷たい視線で描いたロベール・ブレッソンの代表作である。ダルデンヌ兄弟の「ロゼッタ」やビョークが出演したミュージカル「ダンサー・イン・ザ・ダーク」にも影響を与えた。三浦綾子の「氷点」にも影響を与えているかも知れない。
主演はタイトルロールのナディーヌ・ノルティエ。
あらすじ
14歳の少女ムシェットは根暗でひねていた。学校の態度も悪く、友達もいない。重病で寝たきりの母親とアル中の父らと極貧生活を送っていた。酒の密売で暮らしを立てていたが、父はムシェットに当たり散らした。
ムシェットは学校をサボって森に遊びに行き道に迷ってしまった。密猟監視をしている森番のマチューは密猟者アルセーヌはルイザを取り合う恋のライバルでもあった。二人は森で出会し、争いになった。しかし酒を持っていたのでマチューがアルセーヌと酌み交わして無事収まった。
その夜、雨に濡れて道に迷ったムシェットをアルセーヌが見つけ小屋に入れてやった。酔っていたアルセーヌはムシェットの濡れた服を乾かしてやりながら、マチユーを殺したと言い出して彼女にアリバイ工作を頼む。そして持病のテンカンを突然起こす。発作がおさまるとお互いに変な気分になり抱き合ってしまった。
翌朝ムシェットが家に帰ると、母親は発作で苦しんでいた。父と兄二人が戻ってきたときには、すでに母は死んでいた。父は行き所のない怒りをムシェットに向けた。
赤ん坊のミルクを買いにいった食料品店の女主人は彼女をなぐさめてくれ、コーヒーとパンを恵んでくれた。しかし思わず茶碗を壊してしまうと、人が変わったように叱られた。店を出ると、ムシェットは、マチューの家に行った。アルセーヌの告白は酔ったうえに癲癇の発作が起きる前触れに過ぎなかったのだ。マチューの妻に問い詰められて、昨夜アルセーヌと一緒にいたことを白状したムシェットは罵声を浴びせられた。
ムシェットにはいつも孤独と絶望感がつきまとっていた。しかし今回は彼女にとって、もはや死ぬことだけが唯一の救いだった。お婆さんにもらった服を両手に抱いて池の堤に身を横たえた。やがて彼女の姿は水面から消えた。
雑感
ひと目見ただけで「自殺をした女の子の映画」なんて神への冒涜と考えるだろう。しかしその年のカンヌ国際映画祭でこの作品は国際カトリック映画事務局賞を単独受賞している。この映画はカトリック映画であって、原作者ベルナノスも著名なカトリック作家である。
監督は決して自殺を勧めているわけではない。この子は愛のない父と極貧生活をしていたからこうなったのであって、自殺は当然の帰結なのだ。ムシェットはアダムとイブが神に逆らって人間になった時から背負った原罪の一つを引き受けて死んでくれたわけだから、残された我々は彼女の自殺を深く受け止め、その意味を自分なりに考えて、自分のあり方、家庭のあり方、社会のあり方を変えて行くべきである。
スタッフ
監督・脚本 ロベール・ブレッソン
原作 ジョルジュ・ベルナノス
製作 アナトール・ドーマン
音楽 クラウディオ・モンテヴェルディ、ジャン・ウィエネル
撮影 ギスラン・クロケ
キャスト
ナディーヌ・ノルティエ:少女ムシェット
ポール・エベール:厳しい父親
マリア・カルディナール : 病弱の母親
ジャン=クロード・ギルベール : 密猟者アルセーヌ