女性の三大朗読家は、市原悦子、岸田今日子奈良岡朋子である。
朗読の条件は、同性異性ともに、いくつかの声色を使い分けられること。
さらに、地の文(ナレーション)が読めること。
これらの要件を揃えているのは、この三人である。
その中でも最高峰をゆくのが、市原悦子である。
癖は強いが、味もある。

 

この松本清張の短編小説「家紋」は、その市原の朗読である。
北陸の寒村での既に時効になった、夫婦虐殺事件を遺されたが追う。
滅多に殺人事件が無いところでは、たまにそう言うことがあると迷宮入りになる。
浄土真宗本願寺派(うちの宗派だ)の共同防衛本能が、犯人を隠してしまうのだ。
ひょんなことから曹洞宗のお寺で、解決の手がかりが見えてくる。

 

この作品は、初め聞いただけでは、面白くも何ともない。
だいいち、市原の得意技である、男性の台詞が少ない。
女性の台詞も少ない。
ナレーションばかりだ。
しかし何度か聞いているうちに、噛めば噛むほど味が出てくる。
市原朗読「巻頭句の女」も最初は大した作品ではないと思った。
何度か聴くうちに、じわっとしみ出してくるものがある。
作品の魅力と言うより、市原の魅力で聞き込んでしまう。
ちなみに「家紋」は15年前、日テレで若村麻由美主演でドラマ化された。
おそらくクレームが付いて再放送不可能になった。
日蓮宗系新新宗教の花嫁(現在未亡人)」が、真宗批判のドラマに主演していたとは奇遇である。
脚本家大野靖子は手直しして、3年前に岸本加世子で再ドラマ化している。
テレ東系で放送され、視聴率は同局の二時間ドラマで史上一位だったそうだ。
ちなみに岸本加世子は創価学会員である。
仏教界のドロドロを見るようだ。
(懐音堂から転載)

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