昭和29年正月映画は、片山明彦、新倉美子コンビのジャズ映画第2弾。第1弾「青春ジャズ娘」では二人が主演だったが、今回は二人とも助演である。
雪村いづみは、これが初主演となる。昭和12年3月生まれだから、確かに上映時期はまだ16歳だった。
監督は裕次郎映画の他にもミュージカル風演出も得意とした井上梅次。たしかに第1弾より出演バンドは圧倒的に少ないが、雪村いづみの歌手としての魅力を十分引き出している。
白黒スタンダード作品。
あらすじ早速みゆきは
同じ木造アパートに暮らす三田(片山明彦)、新井(高島忠夫)、松本(フランキー堺)と美智子(新倉美子)はジャズ・バンドのメンバーだ。ある夜、薄汚い少年と出会う。それはみゆき(雪村いづみ)という16歳の娘が変奏した姿だった、みゆきは孤児で長野の田舎から東京へ出てきたと言う。かつては浅草オペラに出演し孤児だった彼らの親代わりになり面倒を見てくれた老いぼれ音楽家二宮(古川緑波)に四人は頼み込み、みゆきを引き取ってもらう。
二宮は、弟(柳家金語楼)が校長をしている女学校に彼女を入れてやる。ところがクラスメートを前にみゆきは早速得意のジャズを歌って、煩型の三宅女史を怒らせる。そして学校から呼び出された二宮に出て行けと言われ、みゆきは本当に家を出てしまう。
一方、けんかっ早い三田が客を殴ってジャズバンドはキャバレーから解雇された。がっかりして家路につく4人組は、これまた行き先もなく途方にくれたみゆきを発見する。心配していた二宮はみゆきを大喜びで出迎える。みゆきはここが自分の居場所だという実感を得るのだった。
失業した四人組はジャズ・バンドをもう一度売りだすため、みゆきがかつて財布を拾った縁で芸能事務所の社長大川に話を聞いてもらう。みゆきの才能に惚れ込んでいた大川は、彼女の事務所加入を条件にバンドとのマネジメント契約も受諾する。
しかし二宮と話している内、みゆきは大川が若い頃に女性歌手との間に作った娘であることが明らかになる。二宮はみゆきを大川に渡したくなかったが、実の親子である以上、抵抗は出来なかった。
みゆきの担任だった岸先生が学校を退職してジャズ・ピアニストとして参加して、新しい5人組はコンサートに向けて猛特訓ををはじめる。大川宅に正式に転居したが、かえって孤独になったみゆきは、ぶらり二宮のアパートに帰ってくるが、彼は不在だった。彼は練習を放りだして、酒を酌みにでかけていた。みんなはそんな二宮をおだてて、デビューする新春ジャズコンサート会場の舞台に上げて司会をしてもらう。
年寄りの司会を見てヤクザたちが散々ヤジを飛ばすが、浅草オペラ時代から年季の入った二宮の敵ではなかった。ヤジを一喝してジャズバンドの教え子たちを紹介し、自分は楽屋に一人戻る。そして、舞台の盛り上がりを聞きながら、老兵は消え去るのみと感慨にふけった。急に校長の弟が楽屋に入ってきて、岸先生の代わりに子供たちに音楽を教えて欲しいとお願いされる。
雑感
雪村いづみはお嬢さまだったんだけど、戦後父が自殺し母の経営する会社は倒産してしまい、生計のため1952年春から進駐軍クラブで歌っていた。同じ年生まれの美空ひばり、江利チエミの後を追って翌53年にはレコードデビューしてプロ歌手となる。同年には「ジャンケン娘」で三人娘として共演。そして翌年この作品が新春映画として公開された。
初主演作としては、まずまずの出来である。筋書きは陳腐なのだが、監督の演出(とくに歌うシーン)が良かった。
古川緑波は珍しく雪村いづみの相手役を演じている。かつて浅草オペラに出演していて、今はしがない音楽教師役を演じている。戦前にエノケンと人気で競った喜劇俳優古川緑波がチャールズ・ロートンのような老音楽家を演じていて上手かった。それにも増して、雪村いづみの演技での呼吸の合わせ方が印象に残っている。
脇役でバンドマンの片山明彦と新倉美子は第一弾と比べて随分影が薄くなってしまった。
逆に高島忠夫とフランキー堺はともに音楽を演奏する人間だからリズム感が良くて、二人の掛け合いのシーンが面白かった。日本初の本格的ミュージカル映画と言われる1964年東宝作品「君も出世ができる」の原型をここに見たような気がする。(雪村、高島、フランキーが主演)
バンド・マスター役の興田輝雄はフランキー堺が所属していたシックス・レモンズのリーダー。
黒田美治はスタンダードを一曲歌っていたが、本職はカントリー歌手である。
清水金一が出演しているが、中途半端なチョイ役(涙もろいチンピラ)なので勿体ないと思った。たしかに戦時中の人気は既になくなっていたけれど、まだ東映で「弥次喜多」シリーズ(喜多さん役)を演じていた頃である。
スタッフ
監督 井上梅次
製作 杉原貞雄
脚本 赤坂長義 、 京中太郎
音楽 大森盛太郎
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配役
みゆき 雪村いづみ
二宮 古川緑波
三田(tp) 片山明彦
新井(b) 高島忠夫
松本大助(ds) フランキー堺
羽根美智子(vo) 新倉美子
岸君子(p) 大谷伶子
大川真平 高田稔
金沢吾郎 植村謙二郎
小母さん 清川玉枝
校長 柳家金語楼
三宅先生 丹下キヨ子
バンド・マスター 興田輝雄
歌手 黒田美治
チンピラ 清水金一