伊豆温泉宿の若女将が正体不明の悪漢に命を狙われ、ついに殺人事件が起きる。たまたま骨休めの湯治で逗留していた江戸の十手持ち夫婦がその謎に挑むミステリ時代劇。
小国英雄のオリジナル脚本を安田公義が監督し、竹村康和が撮影した。
主演は市川雷蔵、瑳峨三智子。
共演は林成年、浦路洋子、中村玉緒、山茶花究。
白黒スコープ映像。
あらすじ
南伊豆の温泉宿花屋の若主人清次郎は女房おくみと結婚したところだが、おくみが針を踏んで怪我した。すぐ女中の一人お雪が自分の針をなくしましたと名乗り出る。
ところが富蔵が請け負った新築工事におくみが茶菓子を差し入れた際に、材木が崩れて来て下敷になってしまう。実は、工事の手伝いにやって来た大工の佐助がおくみと幼馴染で、お互いに憎からず思っていたのだが、佐助が江戸に修行に出ている間におくみは清次郎と結婚してしまったのだ。
また三島から訪れた芸妓君葉が清次郎に捨てられたことは、同僚君勇と芸者屋女将おもんも知っていた。さらに三島の小唄師匠豊春も清次郎の昔の女であり、その情夫源治と共に湯治に訪れていた。
他にも旅の絵師半覚斎、骨董商竜山堂、深川木場の若旦那新助と番頭儀兵衞、小間物問屋山城屋、そして神田の目明し文吉と恋女房お光が花屋には泊まっていた。
お光は、泥棒木鼠の吉兵衛を捜索していた、地元の目明し鶴吉と亀助を手下にして事件の捜査を始める。その最中に再びおくみは矢を射かけられる。お光がその下手人を追っていると、誰かに熱湯の湧き出している源泉に突き落とされ、あわやのところを文吉に助けられる。
翌日、佐吉が姿を消した。前夜に彼が女中おはまに会っていたところをお光が目撃していた。お光は、おはまがおくみのため佐吉に金を渡して去らせたと推理する。さらに君葉、豊春が怪しいとも言う。
橋の下で源治の死体が発見された。おはまは、佐吉との話を源治に聞かれて脅されたので殺してしまったと告白した。
しかし、最後の矢を放ったのは一体誰か?文吉は鶴吉亀助におくみを託して寺に出かけていった。
その夜、文吉の部屋に相談に行ったおくみに矢が射かけられる。
雑感
市川雷蔵お得意のミステリ時代劇だ。しかし犯人当ての前に手がかりを全て明らかにするわけではない。脚本家小国英雄は本格派推理小説より冒険小説風探偵譚を得意にしたため、手掛かりは全て犯人当ての際に、探偵(目明し文吉)が明らかにする。いわば後出しジャンケンである。
でも犯人は益田喜頓同様にこの映画でコメディ・リリーフとして出演しているかのように登場したので、観客には誤解してしまった。終わってみればどんでん返しのような脚本で、さすが小国英雄だった。
益田喜頓は、林成年扮する若旦那のお店の番頭で、若旦那が女遊びばかりするので、湯治に見張りとしてついてきている。若旦那が女の尻を追いかけ出すと必ず法華の太鼓を叩いて合図をする。すると若旦那も観念して番頭と一緒に太鼓を叩いて法華経を唱える。若旦那は女と見ると、手当たり次第に手を出すので、その度に番頭がどこからともなく現れて太鼓を叩くシーンがもっとも面白かった。
山茶花究は戦前から戦後にかけて坊屋三郎、益田喜頓とともに「あきれたぼういず」で人気者になり、解散後は森繁久彌劇団で三木のり平と並ぶ番頭格で出演しており、映画にも重要な脇役で多数出演していた。
林成年、小堀明男(源治役)ともに時代劇の主役を務めた経験の持ち主だが、市川雷蔵相手には端役に過ぎなかった。
瑳峨三智子と市川雷蔵は大映でたびたび共演している。相性が良かったのだろう。この映画を制作した1958年頃の瑳峨は、おそらく松竹のイケメン俳優森美樹と付き合っていた時代で、順風満帆だった。残念ながら1960年に森美樹はガス中毒で亡くなる。
スタッフ
製作 酒井箴
企画 山崎昭郎
脚本 小国英雄
監督 安田公義
撮影 竹村康和
音楽 飯田三郎
キャスト
目明し文吉 市川雷蔵
文吉の女房お光 瑳峨三智子
おくみ(旅篭の若女房) 浦路洋子
清次郎(旅篭の若主人) 島田竜三
おかつ(清次郎の継母) 清川玉枝
お雪(女中) 中村玉緒
新助(商家の若旦那) 林成年
儀兵衛(商家の番頭) 益田喜頓
竜山堂(骨董屋) 山茶花究
豊春(小唄師匠) 大和七海路(後の藤原礼子)
源治(豊春の情夫) 小堀明男
小間物問屋山城屋 本郷秀雄
半覚斎(旅の絵師) 寺島貢
君勇(半玉) 神脇絵津子
君葉(芸妓) 春風すみれ
おもん(芸者屋女将) 朝雲照代
鶴吉(地元の目明し) 堺駿二
亀助(地元の目明し) 宮坊太郎
富蔵(大工棟梁) 二代目澤村宗之助
佐吉(大工) 和泉千太郎
利兵衛爺(旅篭の下男) 石原須磨男
お糸(百姓娘) 浜世津子
おそで(矢場の女) 楠トシエ (挿入歌あり)
お峰(女中) 若杉曜子
おはま(女中) 橘公子
空念和尚 東良之助
ネタばれ
文吉は再び一同を集めて犯人を明かした。まずおくみの命を狙った犯人はお雪だ。彼女は姉が清次郎に捨てられ自殺したのを怨んでいたのだ。お雪を焚きつけたのは、清次郎の継母おかつだった。おかつはおくみを脅して離縁させ、清次郎と実の娘お糸を一緒にさせて身代を乗っ取る腹だったのだ。源治はこの企みを知ったため、おかつの息子(お糸の兄)に殺された。おはまは、源治に切りつけたに過ぎなかった。おかつの息子とは骨董商竜山堂であり、その正体は怪盗木鼠の吉兵衛だった。奉行所の中間どもが、逃げようとしたおかつと吉兵衛を捕縛した。お雪は清次郎から許されて、儀兵衛のすすめで若旦那新助と結ばれることになった。