(△)1961年の正月喜劇映画。併映は小林旭主演「波濤をこえる渡り鳥」。
元軍人が、屑屋をしながらコツコツ増やした資金を元手に、中小企業の社長になる。
当時の人気作家源氏鶏太の原作小説を、三木克巳が脚色し、阿部豊が監督したホームドラマ。
初主演で当時32才の小沢昭一が10才以上年上の苦労人を熱演。共演は吉永小百合、渡辺美佐子。
66分の白黒映画。
あらすじ
六さんこと河野六左衛門は、海軍軍人だったが戦後は屑屋で生計を立てている。彼は、毎日リヤカーを引いて安井印刷株式会社に出向き、昼間はお茶を煎れたりタバコを買いに行ったりして雑用係として働く。そして工場から出た紙屑を拾って夕方家に持ち帰り、分別して売却している。会社から給料は一切出ていない。
同様に生活必需品を安く仕入れ、女子従業員に売っている闇屋の女社長広子とは、会えば喧嘩をする仲だ。
六さんには、高校生の高子を筆頭に小学生の息子を三人もうけているが、妻は末の息子が生まれてすぐ、産後の肥立ちが悪くて死んでしまった。高子の恋人は、安井印刷社長の令息健一だった。健一は、連日猛アタックを掛けるが、高子は身分違いだと言ってのらりくらりと交わしていた。
ある日、問題が起きた。使丁長が堅物の折原に交代したため、六さんと広子は会社への出入りを差し止められた。その時、人事係長の吉川が、三万円が必要になったので貸してくれと言う。その代わり、吉川が折原を説得するからと言ってくれた。三万円を渡す日に、六さんは風邪で休んだので代わりに高子を安田印刷に行かせる。高子は、吉川に名刺と引き換えに3万円を渡し、六さんの代わりに屑拾いの仕事を始めた。
それを見た広子は、高子の健気さに感動して帰り道を送っていった。そして六さんに、若い女の子にあんな仕事をさせるものじゃないと言い含めた。六さんも広子がその姿が凛々しく見えたのだろう、「良い女だねえ」と見直した。男の子たちも、広子に母を見たのかすぐ懐いた。
これが広子の転機だった。独身の広子は、たびたび六さんの家に通ったり子供たちと遊園地に行くうちに、心は大きく傾きだした・・・。
雑感
源氏鶏太原作小説でも、東宝ならサラリーマン喜劇だろうが、日活では主人公はサラリーマンではない出入り屑屋が成り上がるホームドラマだ。
しかし、ただの屑屋が急に社長になれるわけがない。おそらく六さんが元海軍参謀という裏設定があるのだろう。
小沢昭一の初主演映画。当時32才だが、四十代後半の役柄を演じている。全く違和感がない。
吉永小百合は、すでに「ガラスの中の少女」を公開した2ヶ月後の作品で、ずいぶん大人びて演技がしっかりしてきた。コメディの方が、当時は演技をしやすかったと思う。
渡辺美佐子は、最初の色気なしモードから後半の色気ありモードに切り替えるのが印象的だ。ごく自然に演じていて、彼女はやはり母向きの女優さんだと再確認した。
使丁長は、雑用係の長という意味だが、この映画では職長のようなものだ。この場合は、印刷工の職長になる。
闇屋はこの時代になると、実際にはないと思う。広子は、倒産品だとか、中古品、曰くありの品を安く仕入れて、夜に百貨店に行けない女子従業員の元に届ける仕事をしていた。月賦形式で販売していたが、夜逃げして貸倒が発生しやすい。広子は第二の人生について考えているところに、高子ら4姉弟と知り合って生きる希望を見出したのだ。
スタッフ
企画 坂上静翁
原作 源氏鶏太
脚色 三木克巳
監督 阿部豊
撮影 横山実
音楽 斎藤高順
キャスト
河野六左衛門 小沢昭一
河野高子(長女) 吉永小百合
河野武夫(長男) 瀬川雅人
河野信夫(次男) 小沢茂美
神田広子 渡辺美佐子
安井健一(社長令息) 浜田光夫(クレジットは光昿)
安井社長 浜村純
西田(使丁長) 河上信夫
東野 山田禅二
北村 神山勝
折原(新使丁長) 木島一郎
吉川人事課長 高原駿雄
守衛 紀原耕
***
安井印刷では、設備投資の代金決済のために裏書きした一千万円の手形が、不渡になってしまった。月末までに金策をしないといけないが、社長はすっかり体調を悪くしている。
六さんは、屑拾いから得たわずかな金を戦後、株式投資に廻してコツコツ増やした一千万円を、安井社長にどうぞ使って下さいと言って小切手にして手渡した。社長は感激して、安井印刷の株券一千万円分を六さんに渡し、自分の代わりに社長に就任してくれと言った。戦後15年間の六さんの会社への貢献度を知っている社員たちは、大喜びだった。
こうして、六さんは安井印刷の社長になった。広子は闇屋を畳んで、六さんと一緒になるつもりだ。高子と健一は相変らず恋仲だが、今では逆に健一の方が劣等感を持っている。
大出世物語 1961 日活製作・配給 小沢昭一初主演作品・吉永小百合共演