戦前、パット・オブライエン、ディック・パウエル、ジンジャー・ロジャースが共演した映画「二千万人の恋人」を戦後になって大幅に脚色してリメイクした作品。
主人公の息子が夢見るシーンでは、ワーナー・アニメーションのバッグス・バニーやカナリヤのヒナ鳥トイーティーも登場する楽しいミュージカル映画。
監督は名匠マイケル・カーティス。
主演はドリス・デイとコメディアンのジャック・カーソン。
共演はリー・ボウマン、アドルフ・マンジュー、イブ・アーデン。カラー映画。
あらすじ
ロサンゼルス。ダグ・ブレイクは、大歌手ゲイリー・ミッチェルのマネージャーを解任される。彼は、ゲイリーの代わりにラジオ番組で歌う歌手を探してニューヨークへ行き、ジュークボックス工場で働くマーサ・ギブソンの歌声に魅せられる。
ダグは、マーサを口説き落とす。彼女は、戦争未亡人で子連れだったが、息子を親戚に託して相当な覚悟でロスに飛行機で向かう。
ダグは、マーサをスポンサーの社長フェリックス・ホファーの前で歌わせるが、アップテンポなナンバーは社長のお気に召さない。収入が途絶えたので、仕方なくマーサは場末のキャバレーで歌う。しかし、彼女は客に酌を要求されたので、慌ててダグは、同僚ヴィヴィアンのアパートに住み込ませる。
そうこうしているうちにマーサは、大先輩のゲイリーと知り合い途端に愛し合うようになる。しかしゲイリーは、酒で失敗してロスから姿を消す。
マーサは、スローバラードを見事にホファー社長の前で歌って、ゲイリーの後継者としてラジオ番組のレギュラーを得る。ダグはマーサの息子をロスに呼んであげる。息子と再会したマーサは、次々と仕事を成功させて、スターの座を手に入れる・・・。
雑感
この映画は、人気歌手ドリス・デイの映画出演二作目で、主演第一作(序列は二位)である(一作目は「洋上のロマンス」でジャック・カーソンが主役であり、ドリスは序列4番目の役)。
十数曲演奏されているが、ドリスはその中で十曲を歌っている。その中の「ティク、ティク、ティク」という曲は放射能に近付けるとガイガー・カウンターの音が鳴ることから考えられたラブソングだ。当時の戦勝国アメリカは、核爆弾を持ったことが嬉しかったので、こういう能天気な歌を作詞家も書けたのだろう。
この映画は、パット・オブライエン主演映画「二千万人の恋人」をリメイクしたと書いたが、実際は脚本を大きく書き直されていて、ドリス・デイの成功するまでの半生記を元にした映画になっている。ドリスは、実際に成功を掴むために、最初の夫との間に生まれた息子を親に預けて離れ離れになり、女優として成功してからワーナー・スタジオの近くの家に親と息子を呼び寄せている。彼女が、映画スターになるには、監督マイケル・カーティスとジャック・カーソンの支援が大きく関わっている。
映画の現代的評価はイマイチだが、ドリス・デイとジャック・カーソンにバッグス・バニーが絡むアニメ合成シーンが楽しい。ドリスが大物になる前の映画だから見ることができるシーンだ。
明るい乗りの良い曲を歌っていても、全く売れなかったマーサが、バラードを歌うことで待望のラジオ・レギュラーを得るプロットは象徴的である。ドリス・デイの歌の魅力は、決してダイナミックスさにあるのではない。スローバラードにこそ、彼女の真髄があるのだ。
スタッフ
監督 マイケル・カーティス
原案 ポール・モス、ジェリー・ウォルド
脚本 ローラ・カー、ハリー・カーニッツ、デイン・ラッシャー、アレン・リフキン
撮影 ウィルフリッド・M・クライン、アーネスト・ホーラー
振付 リロイ・プリンツ
音楽監督 レイ・ハインドーフ
音楽 ハリー・ウォーレン
キャスト
ダグ・ブレイク(マネージャー) ジャック・カーソン
マーサ・ギブソン(戦争未亡人) ドリス・デイ
ゲイリー・ミッチェル(有名歌手) リー・ボウマン
トーマス・ハッチンズ(芸能事務所社長) アドルフ・マンジュー
ヴィヴィアン・マーティン(秘書) イヴ・アーデン
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息子に今まで寂しい思いをさせたので、マーサとダグはプレゼントを送る。息子は、夢の中でマーサとダグがバッグス・バニーと一緒に歌って踊る姿を見る。ダグは、マーサの息子のことも気に入ってしまい、マーサに結婚してくれないかと告白する。しかし、彼女はゲイリーを忘れられない。
ゲイリーにマーサの想いを届けたくてダグは、ゲイリーが芸能界に復帰できるようにパーティーに招待し、歌うチャンスを与える。しかしゲイリーは、マーサに再会したことよりも、若い女たちにチヤホヤされることが嬉しくて仕方がない。そのとき、マーサは幻想から目が覚めて、ダグの愛を受け入れる。