(★)昭和30年頃、華やかな銀座のクラブで生きる女給(ホステス)たちの争いを描いた、川口松太郎の小説を田中澄江が脚色し吉村公三郎監督が映画化した。スタンダードサイズのカラー映画で、撮影は宮川一夫。
主演は京マチ子と山本富士子。共演は船越英二、山村聡、小沢栄太郎、穂高のり子、芥川比呂志。
雑感
川口松太郎原作小説の「夜の蝶」は、当時銀座で人気を二分していたクラブ「エスポワール」のママ川辺るみ子とクラブ「おそめ」の上羽秀がモデルであり、マチとお菊の争いとして描いている。小説と映画がヒットしたおかげで、「夜の蝶」は女給を意味するようになり、「ホステス」という新語も生まれた。
舞妓上がりの秀は、頭が良い上に美しかったので、戦前に「松竹」大谷家の分家である白井家に身請けされていたが、戦後になり再び祇園の座敷に出るようになる。そこで知り合った、俊藤浩滋(のちの東映プロデューサー、藤純子(富士純子)の父親である)と間に子供を為し、彼に金を貢ぐようになる。
関西財界の後援者も多く得て、昭和23年京都に「おそめ」1号店を開く。そして、昭和30年には銀座にも進出する。東京・京都間を飛行機で往復する秀のバイタリティが週刊誌などで話題になり、銀座の老舗に囲まれながら「おそめ」は繁盛する。この映画の上映当時、秀は原作者川口松太郎とも浮名を流していた。
しかし、昭和36年に禁輸ウィスキーを扱ったとして「おそめ」銀座店のバーテンダーが逮捕されて以来、「おそめ」から客足が遠のいてしまう。
マチと秀は、かつて憎み合った二人だったが、いよいよ秀が銀座の店をたたむ時は、るみ子と二人で泣いたそうだ。
彼女らが勢いを失ってから、東映出身で後に作詞家、直木賞作家となる山口洋子の「姫」が台頭する。
だから、映画の中で起きた交通事故はフィクションである。
キャスト
京マチ子 フランソワのマダム・マリ
山本富士子 祇園から銀座に進出したマダム・おきく
穂高のり子 マダムけい(マリの妹分)
船越英二 女給斡旋業者・秀二
山村聡 大阪のデパート王・白沢一郎
小沢栄太郎 デパート協会理事で後の丸菱百貨店新宿支店長・木崎孝平
芥川比呂志 大学医局員原田修
近藤美恵子 大学医局員浅井君子
川上康子 川口から銀座に働きに来た田舎娘けい
八潮悠子 女給みどり
市田ひろみ 女給かずえ
川崎敬三 花売りの元締めジミー
潮万太郎 洋酒屋
見明凡太朗 秀二のライバル小野田
柴田吾郎(田宮二郎) 秀二のかつての音楽仲間
高松英郎 おきくの酔客
叶順子 女給
中村伸郎 フランソワの客
宮口精二 フランソワの客
三津田健 フランソワの客
小川虎之助 フランソワの客
十朱久雄 フランソワの客
スタッフ
製作 永田雅一
企画 川崎治夫
原作 川口松太郎
脚色 田中澄江
監督 吉村公三郎
撮影 宮川一夫
音楽 池野成
ストーリー
銀座のバー「フランソワ」のマリは、はじめ大阪道修町の主人の元に嫁いだが、浮気をされたため別れて、銀座に出てきた。それが今や押しも押されもしない銀座No.1のマダムになった。クラブは作家や芸能人、さらに財界の重鎮や政治家のサロンになり繁盛していた。妹分のおけいも近くでフランソワの姉妹店を構えていた。
マリやけいの店に女給をスカウトすることを仕事としている秀二は、おけいの情夫だった。秀二はもともと音楽学校に通っていた。しかし、学徒出陣でビルマ戦線に遣られ、腕を負傷して楽器の演奏を諦めた。スカウトになっても、縄張り争いで絶えず生傷が絶えなかった。そんな彼にも唯一の救いがあった。自分の部屋で作曲をすることだった。
祇園の舞妓から京都のバーのマダムに成り上がったおきくが銀座にバーを開業する。この女こそが、舞妓をしていた頃にマリの亭主と浮気をしていた女だ。おきくは、秘かに秀二を訪れ大金を無理矢理握らせて女給の周旋を依頼する。おきくの美しさと京女のバイタリティに興味を持った秀二は、断れなかった。秀二の連れてきた女の子の質が高く、きくの店は開店早々に大入り満員となる。一方マリは、おきくにだけは負けられないと敵意を燃やす・・・。
おきくは、マリの夫の死後、若い医学生原田に学費を貢いでいて将来の結婚を夢みていた。関西のデパート社長白沢は、東京に進出すべく、百貨店協会理事木崎を抱えて、ロビー活動を始める。きくにも銀座進出資金を提供していた。その代償として結婚を申し込むが、おきくには体よく断られる。
ところが、丸菱百貨店新宿支店長の座と交換に関西に反発する東京財界側に付いた木崎の裏切によって、白沢の東京進出は頓挫した。また原田は同僚の女性浅井と結婚するため、おきくと別れる。
ここぞとばかりマリは、白沢に近づいた。二人は、白沢の別荘に向けて夜の京浜国道を車で走らせた。やけ酒で酩酊したおきくは、車を運転して二人のあとを追った。そして、危険なあおり運転を行った。両者の車は接触して、崖下に転落してしまう。やっとのことで白沢は生き残るが、マリとおきくは死んでしまう。
主を失ったフランソワでは、女給たちが次の身の振り方を秀二と相談していた。しかし、妹分だったけいは涙を流さず、フランソワを買い取って店を広げる算段を付けていた。