藤原審爾の脱獄小説原作を、内田弘三・土居通芳が共同脚色し、土居通芳が監督した脱獄アクション映画。
主演はジェリー藤尾。共演は多々良純、天知茂、星輝美。白黒シネスコ作品。
あらすじ
刑務所の27号室にカポネこと太田、通称教授の松田、バーテンこと土屋、色キチこと大平、それに密輸現行犯・海坊主が暮らしていた。ある日マイトと名乗る、初犯のビート族が入ってきた。マイトが大量のダイヤモンドを隠匿していると聞いて、一同は牢名主に昇格させる。そして仮出所する海坊主に命じて事実を確かめさせ、ダイヤを手に入れようとマイトを連れて集団脱獄した。
彼らは服屋に押し入り背広に着替えて、集合場所に集まる。そこでは海坊主は色キチを殺そうとしていたが逆に殺されてしまう。残った五人は宣伝カーを強奪し、バーテンが運転手になってダイヤを隠したという場所に急いだ。
宣伝カーは故障してしまう。山道でハイキングの女性たちと出会うや、たまらず色キチは飛び掛かってしまうが、猟師から奪った銃でカポネに撃ち殺される。マイトはその中の一人である八重を連れて行く。八重は初め嫌がっていたが、意外と優しいマイトに心を許すようになる。
山間でトラックを盗んだ一同は乗り換えて、バーテンの妻の実家のある村に赴く。バーテンは実家に向かったが、バーテンの妻は情夫と祭りに出かけていた。マイトは太鼓の音を聞くといてもたってもいられず、ヤグラに上がって自ら太鼓を叩く。ところがバーテンに追いかけられた女房は村の半鐘を叩いて助けを求め、ことが露見し、バーテンは村人たちに取り押さえられた。
カポネたちは群衆から走って逃れて山中に逃げこむが、マイトはマムシに噛まれ虫の息だ。柿の木にダイヤが埋まっていると聞き出した教授が柿の木を見つけて穴を掘るが、ダイヤは出てこずカポネに撃たれる。マイトにダイヤのありかを改めてカポネは問い詰めるが、マイトの最後の言葉は「あれはおれの夢よ・・・」。
その瞬間、瀕死の教授の持った猟銃が火を吹き、背中からカポネの心臓を撃つ。そして教授自身も命を落とす。そこへようやく八重が医者を連れて来るが、時すでに遅し。
雑感
刑務所六人房のリーダー格は「カポネ」(多々良純)、参謀格は詐欺恐喝罪で逮捕されていた「教授」(天知茂)だが、新入りのマイト(ジェリー藤尾)は刑務所生活での約束事など気にしない全学連世代である。ちゃっかりダイヤ強奪犯の一員であることをチラつかせてリーダーに収まる。ところがカポネたちが脱走してダイヤを横取りする計画を立てた時に、マイトは成り行きから断れず、一行とともに脱出する。一行は仲間の数が少なければ少ないほど利益が大きいため、隠し場所を知っているマイトを除き一人ずつ消されていく・・・。スリルとスピード、シュールさが同居したフィルム・ノワールの傑作。今、作り直したって成功すると思う。
新東宝最終年度の作品のため知名度は低いが、マナセ事務所で坂本九の影に隠れ気味だったジェリー藤尾の危なさと魅力が炸裂した作品で、カルト映画として未だにファンは多い。
名曲「遠くへ行きたい」で知られるジェリー藤尾は1941年上海日本租界生まれ。日本へ帰国後、英国人の母はアル中を拗らせ自殺。一時はグレてしまうが1958年に芸能活動を開始し「水原弘とブルーシックス」の歌手として日劇ウェスタン・カーニバルに出演し、1959年に映画デビュー、1961年にはレコード・デビューした。その直後の作品だ。
この映画の主題歌「地平線がぎらぎらっ」は初期作品のB面だが、隠れた名作である。
スタッフ
企画 小野沢寛
原作 藤原審爾
脚色 内田弘三 、 土居通芳
監督 土居通芳
撮影 森田守
音楽 松村禎三
主題歌 「地平線にぎらぎらっ」ジェリー藤尾
キャスト
新波(通称マイト) ジェリー藤尾
太田(通称カポネ) 多々良純
松田(通称教授) 天知茂
土屋(通称バーテン) 沖竜次
大平(通称色キチ) 大辻三郎
海坊主 晴海勇三
八重ちゃん 星輝美
土屋の妻睦子 万里昌代
睦子の情夫 中岡慎太郎
宣伝員 三宅実
お勝 小野彰子
月賦屋 鈴木信二