最近まれになったが、原題「Das Leben der Anderern」より邦題の方が格好いい。
原題を直訳すると「他人の生活」、ここで言う他人とは反体制派のこと。
はじめは重たい作品かなと思った。
でも後半から目が離せなくなり、どんでん返しがあって最後の台詞にはほろりときた。
監視社会の悲劇と言うより、ヒューマニズムの映画。
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東ドイツ1984年頃の話。
国家保安省(シュタージ)は体制側にとっての危険人物を監視、逮捕していた。
ヴィースラー大尉はそこの有能で冷徹な幹部。
しかし家に帰れば独身で、人から後ろ指をさされ娼婦を買うさびしい日々を送っている。
ある日、脚本家ドライマンと同棲相手の人気女優クリスタ・ジーラントを監視する命令を受ける。
早速部屋に盗聴器を仕掛けるが、そこから夜聞こえてくる情熱的で魅力ある会話にときに彼は聞き入ってしまう。
ドライマンの先輩イェルスカが世をはかなんで自殺した。
ドライマンは大いに悲しみ「善き人のためのソナタ」という曲をピアノで弾いたとき、ヴィースラーも激しく良心を揺すぶられる。
やがてヴィースラーの部長への報告書に手心が加えられていく。
一方、クリスタは大臣からの床接待を強要され精神がまいってしまい薬物を乱用していた。
ヴィースラーは通りすがりのファンを装い、場末の酒場で酔う彼女に芸術家としての誇りを取り戻して欲しいとお願いする。
彼女は一旦立ち直るが、相手にされなくなった大臣は部長に命じて薬物乱用で彼女を逮捕させる。
部長はヴィースラーに彼女の取り調べを担当させる。
ヴィースラーはドライマンが西側に漏らしたことについて証言を求める。
彼女はやむを得ず証拠のタイプライターが隠してある場所を教えてしまう。
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ドライマンの運命や如何に。
この映画を見ていて松本清張原作、野村芳太郎監督、山田洋次助監督の1958年松竹映画「張込み」を思い出した。
大木実演ずる刑事が強盗殺人犯を追って九州まで行き、犯人のかつての恋人高峰秀子を張り込む話(犯人役は当時若手だった田村高廣)。
刑事が張り込みの対象である高峰秀子にじわじわと感情移入していく描写が素晴らしかった。
最近はビートたけしと緒形直人主演でテレビ朝日のスペシャルドラマにもなった。
しかしこのドイツ映画はいくつかの実話を切り貼りして作られたものらしい。
東ドイツにも騎士道精神はあったのだろう。
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2006年アカデミー賞外国語映画賞受賞作品。
監督・脚本 フロリアン・ヘンケル・フォン・ドナースマルク
主演ヴィースラー役のウルリッヒ・ミューエ自身もシュタージに監視されていた。
実際は当時の妻が非公式協力者の形でシュタージに情報提供していたらしい。
脚本家ドライマン(演:セバスチャン・コッホ)と同じ立場だったのだ。
もともと若い頃から胃潰瘍を患っていたが、アカデミー賞の直後に胃がん手術を受け7月に急逝した。
Das ist für mich.