ヒマラヤの奥地で発見された北京原人が、香港で見せ物にされて暴れ出し、ビルから落下して死ぬまでを描く。
「キング・コング」の無許可香港版である。
製作総指揮はペン・チェンで、イー・クワンの脚本をホー・メン・ファが監督した。
特効監督は、有川貞昌(東宝の二代目特撮監督)が担当した。
主演はダニー・リー、スイス人女優のエヴリン・クラフト。
共演はシャオ・ヤオ、クー・フェン、リン・ウェイツー。
香港公開時の題名は「猩猩王」。カラー映画。
あらすじ
香港のプロデューサー、ルーは、60年代にヒマラヤの大地震で岩石の間より怪獣、北京原人が出現したことを調べ上げた。早速、隊長は珍獣ハンターのジョニーを起用して、探検隊を組織した。
しかし、道中は厳しい道のりで、ルーや隊員は逃げ出してしまった。ジョニーがただ一人でジャングルに入ると、突然巨大な北京原人に襲われ気を失う。
野生の金髪半裸美女に介抱されているのを、ジョニーは気が付く。彼女の名前は、サマンサと言った。彼女は、20年前にヒマラヤで両親とともに飛行機に乗っていたが、その飛行機は墜落して、両親は亡くなり、彼女は北京原人に育てられた。ジョニーは、サマンサを説得して、航路で北京原人を香港に連れていく。北京原人が香港に着くと、ルーは大金持ちになり、北京原人は香港人の見せ物になる。一方、ジョニーが昔の恋人リンと会っているのを見たサマンサは、嫉妬の余りジョニーから離れ、香港の街へさまよい出る・・・。
雑感
ディノ・デ・ラウレンティス制作のヒット映画「キング・コング」(1976年リメイク、ジェシカ・ラング出演)に刺激されて、香港のショウ・ブラザーズ社は「キング・コング」同様の猿人映画を企画した。
それもほとんどパクリである。香港映画だから訴訟沙汰にならなかったのか?
最初、ショウ・ブラザーズは、元大映の「大魔神」スタッフを呼んだ。その時点で北京原人は毛が白くて雪男のようだった。でも着ぐるみの毛が抜けてしまい、造形を一からやり直しとなった。大映特撮班のビザが切れてしまい、彼らは帰国した。
造形担当の村瀬継蔵だけが後に残り、次に東宝の特撮班を呼んだ。東宝の藤本真澄社長は協力的で、特技監督有川貞昌と特技助監督川北紘一を快く貸してくれた。そして雪男でなく、よりキングコング的な黒い猿人キャラクターにした。そのため、ヒマラヤの奥地と言う設定は、雲南省あたりのジャングルに変更されている。「女ターザン」の設定もこの時加わったのだろう。大映で問題が発生した原人の毛は、香港人の人毛を使うことで解決した。
なお造形の村瀬継蔵は他にも、暴風シーンの特撮監督と、ラスト・シーンの原人がビルから落下するシーンのスタントも演じている。
主演のダニー・リーは、刑事映画で有名である。
ヒロインのエヴリン・クラフトは、ロシア生まれでスイスに国籍を移している。香港映画は二作目。
ジョニーやサマンサは、日本語吹替え版での名前である。香港語版では、ジョニーはチェンであり、「女ターザン」サマンサは文明と離れて育ったため言葉が苦手なのでアーと名付けられた。
テレビ局の録画シーンで挿入される曲は、英国ポップス調だった。当時この分野だけは、香港の方が洋画風で、泥臭い日本の劇伴音楽よりカッコが良かった。
スタッフ
製作総指揮 ペン・チェン
製作 ヴィー・キング・ショウ、チュア・ラム
プロデューサー チャイ・ラン
監督 ホー・メン・ファ
脚本 イー・クワン
撮影 ソウ・フィチィ、ウー・チョウファ
特撮監督 有川貞昌(東宝)
特技助監督 川北紘一(東宝)
造形 村瀬継蔵
音楽 チェン・ユン・ユー
キャスト
チェン・チェン・フェン(ジョニー) リー・シュウシェン(ダニー・リー)
アー・ウェイ(「女ターザン」サマンサ) エヴリン・クラフト
ホワン・ツイホア(ジョニーの元カノ、リン) シャオ・ヤオ
ルー・ティエン(悪徳プロデューサー) クー・フェン
チェン・シーユー リン・ウェイツー
アー・ルン スー・シャオシャン
***
ルーがサマンサを抱こうとしたとき時、北京原人はこれを覗いて枷から逃れて暴れ出した。ルーはあえなく原人に踏み潰された。
事態を重く見た軍と警察は、戦車、ヘリコプターを出動させる。一方、北京原人は超高層ビルの屋上に登った。チェンは警察に、サマンサなら北京原人を説得できると言って、二人で屋上に登る。ジョニーが爆弾を解除している間に、サマンサが原人に語りかけ、原人は落ち着きを取り戻す。
ところが、軍と警察はジョニーを裏切り、射撃を開始する。流れ弾に撃たれてサマンサは死ぬ。そして下の階にセットされていた爆弾が爆発して、北京原人はビルから落下して地面に叩きつけられ死ぬ。ジョニーだけが、生き残って呆然と屋上から立ち上がる炎を見ていた。