監督 : 小林正樹
製作 : 細谷辰雄
原作 : 滝口康彦
脚色 : 橋本忍
撮影 : 宮島義勇
音楽 : 武満徹

 

配役:
仲代達矢 (津雲半四郎、主人公)
岩下志麻 (津雲美保、半四郎の娘)
石浜朗 (千々岩求女、最初に切腹事件を起こす)
稲葉義男 (千々岩陣内、千々岩の父親、福島正勝に殉死)
三國連太郎 (斎藤勘解由、井伊家江戸家老)
三島雅夫 (稲葉丹後以下井伊家侍)
丹波哲郎 (沢潟彦九郎、千々岩求女の介錯人)
中谷一郎 (矢崎隼人、沢潟の同僚)
青木義朗 (川辺右馬介、同上求女の死後余計なことを言って津雲を怒らせる)

 
井伊家は未だにあるのに、こういう扱い方をされて怒らないのだろうか?
この話じゃ井伊家は馬鹿侍の集まりだ。

 
☆あらすじ 

井伊家江戸屋敷に、津雲半四郎が「庭先で切腹させてくれ」と頼んでくる。
井伊家江戸家老斉藤は「実は」と、春先にそこで切腹した千々岩という男の話をする。
その男は強請たかりのつもりで切腹したいを言ってきたのだが、井伊家は男に無理腹を切らせた。
しかも男は竹光しか持っていなかったため、腹を切っても死にきれず舌をかみ切ったという。
津雲は「私は覚悟は出来ている。」と言い、いかにも死ぬ気だったので、斉藤も切腹を許す。
しかし介錯人を選定する段で困ったことが起きる。
津雲は三人を指名したのだが、三人とも当日は休んでいたのだ。
斉藤は三人を呼びにやる。
その間、津雲は昔話を語りはじめる。
千々岩は津雲の婿だった。
福島家の改易に連なり浪人に成り下がり、苦労して津雲の娘を妻とするが、貧乏な生活は変わらず。
妻と子が高熱を出して、一計を案じた千々石は井伊家江戸屋敷に出向く。
しかし思惑は外れた。
その夜変わり果てた姿で、津雲の前に帰ってきたのだ。
遺体を引き渡した、井伊家の三人の武士は笑っていた。
津雲はその三人が許せず、一人一人の髷を切った。
だから彼ら三人は出仕しなかったのだ。
斉藤はそれを聞いて怒りに震え、津雲の討ち取りを命じた。
 


自殺志願者は実はテロリストだったわけだ。
浪人と仕官している侍の違いって大きい。
浪人は武士の情けを重視する。
というのは浪人は長屋にいても、町衆が親しくつきあってくれるわけではない。
浪人はやはり武士なのだ。だから同じ武士同士に甘えてしまう。

千々石だって津雲だって、そういうところはあった。
 
でも仕官組は浪人を仲間だと思ってない。
同じ侍だが、敗北者だと思い、差別している。
同じ大学を出ても、役人が幅を利かせ、民間が小さくなる時代が長く続いた。
あれと似たようなものだろう。

 

仲代達矢は当時まだ30歳。
それで50ぐらいの陰影のある役をやるのは、さすが演技派だ。

 
でも松竹の殺陣は全く下手だった。
丹波と仲代の殺陣のシーンは見せ場だったのかも知れないが、変に格好を付けるだけで真実みに欠けた。
 

岩下志麻はお歯黒の役で色気を感ずることは全く無かった。
それより鬼気迫るメイクに唖然とした。
62年と言えば小津安二郎「秋刀魚の味」に出演した年であり、両極端だ。
松竹は60年頃陳腐なメロドラマをトップ女優にやらせていたから、みんな飽き飽きして女優魂に火がつくのが早かったんだろう。
 


三国連太郎
のこの時代はどうもうまいと思わない。
 
それより三島雅夫がいい。
 
あと石浜朗が竹光で苦しみの立ち回って切腹するシーンはリアリズムだな。

 
カメラはとくに目立った動きはなかったが、ライティングが良い。
モノクロカメラの特徴をうまく出している。
仲代の実年齢より老けた役をやらせるのにも役だった。
やせ細って、でも目だけギラギラしている様子をアップで捉えたときは圧巻だった。
最後に、この映画は橋本忍脚本も良かった。

 
ありきたりの脚本になりがちだが、そうはならなかった。
そういうすべて統括した小林正樹監督も凄い。
今の松竹にはこんな人はいない。

切腹 1962 松竹

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切腹 1962 松竹” への0件のフィードバック

  1. 「切腹」

    侍ブームと言われていますが、
    これを見ずして侍は語れない!と言いたい。
    「切腹」は、
    「いのちぼうにふろう物語」、「怪談」「上意討ち-拝領妻始末」などの名作を手がけた、
    小林正樹監督の最高傑作(と、私は思います)です。
    橋本忍の脚本が
    最初から最後まで見るものを引っ張り、息をつかせません。
    映画を通して貫かれているのは
    仲代達矢扮するひとりの侍の激しい「怒り」です。
    その憤怒に圧倒されて、私たちは物語に引きずり込�…

  2. 世間で巨匠と言われる方の時代劇からどうでも良い時代劇、数かれど何と言ってもこの「切腹」がNo.1。松竹の、いや我が国の映画界の「良心」そのものだ。沢山カネ出してやるからと言ったところでこの作品以上(いや同レベルで良い)のものを創れる人間は今は絶対にいないな。とほほだよ。

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