ルーサー・デイヴィスのオリジナル脚本を、TV演出家のウォルター・グローマンが監督したサスペンス映画。
テレビのスタジオ・ドラマのような規模だが、思ったより内容は深い。
1964年に作ることができたのは、新しいものを見ているテレビマンの力だったと思う。
主演はオリヴィア・デ・ハヴィランド。
共演は若き日のジェームズ・カーン、中年になったアン・サザーン、ジェフ・コーリー。白黒映画。
あらすじ
近所は既に貧民窟となったため、その真ん中にあるヒルヤード夫人のお屋敷は、今では浮いた存在となってしまった。
夏のある日、30歳になる息子マルカムは「手紙を書いたから後で読んで」と言って旅に出かけた。脚の悪く階段を登れない夫人は手紙を読むため、エレベーターに乗って二階に上がろうとした。エレベーターは二階まであとわずかのところで、停電のために止まり、夫人は宙ぶらりんになってしまった。非常ベルを鳴らしたが、道路工事の音に紛れて周囲の人間は誰も気付かない。
アル中の浮浪者リペント(「悔い改めよ」が口癖のため)が非常ベルに気づき、屋敷に侵入したが、夫人のことは無視して高級ワインとトースターを盗んで逃げた。
リペントは、故買屋にトースターを売り付けた後、暇な娼婦セードを手伝いとして連れて、再び盗みに入る。
しかし彼らがお宝を探しているときに、不審に思い跡を付けていたランドール、イレイン、エシーのチンピラ三人組に急襲される。三人組は、リペントとセードを奴隷のようにこき使い、金目のものを盗み出した。その上で犯行を隠すために夫人、セード、浮浪者を消すことに決めた。
まずリペントを無慈悲にエシーが刺し殺す。次にランドールが、エレベータをこじ開け、夫人を襲う。もつれ合って夫人は隠し持った金具で首を刺すが、分厚い筋肉に金具はひん曲がる。ランドールとイレインは思わず失笑する。
そこへエシーが、夫人の息子マルカムの置いていった手紙を見つけて降りてきた。ランドールは、面白がってそれを読み上げる。そこには、夫人が息子離れをしない限り彼は自殺すると書いてあった。30歳にもなってマザコンの男の戯言だった。夫人は、ショックで失神する・・・。
雑感
これは、オリビア・デ・ハビランド48歳の時上映された作品だ。
これ以後、彼女はサスペンスによく出演した。
この人は、誰もが「風と共に去りぬ」のメラニーのイメージで見ているから、保守的だと思ってしまう。実は民主党左派の支持者で、赤狩り以前は共産党に近い思想の持ち主だった。
だから、隣に誰が住んでいるかわからなくなったアメリカ社会が、どんどん狂気に犯されていく様を敏感に感じ取っていたのだ。
とくに否応なしに時代は転換するのに、旧勢力が時代に適応せずいつまでも保守的であろうとすることが、最も恐ろしい。
この作品は、パラマウントに興行的に利益をもたらした。
一方、批評家の評判は散々だったようで、アカデミー主演女優賞を二度受賞したオリビア・デ・ハビランドの主演に対する批判は特に大きかった。
それはこの作品が悪いのではなく、映画評論家が現実社会についていけてないことを表している。
シャロン・テート事件のようなことが起きるのは、5年後のことだ。その後次第に、この作品は再評価された。
原題は、「鳥かごの中の貴婦人」のような意味だろう。邦題は、最後にお見舞いした逆襲の一発を表している。
スタッフ
製作、脚本 ルーサー・デイヴィス
監督 ウォルター・グローマン
撮影 リー・ガームス
音楽 ポール・グラス
キャスト
ヒリヤード夫人 オリヴィア・デ・ハヴィランド
娼婦セイド アン・サザーン
アル中のリペント ジェフ・コーリー
ランドール ジェームズ・カーン
イレイン ジェニファー・ビリングスリー
エシー ラファエル・カンポス
息子マルコム・ヒリヤード ウィリアム・スワン
***
そのとき、故買屋のポールが仲間を連れて金目の品物を盗みに来た。セードが、ランドールにお返しするために、ポールに密告したのだ。三人組は、本物のヤクザであるポールたちにボコられる。
その間に夫人は、ランドールが持って来たハシゴを使ってようやく地上に降り、外に助けを求めた。それに気付いたランドールは夫人を殴り蹴ったが、夫人は例の金具を使い、ランドールの両目を潰す。如何に筋骨隆々でも眼球攻撃は完全な不意打ちだった。
目の見えないランドールは、夫人の助けを求める声を聞いて、外に出て行き、車にはねられて死んだ。通りがかりのパトカー警官が、残りの2人も逮捕した。
いつの間にか、電気の接触が良くなりエレベーターは動きだした。