北京から上海へ向かう「上海特急」をめぐる中国軍閥の陰謀と女性たちの勇敢な行動を描く。
「間諜X27」に次ぐジョセフ・フォン・スタンバーグ監督による作品で、ハリー・ハーヴェイの原作小説をジュールス・ファースマンが脚色し「間諜X27」と同じリー・ガームスが撮影した。白黒映画。
主演者はドイツ人女優マレーネ・ディートリッヒ(「間諜X27」)と英国人クライヴ・ブルック、共演はアンナ・メイ・ウォン、ワーナー・オーランド、ユージーン・パレット、グスタフ・ヴォン・セイファティッツら。ユダヤ人スタンバーグ監督とドイツ人ディートリヒの組み合わせは、これで4本目である。
あらすじ
北京を発った上海特急でかつての恋人同士、今では数々の浮名を流す上海リリーと英陸軍ハーヴェイ大尉(軍医)が再会する。二人は数年前に詰まらない痴話喧嘩から別れた。
リリーは高等教育を受けた中国娘フェイと同室だった。他には中国人と欧州人の混血であるヘンリー・チャンがいた。彼は欧州の血を忌み嫌っていた。
北京を出て中国政府軍に一時停車を命じられた。車内はくまなく捜索され、一人の中国人が反乱軍のテロリストとして捕らえられた。
その夜、反乱軍は上海特急を襲撃した。チャンの正体は反乱軍の司令官だった。彼は英国の上海総督に電報を打ち、上海特急に軍医ハーヴェイが乗っていることを告げ、捕まったテロリストを返さなければハーヴェイを殺すと告げた。その証拠にドイツ人バウムに焼印を押して帰した。
チャンは色魔であり、高貴な中国人フェイを犯す。さらにフランス人の通訳を勤めたリリーにも毒牙を向ける。
テロリストが英軍により解放された。リリーはハーヴェイが帰ってこないので、調べるとチャンが焼きごてでハーヴェイを盲目にすると言っている。彼女はチャンのいう通りにすると答えると、ハーヴェイは許された。ハーヴェイはリリーが金に目がくらんだと信じてしまう。
しかしチャンは背後に隠れていたフェイに刺殺された。それを知ったハーヴェイはリリーにそのことを知らせて、一緒に列車に帰り、急いで上海特急を出発させる。
ハーヴェイは当初、リリーが中国人に身を売ったと思い、冷たかった。しかし、それまでリリーに批判的だったカーマイケル氏が事件後ただ一人リリーに非常に同情的になる。不審を抱いたハーヴェイはようやくリリーが真実を隠していたことを知り、二人の愛はついに実る。
雑感
マレーネ・ディートリヒのリー・ガームズによる撮影が非常に印象的。この作品でリー・ガームズはアカデミー撮影賞を受賞した(実際はスタンバーグ監督が指示していた)。
ロック・バンド、クイーンのアルバム「クイーンII」のジャケ写でフレディ・マーキュリーが彼女の真似をしている。
マレーネ・ディートリヒは、MGMのグレタ・ガルボに対抗して、パラマウントに招聘され、大きな円弧を描く細眉で魅せる退廃的美貌は「100万ドルの脚線美」と称えられた。
筋書きとしては、ハーヴェイ大尉が上海リリーに助けられたのにすぐ気付かないのが、あまりに鈍感すぎる。英国人とはそんなものなのかもしれないが。
マレーネ・ディートリヒとスタンバーグ監督の蜜月は1935の「西班牙協奏曲」まで続いたが、映画が失敗して二人の関係も終焉を迎える。
軍閥の長を演じた悪役ワーナー・オーランドは生粋のスウェーデン人なのだけれどアメリカに移住して映画界に入り、何故かアジア人役を多く振られた。特にハワイの名刑事「チャーリー・チャン」シリーズ16本をフォックスで撮り、17本目を撮影している最中に亡くなる。
主人公二人が再び結ばれ、ハッピーエンドにおさまったけれど、上海の愛人が出てきて別れなければならないと言うサッドエンドも見たかった。
最後にフォン・スタンバーグ監督はアジアが好きなのかな。中国を舞台にした「上海特急」だとか、日本人の異常な恋愛を描いた「アナタハン」だとかいくつか映画を撮っている。でも「上海特急」の時代は1931年に「柳条溝事件」という満鉄爆破テロ(関東軍の陰謀)が起きて日中間が緊張し始めた時期だ。もう少し後でこの映画を撮影されていたら、悪役は日本人になっていたに違いない。
スタッフ
監督 ジョセフ・フォン・スタンバーグ
脚色 ジュールス・ファースマン
原作 ハリー・ハーヴェイ
撮影 リー・ガームス (アカデミー撮影賞)
キャスト
上海リリー マレーネ・ディートリッヒ
ハーヴェイ大尉(軍医) クライヴ・ブルック
フェイ アンナ・メイ・ウォン
ヘンリー・チャン ワーナー・オーランド
博徒サム・ソルト ユージン・ポーレット
ハガティー夫人 ルイズ・クロッサー・ヘイル
エリック・バウム グスタフ・フォン・セイファーティッツ