不良少年三人の更生物語に吉永小百合が色を添える。監督は舛田利雄、音楽は中村八大でジャズ中心。主演は坂本九、浜田光夫、高橋英樹、共演は吉永小百合、渡辺トモコ、芦田伸介。上映当時の併映は石原裕次郎主演の「銀座の恋の物語」。

 

あらすじ

 
不良仲間だった九ちゃんと良二は少年鑑別所を出所して、九は保護司永井の運送店に勤め、良二はドラマー牧のボーイになる。牧はかつてはスターだったが、ヒロポン中毒になり、不良少年健が仕切るノミ屋の常連だった。健は自分を勘当した父に見直してもらいたくて、隠れて大学受験の勉強をしている。さらに永井の長女紀子はその大学で健の兄と交際している。
九は小児マヒで脚が不自由な、永井の次女光子のリハビリを根気強く続けてついに歩けるようにした。そのお礼に永井は軽トラを九に買ってやる。一方、牧はヒロポン中毒が酷くなり、長期療養が必要となり、ドラムセットを手放す。良二は九に窃盗を持ちかけるが、九は断る。しかし良二に車を盗まれてしまう。健のいない間に永井運送店の若い衆がノミ屋組織を壊滅させる。健は永井運送店に単身殴り込むが、かつての仲間と拳を交える内にもう一度まっとうに行きたいと言う気が湧いてくる。九は体を張ってドラムセットを取り返すが、そんなことを知らない良二は事故で車を大破させる。九と良二は殴り合いの喧嘩になるが、結局肩を抱き合って泣くのだった。
最後は皆で「上を向いて歩こう」の合唱。
 

 

雑感

 
舛田利雄監督は若者(浜田光夫、高橋英樹、吉永小百合は未成年だった)に多くを望みすぎた。山田信夫の脚本も難しく、1時間半の映画にまとめるには人間関係が複雑すぎた。
坂本九はダニー飯田とパラダイスキングに在籍していた時代から出演していたが、演技はいつもながらのマイペースだ。
浜田光夫は自暴自棄な不良少年役を演じたが、力が入りすぎて見ていられなかった。これ以前に吉永小百合とコンビを組んだ映画「ガラスの中の少女」「さようならの季節」を撮っていて演技経験は十分だったのだが、まだ若くて演技の引出が小さかったのだろう。
高橋英樹は1961年日活ニューフェイスとしてデビュー、「上を向いて歩こう」では吉永小百合の相手役だが、坂本九、浜田光夫に次ぐ三番目のクレジット。この映画が公開された後、急逝した赤木圭一郎の代役として急遽抜擢され、スターダムを登り始める。
吉永小百合も当時何本か主演しており既に人気アイドルスタアだったが、ターニングポイントとなった「キューポラのある街」より前に公開された作品である。

 
「上を向いて歩こう」は、1961年に中村八大リサイタルで坂本九がぶっつけ本番で歌った曲。レコード化されるとロカビリー風の歌唱にポップスの哀愁あるメロディの組合せがヒットして、坂本九は紅白歌合戦に初出場する。(作詞の永六輔は「うえをむうひて」と歌う彼独自の歌唱法がはじめは気に入らなかった)
翌年1962年日活で映画化されて、この曲は主題歌(ED)に採用され、カプリング曲「あの娘の名はなんてんかな」が映画挿入歌になる。とくにエンディングでは、この2年後に東京オリンピックが開かれる国立競技場をバックにして高橋英樹、吉永小百合、浜田光夫、渡辺トモコら豪華共演者のコーラス付きで、原曲通り(サビ無しAABAB構成)ではなく、特別バージョン(4番の「冬の日」を加えたAABA-AABA構成)を坂本九は歌っている。この映画の価値はこのエンディング・シーンにある。
11月には続編的な作品「ひとりぼっちの二人だが」(主題歌:坂本九「ひとりぼっちの二人」)が公開される。

 
その頃、英国で「上を向いて歩こう」のインストルメンタル版にヒットの兆しが見られた。そこで英国内で坂本九の日本語ボーカルのレコードが発売される。タイトルを「スキヤキ」と命名したのは歌手ペトラ・クラーク(「チップス先生さようなら」キャサリン役)である。アメリカでも1963年5月にレコードが発売される。これが爆発的ヒットとなり、6月に入ると三週間連続全米一位を守り、1963年の年間全米第10位となった。

スタッフ・キャスト

 
監督 舛田利雄
脚本 山田信夫
企画 水の江滝子
撮影 山崎善弘
音楽 中村八大
 
配役
河西九 坂本九
左田良二 浜田光夫
松本健 高橋英樹
永井紀子 吉永小百合
永井光子 渡辺トモコ
永井徳三 芦田伸介
久米刑事 嵯峨善兵
ジェシー・牧 梅野泰靖
黒木恵子 高田敏江
運送店員 ダニー飯田とパラダイスキング
正一郎 清水将夫
 

上を向いて歩こう Keep Your Chin Up 1962.3 日活 歌謡映画

投稿ナビゲーション