シドニー・A・フランクリンが製作した3つのエピソードを集めたオムニバス恋愛映画。シネスコ・テクニカラー作品。
第1話「嫉妬深い恋人」はバレリーナの話で、ゴットフリード・ラインハルトが監督を務め、脚本はジョン・コリアー。
主演はジェームズ・メイスン、モイラ・シアラー。
第2話「マドマアゼル」は家庭教師と大人の世界に憧れる少年の話で、監督ヴィンセント・ミネリ、共同脚色ジャン・ラスティグ、ジョージ・フローシェル。
主演はレスリー・キャロン、ファーリー・グレンジャー、エセル・バリモア。
第3話「均衡」は空中ブランコの話で再び監督ゴットフリード・ラインハルト、脚色ジョン・コリアー。
主演カーク・ダグラス、ピア・アンジェリ。
あらすじ
ニューヨークへ向かう豪華船に乗船していたバレエ演出家カウトレーは、彼の新作バレエ「アスタート」を再演しない理由について尋ねられ、心の奥に封印していたことを思い出してしまった。
(第一話〕ロンドンの劇場でのバレエ「アスタート」主演オーディション中に夢中になって踊っていたポーラが倒れて、失格となった。素晴らしいダンサーだったが、心臓が悪くて長いバレエの振り付けに耐えられなかったのだ。
「アスタード」の公演終了後、ポーラは内緒で舞台に入り込んで今日見たバレエを踊ってみた。カウトレイは彼女の姿を見て惚れ込み、打ち上げも放り出して彼女をスタジオに連れ込んだ。ポーラはそこでも夢中になり踊り狂った。しかし翌朝、カウトレイはポーラが昨晩のうちに突然死したことを知った。
カウトレーは船上で、女性の足音で現実に引き戻された。家庭教師である若い女性が通り過ぎていった。実は、彼女にも不思議な思い出があった。
(第二話〕彼女はローマで米国外交官キャンベル家に家庭教師として特に詩を教えるために雇われた。教え子トミイは勉強が嫌いであり、特に発音が苦手だ。トミイは魔法使いと呼ばれるペニコット夫人にお願いして、夜の8時から12時まで大人にしてもらう。
トミーは午後8時に魔法のリボンを持ったまま床に入って夫人の名前を唱えると、いつの間にかイケメンの青年になっていた。早速憧れていた酒場へ行ってカクテルを頼むが、蒸せてしまう。トミーは残り少ない時間を楽しもうと、夜の公園に出かけた。そこにはおめかしをした家庭教師がいたが、相手がいないのか寂しそうだった。悪い子だったような気がして、トミーは彼女に声をかけた。家庭教師は自分のことをわかってくれるこの青年に対して好感を持った。馬車に乗っていたが、12時の鐘が鳴り始めた。慌てて帰ろうとするトミーに、家庭教師は明朝10時ローマ駅での再会を約す。キャンベル家はローマを去るので彼女も見送ることになっていたのだ。
翌朝、マドマアゼルはイケメン青年を待っていたが現れなかった。トミーは元の姿に戻っていたからだ。彼女はローマに留ろうと思うが、魔法使いのペニコット夫人が現れ、いつまでも待たない方がいいと言って、立ち去った。
結局、彼女はローマに残らず再就職先を決めてアメリカへ船で渡る。彼女に声をかける青年がいた。彼女は彼との出会いに運命的なものを感じた。そばで海を眺めるピエールも不思議な経験をしたことがあった。
(第三話〕パリで、ピエールは身投げしたニーナという女を助けた。彼女はスキー・ジャンプの選手だったが、結婚した。しかし夫はナチス強制収容所に囚われて、彼女の手紙が原因で処刑されていた。彼女は絶望して身投げしたのだ。
ピエールは空中ブランコのスターだったが、パートナーの女性を事故で死なせてから、自転車の修理工になっていた。しかしニーナを知ってから、再び大きなサーカスでの復活を夢見るようになった。
生きる目標を失っていたニーナは、死ぬ気で第二の人生を捧げるつもりで彼の弟子になった。バランス感覚が人より秀でていたため見る見る上達していった。
厳しい訓練を経て、ニーナは立派な演者になり、ある日興行師の前で空中ブランコのオーディションを受けることになった。最後の演技の直前に突然興行主に声を掛けられた。ニーナのネットを外せというのだ。ピエールは愛する人を失う恐怖に駆られる。ピエールは興行主が直前の変更をしたことでナーバスになったが、ニーナは彼以上に度胸があった。
ピエールは折れて契約は成立し、二人はこの船で渡米して、ついに全米を股にかけてサーカスに出演する。しかし何より、二人は今や愛し合っていた。
雑感
三つのお話は無関係にあるわけでない。第一話は女の悲劇だったが、第二話ではヒロインに魔法が掛かっていて新たな恋を見つける。そして第三話に至って、女は相手を信じて自力で幸せを掴む。
(第一話)モイラ・シアラーの3番目の映画作品。初のハリウッドMGM作品だ。「赤い靴」とモイラ・シアラーをイメージして作られた脚本だろう。
しかし公開された年にバレエから引退をしている。美しさ、成熟度、色気は持っているんだが、確かに高いジャンプだとか、静止が下手になったかもしれない。少なくとも先輩マーゴ・フォンテインとは比べるべくもない。
アグネス・ムーアヘッドがポーラの叔母役で出演し、彼女の最後を看取る役である。
(第二話)レスリー・キャロンにとっては「巴里のアメリカ人」に次ぐ映画出演作だ。この後で、「リリー」に出演する。
彼女もバレリーナ出身なのだが、この映画では家庭教師の役を割り当てられた。教え子トミー少年はのちのアイドルであるリッキー・ネルソンだ。そして魔法使いの魔法によって成長した姿のトミーはファーリー・グレンジャーが演じている。魔法使いはエセル・バリモアが演じている。
二人が別れてしまうサッド・エンドではなく、最後はキャロンが新たな恋を見つけるように魔法をかけてもらっているからハッピーエンドで終わる。
(第三話)カーク・ダグラスにとっては、アカデミー賞候補となった「悪人と美女」の次の公開作品。
ピア・アンジェリはMGMにイタリアからハリウッドに招聘されるが、その後ジーン・ケリーがレスリー・キャロンをフランスのバレー団から発掘したため、二人をこの作品で比べてみて、MGMはレスリー・キャロンを売り出すことに決めて、ピア・アンジェリは他のスタジオに貸し出された。
MGMも二人を比べるより前にもっとリストラできる若手女優はいたと思う。実にもったいない。ピア・アンジェリはこの作品でかなりの部分をスタントもつけずに懸命に演じていたのに。
MGMのゴージャスな映画には貧乏くさいのかもしれないが、フランス映画のファム・ファタール役だったら十分に映えたろう。
なおカーク・ダグラスと恋多き女ピア・アンジェリは短い期間付き合ったそうだ。その後彼女はジェームズ・ディーンと付き合い、彼と宗教上の問題で別れた後は、歌手のヴィック・ダモンと結婚する。
スタッフ
監督 ゴットフリード・ラインハルト 、 ヴィンセント・ミネリ
脚本 ジョン・コリア
脚色 ジャン・ラスティグ 、 ゲオルク・フレーシェル 、 ジョン・コリア
原作 アーノルド・フィリップス 、 ラディスラス・ヴァイダ 、 ジャック・マレ
製作 シドニー・A・フランクリン
撮影 チャールズ・ロシャー 、 ハロルド・ロッソン
音楽 ミクロス・ローザ 、 ダグラス・シアラー
主題歌 ラフマニノフ「パガニーニ狂詩曲」
キャスト
第一話
チャールズ・カウトレー ジェームズ・メイソン
ポーラ・ウッドワード モイラ・シアラー
リディア叔母 アグネス・ムーアヘッド
第二話
成長したトミー ファーリー・グレンジャー
家庭教師 レスリー・キャロン
ベニコット夫人 エセル・バリモア
トミー(子役) リッキー・ネルソン
バーの女 ザ・ザ・ガボール
第三話
ピエール・ナーバル カーク・ダグラス
ニーナ ピア・アンジェリ
マルセル リチャード・アンダーソン (600万ドルの男、バイオミック・ジェミー)