レイモンド・チャンドラーのハードボイルド小説「長いお別れ」の映画化。
監督は鬼才ロバート・アルトマン、脚本は「リオ・ロボ」のリー・ブラケット。
主演は二年ぶりの映画出演であるエリオット・グールド、共演はニーナ・ヴァン・パラント、スターリング・ヘイドン、マーク・ライデルら。
あらすじ
早朝、探偵フィリップ・マーロウの元に友人テリーがやってきた。夫婦喧嘩をして顔に傷を受けていたが、男たちに追われているのでメキシコのティファナに行きたいと言う。マーロウは頼まれて、メキシコ国境まで車で送っていく。
自宅に帰ると、テリーの妻シルビアが殺されたと知らされる。ハリーと共犯を疑われたマーロウは警察に留置されたが、三日後釈放される。テリーがティファナから遠く離れた町オタトクランで拳銃自殺したためだった。
マーロウに作家ロジャー・ウェイドの妻アイリーンから夫の捜索依頼があった。ウエイド家を訪ねたマーロウは、夫人から「ドクターV」というメモを見せられる。調査すると、「ドクターV」とは精神科医ヴェリンジャーのことだった。書けなくなったロジャーは、ヴェリンジャーの施設で酒を飲んで、くだを巻いていた。マーロウはウエイドを施設から引き取って自宅に送り返す。
マーロウがアパートに戻るとギャングの一団に襲われる。マーティ・アーガスティンはテリーの親分だった。アーガスティンはテリーに大金35万ドルを運ばせていた。ところがテリーがメキシコで自殺してしまい大金が紛失し、友人のマーロウがその金を隠したと思っていた。
マーロウがギャングを尾行すると、ウェイド邸に入っていき、アイリーンと話し込んでいた。アイリーンとテリーの死が繋がるのだろうか?
マーロウはオタトクランを訪れるが、検死も行われ現地の警察は自殺だと思っているようだ。
ウェイド邸では近隣の者を集めてパーティーを開いた。その場でヴェリンジャーは、ロジャーが治療費の滞納をしていることを暴露して、四千四百ドルをロジャーからせしめた。
その夜、酔ったウエイドはアイリーンとマーロウの隙を見て、入水自殺してしまった。マーロウが、ロジャーはシルビアと浮気していたと告発すると、警察はロジャーがシルビアと会ってからヴェリンジャーの施設に入院したことを認めた。
大金を探しているオーガスティンにマーロウは捕まり、裸にされそうになったが、突然その金が返され、マーロウは無罪放免となった。その時ウエイド夫人の乗った車が走り過ぎていく。翌日、ウエイド邸に訪れるが、未亡人は引っ越していた。
テリーが生存していると考えたマーロウは、メキシコに行き、検死官にテリーからもらった5000ドル札を渡すと、テリーが偽装自殺を依頼していたことが分かる。マーロウはロジャーがシルビアと浮気していたと推理していたが、実はアイリーンがテリーの浮気相手であり、当日ロジャーはシルビアにそのことを告げたのである。
テリーに裏切られたマーロウは、テリーの居場所を探り、射殺する。死んだことになっている人間をメキシコでもう一度殺したって警察は罪にできない。
雑感
原作からラストで重大な改変があり、そのことに違和感を感じる。しかしこの映画が時代設定を現代に置き換えた作品であり、マーロウがシルビアに対して好意を持っていたのであれば、殺すのもありだろう。ここでのフィリップ・マーロウは友情より愛情を優先するのだろう。ロバート・アルトマン流のマーロウは、女に弱く且つ、もてなかったわけだ。
この事件でのマーロウは事実と正反対なことを推理してしまい、思い切り遠回りしてしまうが、これは原作通り。最初から見直すと、テリーは最初に自供しているようなものだと気付く。シルビアがテリーを愛していたからテリーもシルビアを愛しているとは、勝手な思い込みでしかない。シルビアの周囲については、目が曇っていたと言われても仕方がない。
このラストはあくまで脚本家リー・ブラケットが考えたものだが、ロバート・アルトマン監督は契約条項にこのエンディングを変えないことを明記している。フィリップ・マーロウを女々しくしたかったのだろう。
エリオット・グールドは戦争映画「MASH」で人気者になり、当時は売れっ子俳優だったが、映画業界に嫌気が差して二年ほど離れていた。それをロバート・アルトマンが口説き落として出演させた。
スターリング・ヘイドンとグールドを並べてみると、意外にヘイドンの背が高いのに吃驚。映画「大砂塵」のときは全然感じていなかった。
アーガスティンの事務所に連行された時、連行していた一人の無名俳優が若き日のアーノルド・シュワルツネッガーである。訛りがあったので、台詞は一行もなかったが、パンツ一丁になるシーンではボディ・ビルディングで鍛えた肉体美を披露していた。
スタッフ
製作総指揮 エリオット・カストナー
製作 ジェリー・ビック
監督 ロバート・アルトマン
脚本 リー・ブラケット
原作 レイモンド・チャンドラー
撮影 ヴィルモス・ジグモンド
音楽 ジョン・ウィリアムス
主題歌「長いお別れ」ジョン・ウィリアムス作曲、ジョニー・マーサー作詞、デイブ・グルーシン・トリオ演奏
キャスト
フィリップ・マーロウ エリオット・グールド
アイリーン・ウェイド(妻) ニーナ・ヴァン・パラント
作家ロジャー・ウェイド スターリング・ヘイドン
マーティ・アーガスティン マーク・ライデル
ヴェリンジャー医師 ヘンリー・ギブソン
テリー ジム・ブートン