19世期末に実在したテキサス州治安判事ロイ・ビーンの姿を巨匠ジョン・ヒューストン監督が痛快に描いたニュー・シネマ西部劇。脚本はジョン・ミリアスのオリジナル。
主演はポール・ニューマン。共演は新人のビクトリア・プリンシパル、ジャクリーン・ビセット、ベテランのロディ・マクドウォール、エヴァ・ガードナー
独立プロダクションだが、様々な俳優が登場して楽しい。

あらすじ

南北戦争後、テキサス州とプレシディオ(のちのニューメキシコ州)、メキシコ共和国の境界近くの無法地帯にお尋ね者ロイ・ビーンは逃げ込んだ。ところが酒場に居つく、ならず者たちに全財産を奪われた上に殺されかけた。メキシコ人の娘マリーに助けられたビーンは奴らを皆殺しにして、酒場を乗っ取る。通りかかったラサール神父は死者の葬儀を執り行い、法の下にこの地域を平和にするという、ビーンの決意を確かめてメキシコへ去る。
そしてビーンは酒場店主の傍ら五人の手下を保安官に任命する。裁かれる側から裁く方になって、目障りな連中を片っ端から絞首刑に処す。酒場にはサム・ドットのような中国人殺しから、白皮症の殺し屋バッド・ボブまで挑戦しにきたが、ビーンは容赦なく吊るし、背中からでも射殺した。

ビーンは親のないマリーを別棟に住まわせていたが、次第に情が移っていった。ある日、熊のアダムスと名乗る男が黒熊を置き去りにしてしまう。それ以来ビーンとマリーは熊を面倒を見て、熊はビーンたちのボディガードになった。
ある日、キザな弁護士ガスが町にやってきて、周辺土地の譲渡を受けたのでビーンに出て行けと命じた。ビーンはガスを熊のオリに閉じ込めて、ガスに立退請求を取り下げさせ熊の飲んだビール代金を請求した。

ガスは根に持っていつか復讐してやろうと思った。ある日ガスの手配した殺し屋が忍び込み、殺し屋と熊が相討ちになった。
いつの間にか町に鉄道が通り、人口も急増した。マリーが妊娠したが、お腹を大きくして街を歩くのを、メキシコ人のマリーが立派になることを保安官夫人たちは面白くない。そこをガスが突いてビーンと保安官たちの間にくさびを打ち込むことに成功する。
リリー・ラングトリーがサン・アントニオで公演することになった。ビーンはマリーにはげまされ公演を見ににいく。しかしチケットは二日前に売り切れていて、楽屋係に昏倒させられる。
ビーンが列車で町に帰ると、マリーは女の子を産んだ後、産後の肥立が悪く息を引き取るところだった。隣町から呼んだ医者は酔っ払って臨終に間に合わなかった。ビーンは医者を絞首台に掛けようとするが、ガスがそれを静止した。彼はビーンのいない間にタウン・ミーティングで町長に選出されていた。保安官たちも夫人たちの手前、町長側に付いた。ビーンは黙って町を出て行った。

それから20年、セオドア・ルーズベルトの治世になり、アメリカ西部は近代化を進めていた。ガスは石油を採掘して儲けを独占して、腐敗が蔓延る町に成り果てた。保安官は既に職を失い、妻にも逃げられていた。バーテンのテクターに育てられたビーンの娘ローズも、ついにガスから立ち退きを迫られた。
そこへ突然町へ年老いたビーンが帰ってきた。彼はかつての保安官たちを集めて、ガスに対して反乱を起こす。松明を投げつけられたビーンはそれを受け止め、逆に投げ返し町は火に包まれる。その火は油田をも燃やし尽くし、ビーンはガスとともに崩れゆくダンスホールに消えた。
数年後、廃墟と化した町に列車が入ってきた。伝説の女優リリー・ラングトリーが自分の名前を冠した駅にやって来たのだ。彼女は生き残ったテクターと会い、ビーンが最後に書いたファンレターを手渡される。

雑感

実話をかなり脚色しておりコメディ・タッチだが、ニューシネマらしく訴えかけるものがある。
最初にビーンが首を括られて馬に引かれたのをメキシコ人の女性に助けられたことは実話。さらに様々なおかしな殺し屋たちを絞首刑に処したのも事実。最後のリリー・ラングトリーがラングトリー駅に降り立ったのも本当だ。実際は世界を股にかけて活躍した彼女にとっても有名な崇拝者だったビーンを知っており墓を参ったそうだ。

破茶滅茶な人生だったが、ロイ・ビーンは「我こそは正義也」と思って19世紀に銃を振り回して生き抜いたアメリカ人の代表だ。そして今のアメリカ人は皆そういう連中の子孫の集まりだ。「リバティバランスを射った男」同様にアメリカの成り立ちを学ぶことのできる良い映画だった。
アメリカ人と「和をもって尊しとせよ、さからうこと無きを宗とせよ」が染み付いている我々とは決して合わない。

製作会社も配給会社がメジャーでなかったため利益は出なかったが、ポール・ニューマンの配役は正しかったと思う。脚本家はリー・マーヴィンを推薦し、監督はウォーレン・オーツを使いたがったが、ポール・ニューマンは自薦である。そして結局、彼が自分色の映画に仕上げてしまった。あとの二人ではこんなニューシネマ風に作れなかった。脚本家はこのことに面白くなかったようだ。ポール・ニューマンによるとラストが変わっていって難しかったと言っている。おそらく監督は途中から良い方向に動き出したことを感じて、ポール・ニューマンの意に任せたと思う。このロイ・ビーンの演技はニューマンの代表作の一つになった。

マリー役ビクトリア・プリンシパルは当時22歳で映画デビュー作。イタリア系アメリカ人で福岡出身(父が空軍)の彼女は、5歳からアメリカのCMに出演していたようだが、ニューヨーク、イギリスで演技を学び、ハリウッドへ21歳で移る。そしてこの映画に起用された。その後紆余曲折があるがテレビドラマ「ダラス」のパメラ役でアメリカのお茶の間の人気をさらった。

マリーがこの世を去ってから、現れた第二のヒロインが娘ローズ役の英国人ジャクリーン・ビセット。日本では映画雑誌が彼女を取り上げない月はないほど大人気だった。私はプリンシパルとビセットどちらが良いか決めれなかった。ただし、プリンシパルの方が賢そうだと思っていた。実際、起業家として成功したのはプリンシパルだ。

ビセットが退場後、第三のヒロイン、ラングトリー役のエヴァ・ガードナーが登場。ラングトリーは英エドワード7世の皇太子時代に浮名を流し、シャーロック・ホームズにただ一人「あの女性」と呼ばれたアイリーン・アドラーのモデルである。女優の老後も矍鑠としている姿に、エヴァ・ガードナーはふさわしい貫禄を見せてくれた。ちなみにガードナーはニューマンと同時出演していないが、ガードナーはニューマンを若造だと言って気に入らなかったようだ。ハワード・ヒューズと比べたらまだまだひよっこだったのだろう。

出てきたブルーノと言って、1967年に「大くまベン」という映画とその続編ドラマ「ベンとマーク少年」で全米に有名になり、この映画に起用された。人懐っこい熊で、ポール・ニューマンが付きっきりでいたために見事な芝居を見せてくれる。ニューマンはブルーノに映画を乗っ取られたと言っていた。この後、「アドベンチャー・ファミリー」にも出演する。

スタッフ

製作 ジョン・フォアマン
監督 ジョン・ヒューストン
脚本 ジョン・ミリアス
撮影 リチャード・ムーア
音楽 モーリス・ジャール
衣装 イーディス・ヘッド
挿入歌 アンディ・ウィリアムス 「小さな愛のワルツ(Marmarade, molasses and honey)」(マンドリン:ローリン・アルメイダ)

キャスト

ロイ・ビーン判事 ポール・ニューマン
妻マリー ヴィクトリア・プリンシパル
ラ・サール神父 アンソニー・パーキンス
熊のアダムズ ジョン・ヒューストン(監督)
テクター(バーテンダー) ネッド・ビーティ
白皮症のバッド・ボブ ステイシー・キーチ
サム・ドブズ タブ・ハンター
ガス弁護士 ロディ・マクドウォール
娘ローズ・ビーン ジャクリーン・ビセット
大女優リリー・ラングトリー エヴァ・ガードナー
熊 ブルーノ(「大熊ベン」、「アドベンチャー・ファミリー」)
無法者の一人 リチャード・ファーンズワース

ロイ・ビーン The Life and Times of Judge Roy Bean 1972 ファースト・アーティスツ製作 ナショナル・ゼネラル・ピクチャーズ配給 東和国内配給

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