アメリカ西部の田舎町は財政が悪化し、不動産業者が町全体を買い占めると宣言し住民投票が行われる。そこへラオ博士と名乗る老人がやって来てサーカスを開くが・・・。

チャールズ・G・フィニーのファンタジー小説を原作にしてSF特撮が得意なジョージ・パルが監督した作品。当時は失敗作となってしまい監督は4年も干されてたが、最近はカルト作品として人気がある。国内でもテレビ放送をたびたび行ってたから見た人は多いはず。
主演はコメディアンのトニー・ランドール、共演はバーバラ・イーデン(TVドラマ「かわいい魔女ジニー」)、アーサー・オコンネル
ワイドカラー映画。

あらすじ

20世紀初頭辺り、アリゾナ州アバロンに謎の人物ラオ博士が黄色いロバを連れてやって来る。新聞社に行くと、印刷機が煩くて誰も相手をしてくれない。ラオ博士は魔法をちょっと使って印刷機を止めてしまった。そこへ地上げ屋スタークがやって来て、余計な事を社説に載せるなとエドを脅して帰る。エドはラオ博士に気付いて何か御用と尋ねると、二日間サーカスを開くので二日続けて全面広告を打ちたいと頼む。貧乏新聞社にとって願ってもない依頼なので受けたが、ラオ博士は帰りしなに魔法で印刷機を再起動させた。
エドはラオ博士が何者か知りたくて近くの図書館に行って、中国について調べ物をする。図書館司書アンジェラは未亡人で忘形見マイクを育てている。エドは彼女に気があるが、彼女の方はかたくなに操を守っている。彼はディナーを誘うが、いつものように断られる。
その夜、小さな町なので市民総会が開かれ、ラウ博士も観客として参加した。スタークは水道の老朽化のためあと半年で使えなくなると説明し、立退資金を全額スタークが支払うから立ち退いてほしいと提案する。スタークに賛成する市民が過半数を占めそうだが、念のため市民総会の議決は三日後の金曜日の夜に開催することになった。

翌日の朝刊にサーカスのことが掲載され、市民は興味津々の様子だ。エドはラオ博士のサーカスに追加取材に行くとヒマラヤの雪男がいたり、アーサー王のお側にいた魔術師マーリンがいたり、ますます謎は深まる。一方アンジェラの息子マイク少年はすっかりラオ博士の不思議さに魅せられる。

翌日いよいよサーカスの初日が開幕する。
占い好きのカッサン夫人は占いの間に入ってみた。占い師はチヤホヤして良いことしか言わないとタカを括っていたが、古代ギリシャの偉人アポロニウスは夫人が未亡人ではなく夫に逃げられたことを言い当て、これから先も男は出来ず一人寂しく死んでいくと予言した。おかげで夫人は泣いて飛び出してしまった。
アンジェラは牧神パーンの部屋に行き、パンフルートの音色にすっかり催淫されて汗びっしょりになってしまう。
スタークが大海蛇の間に入ると、自分そっくりな人面蛇が出て来る。スタークは本音で彼に語り掛ける蛇に悪い気はしなかった。
魔術師マーリンの部屋では本物の魔法が行われるが、見物人は見たことがある手品だと言って飽きて出て行く。マイク少年だけがそんなマーリンを元気付ける。
ラオ博士は水槽で飼うナマズが実は海竜だと教えるが、誰も信用しない。ラオ博士は最後にメデューサの間に観客を招待する。しかし疑い深いリンドクィスト夫人がメデューサの顔を直接見たために石にされて、客はパニックになる。そのときマーリンが夫人を魔法で元に戻して事なきを得る。

その夜、エド編集長の新聞社が滅茶苦茶に破壊された。それを見つけたエドはスターク一味のルーカスとケアリーにやられたと悟るが、立ち直れず一晩中飲み明かす。翌朝、新聞社に出社すると全てが元通りに戻っている。これはラオ博士のおかげと思い、朝刊を擦り直しスターク一味に直接配りに行き、その帰りにラオ博士に感謝する。ラオ博士は干からびた川で餌もつけずに釣りをしていたが、何故かマスが釣れてしまう。それを見てエドは、ラオ博士が「精神一到何事か成らざらん」と教えていると感じる。

その夕方ラオ博士サーカスの二夜目が始まる。エドはアンジェラと出会うが昨日催淫された彼女はいつもと違い積極的だった。
スタークはその夜アポロニウスに占ってもらう。アポロニウスは、人々が目先の利益を求めることで町の買収が成功すれば鉄道が通ってスターク自身が大儲けがすること、それはスタークの理想とは程遠いものであることを言い当てる。最後にスタークは、俺は勝てるかと尋ねるが、アポロニウスは、Yesとだけ答える。
最後にラオ博士と座員一同が全員集合する。その場でラオ博士は観客全員に、ある大陸の住民が欲を掻いたばかりに天変地異に巻き込まれて滅びる様子を見せる。観客は自分のことを指摘されているような気になった次の瞬間、市民総会の場にいつの間にか移動していた。市長が決を取るとルーカス、ケアリー、カッサン夫人を除いて全員が反対票を投じスタークの買収は失敗する。そしてスタークはその結果を快く受け入れた。
収まらないのがルーカスとケアリーでラオ博士のいない間にサーカス小屋を破壊して、そのついでにラオ博士のナマズも打ち捨てる。しかしナマズは急に巨大化して海竜となり二人を襲う。ラオ博士は海竜を元の大きさに戻すため人工降雨装置「雨降らせ機」を作動させようとするが、やはり海竜に捕まってしまう。そこでマイクが代わりに作動させて、海竜を元のナマズに戻した。

翌日、エドとマイクたちがラオ博士のサーカスへやってくるが、跡形も無くなっている。ラオ博士の持っていたお手玉三個だけが落ちていて、マイクはそのお手玉をしながら、ラオ博士が去って土煙の立つ方向をいつまでも見ていた。

雑感

子供向けファンタジーなのか大人向けファンタジーなのか、ターゲットが定まらない脚本である。その上、中途半端にストップモーションを使ったの失敗原因だったと思われる(ジョージ・パルはパペットを使ったストップモーション・アニメで戦時中アカデミー特別賞を取るほどの名アニメイターだった)。
しかしその後トニー・ランドールもテレビの冠ショーやドラマ版「おかしな二人」などで人気者になったため、さらに独特な緩さのおかげでこの映画の人気が復活した。ちなみにラオ(Lao)博士という発音を普通アメリカ人はラオと発音するはずだが、西部の訛りかローと読んでいた。

MGMは主演に当初ピーター・セラーズやディック・ヴァン・ダイクを、また監督は「宇宙戦争」「タイムマシン」で主演したロッド・テイラーも主演に考えていた。ピーター・セラーズは「博士の異常な愛情」でディック・ヴァン・ダイクは「メアリー・ポピンズ」が入っていていずれもダメで最終的にトニー・ランドールしかいなかったようだ。
観客も舞台出身のトニー・ランドールに七役は荷が重いと考えたが、セリフなど意外とうまく演じ分けている。さらにウィリアム・J・タトルのメイクが秀逸であるため、ぱっと見て誰かわからない。唯一わかったのは、観衆としてサーカスを見ていた第八の役を、ほとんど素顔で演じていた。

ヒロインのバーバラ・イーデンは「かわいい魔女ジニー」のような役がお似合いなのに、イメージと違う役だった。「燃える平原児」でエルヴィス・プレスリーと共演した時は胸を強調した衣装だったが、子供向けでもあるこの作品で胸を強調するわけに行かない。

劇中で見せる映画の特撮部分は、ジョージ・パルが監督した「謎の大陸アトランティス」からの引用だ。

スタッフ

監督・製作 ジョージ・パル 「タイム・マシン」「宇宙戦争」「謎の大陸アトランティス」
原作 チャールズ・G・フィニー 「ラオ博士のサーカス」(1935年ファンタジー小説)
脚本チャールズ・ボーモント、ベン・ヘクト
音楽リー・ハーライン
撮影ロバート・J・ブロナー
特殊メイク ウィリアム・J・タトル (この年に過去の業績と合わせてアカデミー名誉賞を受賞)
特撮 ジム・ダンフォース

キャスト

ラオ博士、雪男、メデューサ、魔術師マーリン、パン、アポロニウス、大海蛇 – トニー・ランドール
未亡人アンジェラ・ベネディクト – バーバラ・イーデン
地上げ屋クリント・スターク – アーサー・オコンネル
編集長エド – ジョン・エリクソン
マイク少年 – ケヴィン・テイト
印刷工ティム – ノア・ビアリー・Jr
悪党ケイリー – ロイヤル・ダノ
カッサン夫人 – リー・パトリック
リンドクイスト夫人 – ミネルヴァ・ウレカル

ラオ博士の七つの顔 (7 Faces of Dr. Rao ) 1964 ジョージ・パル・プロダクション製作 MGM配給 日本未公開 トニー・ランドール主演

投稿ナビゲーション