三十六歳にして貧しく死んでいった画家モジリアニの晩年を描く美術映画。
ミシェル・ジョルジュ・ミシェルの伝記小説「モンパルナスの人々」を「歴史は女で作られる」のマックス・オフュルス監督が映画化しようとして脚本を書いた。しかし、オフュルスが急逝したため、「現金に手を出すな」のジャック・ベッケル監督が大幅に脚本を改変する条件で引き継いだ。
主演はジェラール・フィリップ、共演はアヌーク・エーメ、ドイツ人のリリー・パルマー、リノ・ヴァンチュラ。
白黒映画。
あらすじ
1916年のパリ南西部モンパルナス。モジリアニは、かつて恋人だったロザリーの酒場で酒をあおり、作家で愛人のベアトリス相手にDVを働いていた。同じアパートに住む画商スボロウスキーだけが、彼を理解していた。
モジリアニはある日、美術学校の生徒ジャンヌ・エビュテルヌに一目惚れする。彼と結ばれたジャンヌは、家族の許可をもらって来ると言って帰ったが、官僚である父は許さず彼女を部屋に閉じ込めた・・・。
雑感
セーヌ川左岸のカルチェ・ラタン、パリ北部モンマルトルがパリの芸術家の住居が集まっていたとして有名だが、パリ南西部モンパルナスもその一つだ。
モジリアニや藤田嗣治は、この辺りを拠点にして作品を発表していた。面長の表情は、藤田嗣治が創造した。ところが藤田は飽きたので、代わりにモジリアニの画風になってしまった。
貧乏アパートを描くのは、ジャック・ベッケル監督の得意技だろう。けれど、そこに現れたジャンヌ役アヌク・エメが掃き溜めの鶴のように場違いだ。身分の高い中堅官僚の娘との対比が印象的だ。彼女は、大作映画で主演級の演技を見せたことは初めてだった。度胸はすごい。アリダ•ヴァリ同様に顔はきついけれど。
モジリアニを演ずるのは、ジェラール・フィリップだ。モジリアニは結核を患っていて、ウサばらしにアルコールにのめり込み、アル中になってついに行路病死者になる。まるで数年後の彼を演じているみたいだった。
リノ・バンチュラは、死神のような、謎の画商を演じる。あのような画商は実際にいたのではないか。モジリアニが亡くなったとき、すでに小さな女の子がいて、ジャンヌのお腹には2番目の子供がいた。モジリアニが亡くなって二日後に、ジャンヌもお腹の子を道連れに後追い自殺する。このドタバタに画商どもは安く買い叩いたと思われる。
実際、モジリアニの絵を好きな人って、変わった人かお金持ちのユダヤ人しかいない。モジリアニの絶望感を愛せる人って、孤独な人だろうから。そういう人に向けて、さきのハイエナ画商達は、どんどん絵の値を釣り上げていったのだろう。
スタッフ
プロデューサー サンドロ・パラビチーニ
監督・脚色 ジャック・ベッケル
脚色 マックス・オフュルス(クレジットなし)
制作 ラルフ・ボーム
原作 ミシェル・ジョルジュ・ミシェル
撮影 クリスチャン・マトラ
音楽 ポール・ミスラキ
キャスト
モジリアニ ジェラール・フィリップ
作家ベアトリス リリー・パルマー
ジャンヌ アヌーク・エーメ
画商スボロフスキー氏 ジェラール・セティ
マダム・スボロフスキー リラ・ケドローヴァ
酒場の女主人ロザリー レア・パドヴァーニ
マダム・エビュテルン デニス・バーナック
画商モレル リノ・ヴァンチュラ
画商ベルト・ウェイユ マリアンヌ・オスワルド
センドラール アントワーヌ・チュダル
***
ジャンヌを失ったモジリアニは、酒におぼれて体調を崩す。スボロウスキーは南仏ニースで転地療養させる。太陽と海に囲まれた町ニースで、モジリアニは友人を作り、徐々に人間らしさを取り戻す。
ある日、ジャンヌがついに家を出てきて、二人は結婚する。モジリアニにとってもっとも幸せな時期だった。
しかし、書き溜めた絵を売るためにパリに戻ることになった。画商ベルト・ウェイルとスボロウスキーが開いてくれた個展は、初日こそ物珍しさで客が集まったが、後は閑古鳥が泣いていた。
アメリカの資本家から、彼の絵を買いたいという連絡があり、スボロフスキーとモジリアニ夫妻は絵を持ち込むが、アメリカ人の目的は広告に使うことだった。モジリアニは、到底認められず、絵を引き上げる。
1920年冬、モジリアニは生活のため、デッサンをもって街の酒場をさまよう。しかし、客は乞食と間違えて金を恵むが絵をいらないと言う。
絶望したモジリアニはモレルと出会い酔っ払って行き倒れになり、行路病者として警察に担ぎ込まれて死んだ。
モジリアニは、死んでから売れるタイプだと直感していた画商モレルは、彼が死んだことを確認してから慌てて、彼の部屋を訪れる。
モジリアニが死んだことを言わずに、ジャンヌの前でモレルは、作品を全て買い取ると言う。ジャンヌは、モレルに心から感謝し、やっとモジリアニの芸術が認められたと確信した。