データ野球、管理野球という言葉があるが、我々は正しくデータを使いこなしているか?
単純に打率、長打率、防御率を上から並べているだけではないだろうか?
どの指標が勝利と結びつくか、得点と関係しているか?
きちんと多変量解析(統計学の手法)しているのか?
ウォール街の内情もの「ライアーズ・ポーカー」を著したマイケル・ルイスが、野球に挑戦した快作。
貧乏球団アスレチックスのジェネラルマネージャーの奮闘記だ。
野球の個人成績(指標)は多くあるが、意味のあるものと無いものがあり、「値打ちのある」選手は意外と年俸が安いことに目を付けて、ヤンキースなど金持ち球団相手に互角に戦っている。
二十年ほど前、野球オタクの一ファンが、いろいろな野球指標の中から意味のあるものだけを選択することの重要性を自費出版された本の中で熱く語った。
一部のマニアは気にとめたが、肝心のプロは誰も見向きもせず、いつしか、そのことは忘れ去られていった。
しかし90年代中頃、貧乏球団のアスレチックスGMに就任したビリー・ビーンがその方法を復活させた。
かれは元メジャーリーガーだが、ハーヴァードなど一流大卒の連中とパソコンを使い、意外な指標だけ優れている安価な選手をそろえた。
その意外な指標から導かれる戦略をGM自ら、選手にたたき込み、見事四年連続でプレーオフ進出を成し遂げた。
例えば、出塁率が最重要である。
次に長打率であり、これらの比率は3:1となる。
盗塁数はリスクが高いため無視する。
打力のある選手の場合、失策数を重視するのは考え物だ。
大切なのは彼の得点力と、失策から導かれる失点数の差なのだ。
また救援投手は若い投手を育てて、実績を上げ、年棒が上がったところで他チームに売りとばしてしまう。
先発投手と比較して、力のない投手にクローザーを任せても1イニングのことだから大丈夫である。
ビリーは経済学の原則に縛られながら、知恵を最大限に生かし、この貧乏球団を世界一の選手年棒を誇るヤンキースと肩を並べるチームに育て上げた。
さらに進化は進んでいる。
定量的な指標だけでなく、打球の方向も解析が始まる。
定性的な分析が進み始めたわけだ。
もっとも過激な理論は、投手は、ホームランと三振以外では、アウトになるかヒットになるか、責任はないという。
しかしアスレチックスはプレーオフでは勝てない。
勝率第一のリーグ戦では絶対的な強みを見せるが、トーナメント形式になると、あと一歩のところで敗れる。
ビリーはトーナメントでは運が必要と言うが、それだけだろうか。
この方法の限界がここにある。
またすでに他球団に人材が流出しはじめている。
ブルージェイズのほかに、ドジャーズもアスレチックスのフロントから新GMを引き抜いている。
とくに腹心ポールが抜けたのは大きく、2004年のシーズンでは序盤苦戦が続いている。
二年前は派手なトレードでこの苦境を乗り越えたが、今季はどうか。
ビリーの挑戦はなおも続く。
日本の球界ではどうだろう。
管理野球はかなり進んでいるから、すでにたいがいのことは(アメリカよりも先に)やってると思う。
しかしGM管理野球ではなく、現場監督野球のため、データの活用は遅れている。
またフロントの方針と現場の方針が合わないことも多い。
サッカーなど、ブリティッシュ・スポーツにはどうだろう。
1プレーの短い野球やアメフトと違い、サッカーの場合は、ボールの軌跡を追うことが以前から行われている。
代表レベルだと、ビデオを撮り選手ごとの軌跡を追うこともやられているだろう。
その画面を見てどう解釈するか、それを現場でどう指導するかなど定性的な要素が重要なので、監督の存在はいまだに大きい。
GMはチーム作り、選手集め、戦略作りに従事するのは野球と同じだ。
それでも現場の存在価値は野球のそれより大きい。
要するに野球は単純なゲームなのだ。
だから楽しいのだ。
個人的には野球カードを子どもの頃から遊んできた。
裏に三塁打とか三振とか書いているゲームだ。
トランプのように一枚ずつめくり、一人で勝ち負けを楽しむ。
机上のシミュレーションであっても、意外に実際のゲームと変わらなかった。
だからパソコンが野球をしているような、この本の内容もスムーズに頭に入った。
ちなみに後にファミコンが流行ると、「ベストプレープロ野球」というシミュレーションゲームをやった。
パラメーターが増えて複雑度が増すのだが、実際の野球はそう複雑ではないぞ、と思った。
パラメータによってチームの特質が変わると言うより、巨人ファンが巨人を勝たせるためにハンデキャップを付けているという印象だった。
誰かがビジネス本だとコメントしていた。
貧乏であっても定量的、定性的な分析を組み合わせたら、十分に金持ちと戦っていけるという意味であろう。
しかしそのためにはアスリートの集団(ブルーカラー)が、ホワイトカラーの分析家を受け入れる土壌が必要だ。
なかなかこれが難しい。

マネーボール マイケル・ルイス 講談社

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