もとの題名は『隣りの雑音』。
1931年に土橋武夫・土橋晴夫兄弟が「土橋式」トーキー開発に成功し、松竹蒲田撮影所長城戸四郎は本作製作を着手し、日本初のトーキー映画となった。
全編同時録音、3台のカメラを同時に回して撮影された。
主演渡辺篤、田中絹代
監督は五所平之助、原作と脚色は北村小松である。白黒スタンダード映像。

あらすじ

劇作家芝野新作は、脚本を書くために引越し先を探すうちに写生をしていた画家と言い争いになる。そのとき銭湯から出てきたマダム(洋装の婦人)にぶつかってしまう。そのマダムは、喧嘩の仲裁をしてくれた。
マダムが気に入って田園調布に芝野夫婦は転居する。新作は隣家が掛けている音楽に仕事に集中できない。そこで隣家に怒鳴り込む。しかしジャズ歌手をしている、先日のマダムに再び魅せられてしまい、彼もジャズを好きになってしまう。


ジャズを口ずさみながら帰宅すると、地味な着物を着ている女房が嫉妬で怒るのにも気が付かず、新作は舞台脚本をせっせと書き始める。隣の騒ぎを聞いていた女房は、新作に小言を言い、脚本が上がったらモダンな着物を買ってもらう約束を取り付ける。

数日後、新作の女房は、新調した明るい着物を着て、新作と子供二人を連れて散歩している。未開発の土地では、ヨイトマケたちが働いていた。新作が一緒になって歌い出すのを聞いて、女房は新作に注意する。女房もすっかりマダム気分なのである。

雑感

同時録音なので音の聞こえにくい部分がある。

五所平之助監督は、格差社会を風刺している。最初新作に仕事をしろ、金を稼げとガツガツ言っていたケチな女房も、夫が脚本料を手に入れたら、上流階級になったような気持ちになって使って、おしゃれしてしまう。そしてヨイトマケとは違う身分なのだという自覚が湧く。
この年9月18日に柳条湖事件が発生し15年戦争が始まったのだが、それがどれだけの損害をもたらすか誰も考えなかった時代である。

渡辺篤が最初に名前が上がったのには驚いた。しかし最初のシーケンスではチャプリンのような登場をして寸劇をしていた。やはり喜劇であれば、舞台で演じている渡辺の方が格上なのだろう。

田中絹代は、松田聖子かと思うほど面影が似ていた。あの手の顔が好みなのは、日本人のDNAに前もって残っている性質なのだと思った。

スタッフ

監督:五所平之助
製作総指揮:城戸四郎
原作・脚色:北村小松
ギャグマン:伏見晁
撮影:水谷至広、星野斉、山田吉男
美術:脇田世根一
助監督:富岡敦夫、蛭川伊勢夫
音響記録:土橋武夫、土橋晴夫
主題歌
『スピード時代』作詞:サトウハチロー 作曲:高階哲夫
『スピードホイ』作詞:サトウハチロー 作曲:島田晴誉

キャスト

劇作家芝野新作:渡辺篤
その女房(絹代):田中絹代
娘テル子:市村美津子(子役)
隣のマダム(歌手山川滝子):伊達里子
画家:横尾泥海男
新作の友人(引越の手伝い):吉谷久雄
同上:月田一郎
痣のある薬の訪問販売人:日守新一
音楽家(マネージャー小林):小林十九二
同上:関時男
絵をトラックで踏みそうになる運転手:坂本武

 

マダムと女房 1931 松竹蒲田製作 松竹配給 日本初のトーキー映画

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