「はじめてのおつかい」ならぬ、涙あり笑いありの「はじめての家出」だ。
少年が父を探して一人で無銭旅行する実話を基に、高知と1970年万博の頃の大阪を繋いで、「大怪獣ガメラ」など子供向け作品の評価が高い湯浅憲明監督が映画化した。
大映ソ連合作映画「小さい逃亡者」(1966)よりスケールは小さいが、隠れた名作である。
大映の台所が苦しくなって配給部門を日活と合併させてリストラを図った時代である。
文部省推奨は取れなかったと思うが、フィルムはたたき売りされて、学校や公民館の映画上映会(主として西日本)によく回ってきた。
主演は岡本健、宇津井健で、共演は左卜全、北林谷栄。他にミヤコ蝶々ほか大阪の喜劇人が出演。

 

 

あらすじ

 
高知県のある幼稚園に腕白坊やの太郎少年がいた。母は既になく父は出稼ぎで大阪に行ったきり、太郞は祖父母と叔父夫婦と暮らしていた。彼は昔行ったことがある大阪を思い出してお絵かきをしたが、大人には抽象画に見えてしまい、解釈できなかった。
大阪へ行ったことが自慢のタネだった太郞だが、ある日園児の一人が万博へ行って土産を買って帰り、クラスの注目を集める。それを見た太郎は、全く気に入らない。そして父への感情が湧いてきたが、回りの大人は忙しいので相手をしてくれない。太郞は大阪へ一人で行く決意を固める。
彼が描いたスケッチブックが父の家への道しるべだった。三度の脱走は途中で保護されて高知を出られない。不憫に思った祖母は父に手紙を書いてくれる。しかし父からの手紙は仕事が一段落着くまで待ってほしいと書かれてあった。太郎は大人なんか信じてなるものかと、家出の決意を再度固める。

 
四度目の脱走で太郎は、ついにトラックに乗り込み高知を出て、高松に到着する。そして、宇高連絡船に乗って岡山に渡り、大阪行きの修学旅行列車に紛れ込む。太郎は通天閣を目印にしてアパートを見つけたが、父は山陽新幹線の工事のため神戸に移り、すでにアパートを引き払っていた。

 
太郎は荒れ狂ってガラスを割り、涙にくれる。偶然、忘れ物を取りに父が戻って来て、再会を果たすが、太郞は拗ねて「そんなに仕事が大事なら仕事の所に帰れ!」と叫ぶ。父はそんな太郞を愛おしく抱きしめた。やがて父子は梅田地下街で迷い子になった祖父母を迎えにゆく。

雑感

 
昔、近所に家出癖のある少年がいた。幼稚園なのに、何駅も離れたところで一人のところを保護された。そんなことが何回もあった。そのうち引っ越してしまったが、松本くんは今頃どうしているだろうか。

 
この映画の何が良いって、子役が可愛くないところが良い。きかん気のわんぱく坊主のクソガキが媚びないのである。しかし父親の愛情に久しぶりに触れた瞬間、溜めていた感情が爆発する。彼の名演で湯浅監督の笑いあり涙ありの映画は名作になった。
ただし、万博シーンは僅かしか出てこない。
 
太郞役の岡本健君は人の話によると後に成長して、本の表紙などを作るグラフィックデザイナーになったそうだ。ただし多摩美術大学の岡本健先生は1987年生まれだから別人。
チョイ役で出てきた水上保広は阪東妻三郎の認知した子で、田村高廣、正和、亮の異母兄弟にあたる。当時は若手映画俳優で、のちに関西のテレビ・演劇界で活躍した。

スタッフ・キャスト

 
監督 湯浅憲明
製作 永田秀雅
脚本 高橋二三
企画 高橋二三 、 八尋大和
撮影 森田富士郎
音楽 菊池俊輔
 
配役
奥村太郎 岡本健 (子役)
父安二郎 宇津井健
祖父安衛門 左卜全
祖母きく 北林谷栄
幼稚園の先生 八代順子
バスガイド 川崎あかね
アパート管理人 佐々十郎
その妻 正司歌江
雑貨店主お民 ミヤコ蝶々
松雄 水上保広 (田村高廣、正和、亮の異母兄弟)
ナレーター 芥川隆行
 

ボクは五才 1970 大映製作 ダイニチ映配配給

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