マルセル・パニョルの原作小説は、まず戦前にフランスで映画化されていた。その権利をアメリカが買ってきて、1954年に米国でジョシュア・ローガン演出によってミュージカル舞台化した。
1961年に映画化する時、プロデューサーは何故かミュージカルを選択せず、ミュージカル台本をストレート・プレイに仕立て直した。1960年代のアメリカ人は「ウェスト・サイド・ストーリー」で新しい時代のミュージカルに触れて、古いタイプのミュージカルがお気に召さないと思ったのだろう。
レスリー・キャロン主演だがダンス・シーンもミュージカル・シーンもない。大御所であるモーリス・シュバリエとシャルル・ボワイエも好々爺を好演。とくにボワイエの枯れた演技は必見。
Synopsis:
セザールはマルセイユ港の酒場を切り盛りし、オロイーヌは屋台の魚屋を営んでいる。セザールには19歳の一人息子マリウスがあり、オロイーヌには18歳のファニーがいて、二人は幼馴染として育った。互いに好き同士だが、マリウスには海の向こうの世界を見てみたいという夢があった。それを知る友人の「提督」は入港した研究用帆船の船員を紹介して、マリウスを見習いとして乗せることになる。
いよいよ明日出港という日、マリウスはそのことを父にも打ち明けられない。しかしマリウスのことばかり見つめてきたファニーには、わかっていた。最後にファニーはマリウスと一晩過ごし、翌朝彼の背中を押して旅立たせた。
3ヶ月後、ファニーは自分が産気づいていることを知る。カトリックのファニーに私生児は許されない。オロイーヌは金持ちの寡夫であるパニースと一緒にさせようと考え、パニースも全てを知ってファニーを受け入れる。セザールも自分の孫が金持ちになるとあっては逆らえなかった。
ある日、ぶらりとマリウスが帰ってくる。マリウスは提督に全てを聞き、パニース家のファニーを訪ねる。その時、ファニーはパニースと一緒になって男の子セザーリオをもうけていた。しかし誕生日を聞くと、すべてを悟りマリウスはファニーとセザーリオを連れて帰ることを主張する。それに対してファニーと父セザールに猛反対されて追い出されるようにマルセイユを出て行く。
数年後、パニースは病の床に伏していた。オロイーヌは海が好きなセザーリオを港に連れて行くが、昔なじみと話し込んでしまって見失う。その間にセザーリオは提督に連れられてセザーリオは船に乗せられ、マリウスのもとに行って、海の彼方のことを話し込む。そこにファニーがやって来て、パニースが危篤だと言う。
佳作として推薦する。ロケ地もマルセイユで、出演者をほぼヨーロッパ勢で固めているせいもあって、なかなかフランス映画っぽい雰囲気のあるアメリカ映画だった。
映画としては、古い時代の人情話である。フランスの話だが、日本なら新派ものだろう。
だが個性的な俳優が出ている。とくにモーリス・シュバリエとシャルル・ボワイエの顔合わせは、まるで島田正吾と辰巳柳太郎の顔合わせのようだ。ボワイエとシュバリエの口喧嘩を見られるなんて何て贅沢なことか。
マリウスが出港するまでは時間の進み方が遅かったが、妊娠したことを知ってからは大きく話は進む。
マリウスが一度帰ってくる段が見所だった。昔は日本人でもフランス人でも感動するところが似ていたのだと思う。
ファニー役のレスリー・キャロンは実は二度目の結婚をして子持ちの30歳なのだが、バレエで鍛えているから体の線はまだ崩れていなかった。ただ18歳の頃のドアップ・シーンでキャメラに紗を掛ける(ソフト・フォーカス)。若く美しく見せたかったらしいが、その必要があったのか不思議だ。ちょうど脂がのりきって女らしくなってきた頃だがが、メイクで十分若く見せていたから不要に思えた。返って不自然だった。
マリウス役のホルスト・ブッフホルツは、どこかで最近見たと思ったらジュリアン・デュビビエ監督の映画「わが青春のマリアンヌ」のドイツ語版に出演していた。他にも西部劇映画「荒野の七人」などでよく見た顔だ。
なおこの「ファニー」を基にして日本の松竹映画では、山田洋次監督が翻案した「愛の讃歌」を作った。主役は倍賞千恵子、中山仁。
監督 ジョシュア・ローガン
製作 ベン・キャディッシュ
原作 マルセル・パニョル
戯曲 S.N.ベアマン、ジョシュア・ローガン
脚本 ジュリアス・エプシュタイン
音楽 ハロルド・ローム
撮影 ジャック・カーディフ
出演
レスリー・キャロン … ファニー
ホルスト・ブッフホルツ … マリウス
モーリス・シュバリエ … パニース
シャルル・ボワイエ … セザール
ジョルジェッタ・アニス … オロイーヌ
レイモン・ビュジエール … 提督
ライオネル・ジェフリーズ…ブリュン氏
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