第二次大戦初期にドイツの空襲で英国人の士気下がる中、戦艦ビスマルク号を仕留めて沈めるまでの英国海軍の苦労と犠牲を描いた特撮海戦映画。
C・S・フォレスターの同名小説をエドモンド・H・ノースが脚色し、「暁の七人」のルイス・ギルバートが監督した。白黒シネスコ映画。
主演はケネス・モア。共演はダナ・ウィンター、カール・モーナー、ローレンス・ネイスミス。
あらすじ
1941年の春、シェパード大佐は海軍省作戦部長に着任した。情け容赦のないシェパードの姿を見て、女性士官アンは彼が悲しい経験をして来たことを知った。実際彼は妻を空襲で失っていた。アンも実は恋人を戦争で失っていた。
非情なシェパードが作戦部に異動したのは、ドイツ旗艦ビスマルク号攻略のためだ。ビスマルクが英米を結ぶ商船航路を潰して英国経済を完全に干上がらせると海軍上層部は予想していた。そこで兵士を捨て駒のように使えるシェパードでなければビスマルクを沈められないと期待をかけたのだ。ビスマルクに乗艦しているルーチェンス提督にシェパードは一度艦を沈められたことがあるので、その戦術をよく心得ていた点も大きかった。
ノルウェーに潜入させたスパイから、ビスマルク号がついに出動した知らせが入る。英国海軍作戦部は北大西洋艦隊にビスマルク迎撃を命じる。デンマーク沖で待ち受けた古参の巡洋戦艦フッドとドックを出たばかりの新鋭戦艦プリンス・オブ・ウェールズがビスマルクを迎え撃つものの、旧型のフッドは撃沈させられ新鋭艦も大破させられた。
チャーチル首相はビスマルクを何としても撃沈せよと命じる。シェパードは地中海戦線を捨てても空母アーク・ロイヤルなどの主力艦を全て北大西洋戦線に投入した。大西洋の大海に出たビスマルクを悪天候で見失ったため、空母アーク・ロイヤルからシェパードの一人息子トムを載せた偵察機が探索に出かける。間もなくトムの塔乗機が行方不明の第一報がシェパードの元に入る。
戦艦キング・ジョージ5世と戦艦ロドニーがビスマルクを発見する。燃料を消費してしまったビスマルクは、ドイツ占領下のフランス軍港で補給するため急いでいた。
シェパードはビスマルクが単独行動している間に艦載機による爆撃を命じる。魚雷攻撃は成功し、エンジンを一部損消したビスマルクの速度は20ノットから10ノットに半減した。なおもキング・ジョージ五世の砲撃や駆逐艦の雷撃を浴びて、ついにビスマルクは沈没する。ようやく解放されたシェパードは、アンをディナーに誘ったつもりが既に朝の9時だった。
雑感
1941年にドイツ軍の猛攻に傾きかけていた英国海軍が、単独行動をとったビスマルク号を撃沈した史実を映画化している。連日のドイツ空軍による空襲で苦しめられていたイギリス人も、この時ばかりは溜飲を下げた。
ドイツ海軍のルーチェンス提督は映画ではナチスの狂信者として描かれているが、実際は古いタイプの軍人でその正反対だった。その他にもこの映画は、当時の知識では分かっていなかった点を連合国側に都合よく描いている。
ドイツはビスマルクを一旦フランスに移して米国から英国への補給路に対して睨みを効かすだけでよかったのに、ふらふら単独で沖合いに出ていき、英国の砲撃や魚雷攻撃を受けて沈没するあたり、参謀本部もルーチェンスも巨艦ビスマルクを過信したと言えよう。
それは大日本帝国海軍も同じことである。海軍で必要なのは航空母艦、駆逐艦や潜水艦だということに気付いていなかった。
ビスマルクの撃沈劇以降、ドイツ海軍はUボートを除き活躍することが少なくなった。英国本土上陸作戦(アシカ作戦)も夢のまま終わってしまった。ドイツの弱点は海軍だったのだ。そこを補えないうちに毒素線を始めてしまう。
結局米国からの補給線を断てず英国を生かしてしまったため、1944年にノルマンディーに上陸されて西に連合軍、東にソ連軍と挟み撃ちに遭い、翌年敗戦するのである。
ケネス・モアは当時46歳の円熟した俳優だ。1955年に「愛情は深い海のごとく」でヴィヴィアン・リーの不倫相手を演じてヴェネチア国際映画祭男優賞を受賞している。
ダナ・ウィンターは「ボディ・スナッチャー/恐怖の街」で知られるが、ドイツ生まれのイギリス人女優だ。1970年代もハリウッドで端役を演じていた。
スタッフ
監督 ルイス・ギルバート
製作 ジョン・ブラボーン
脚本 エドモンド・H・ノース
原作 C・S・フォレスター
撮影 クリストファー・チャリス
音楽 クリフトン・パーカー
キャスト
シェパード大佐 ケネス・モア
女性士官アンナ・デイビス ダナ・ウィンター
独リンデマン大佐(ビスマルク号艦長) カール・メーナー
第一海軍卿 ローレンス・ナイスミス
参謀次長 ジョフリー・キーン
独ルーチエンス提督 カレル・ステパネック
キングジョージ5世号艦長 マイケル・ホーダーン
リチャーズ艦長 モーリス・デナム