謎の失踪事件に巻きこまれたカップルを描くサスペンス映画。列車内で忽然と隣にいた老婦人が消えてしまうが、乗客は誰も婦人を知らないと言う。
製作はエドワード・ブラック、監督はアルフレッド・ヒッチコック、原作はエセル・リナ・ホワイト、脚色はシドニー・ギリアットとフランク・ローンダー。白黒スタンダード映像。
主演はマーガレット・ロックウッド、マイケル・レッドグレーヴ。
共演はポール・ルーカス、メイ・ウィッティ。
あらすじ
アイリスは結婚直前の冬休暇を友人と雪国バンドリカ(仮想国)で楽しんでいたが、結婚が迫ってきて明日英国に帰宅する。最後の夜を静かに楽しもうと思ったが、上の階の客がドタバタ騒いで寝られない。外で流しの男が爪弾いていたギターを聞いていた老婦人ミス・フライも部屋から飛び出してくる。アイリスは支配人に心付けを託して、上の階の男を追い出してもらう。するとその男ギルバートはアイリスの部屋にやって来て、追い出されたからこの部屋に泊めてくれと言う。仕方なく、支配人にもう一度上の階の部屋にギルバートを戻さざるを得なかった。ギターの流しは背後に忍ぶ影に頸を締め殺されてしまう。
翌朝、駅に向かったアイリスの上から植木鉢が落下して、頭をしたたか打ったところをミス・フロイが助けてくれた。豪雪で立往生した列車から移ってきた客も一緒に、ロンドン行きの列車に乗り込む。客の顔ぶれはクリケット・マニアのカルディコットにチャータース、ミス・フロイ、弁護士トッドハンター氏、男爵夫人にギルバートら。列車でアイリスはミス・フロイトは同室になる。
ひと眠りしてアイリスが目覚めた時、ミス・フロイは消えていた。車掌や乗客達は、ミス・フロイトいう人を知らないと言う。同乗のハルツ医師は、頭を打った後遺症かもしれないから入院しなさいと薦める。ギルバートがアイリスを信用してくれたのが唯一の支えだった。
列車の停車駅で顔面に包帯を巻いた病人が運びこまれる。ハルツは共に病院まで行って、手術する予定だと言う。いつの間にか車室には、ミス・フロイとそっくりなスタイルのマダム・クマーと名乗る女性が現れて、ミス・フロイの席に座っている。
アイリスとギルバートは、貨物列車にあった手品師ドッポの荷物の中からミス・フロイのメガネを発見する。アイリスは、ドッポが敵の一味であり、乗り込んできた病人がマダム・クマーであり、現在病人として寝かされているのがミス・フロイだと気づく。
二人は、マダム・クマーと捕まえて代わりにミス・フロイを救出した。ミス・フロイの口から事件の一部が明らかになる。機関士、乗務員、医師、同室の男爵夫人、奇術師がバンドリカのスパイだった。
ところが後部列車がいつの間にか切り離されていた。列車は支線に入り、武装したスパイに包囲される。ギルバートとカルディコットは機関室へ行って、列車を乗っ取って走らせる。チャーターズは客室に残って敵スパイに応戦していた。ミス・フロイは、アイリスとギルバートにギター弾きから聞いた暗号(メロディ)を伝えて、もし英国に戻ったら外務省でこのメロディを歌ってほしいと言った。そして列車を単身降りて囮となり、逆方向に逃げ出した。敵の一斉射撃で倒れたかのように見えた。
その機に乗じて、ギルバートは列車を国境の安全地帯まで走らせる事に成功する。やがてロンドンのビクトリア駅に着く頃には、アイリスは婚約破棄してギルバートと結婚することを選んでいた。
しかしギルバートは、ミス・フロイより教わった肝心のメロディーを忘れてしまった。すると、外務省の部屋も中からそのメロディーが聞こえてくる。ミス・フロイが生きて、ピアノで弾いていたのだ。そしてアイリス、ギルバートと再会を喜ぶ。
雑感
謎もしっかりしていて、アクションもあって、文句のないサスペンスだった。
よく見ると、アガサ・クリスティの「オリエント急行殺人事件」(1934年作)が原型じゃないかと気づく。みんながグルなんてそのものではないか。
アルフレッド・ヒッチコックは乗客が消える謎について「1889年パリ万博で娘を残し、消えた母親(実はペストに罹っていた)」という都市伝説からインスパイヤーを受けたそうだ。
そしてきな臭くなってきた1938年当時の英国とドイツのスパイ合戦に主人公が巻き込まれる形にした。ただしドイツの名前を出すことはできなくなっていたので、バンデリカという架空の国名を考えついたのだ。
チョイ役の映画出演はあったが、この作品でマイケル・レッドグレイブが映画の主役級デビューを飾ったそうだ。
スタッフ
監督 アルフレッド・ヒッチコック
製作 エドワード・ブラック
原作 エセル・リナ・ホワイト
脚本 シドニー・ギリアット、フランク・ローンダー
撮影 ジャック・コックス
音楽 ルイス・レヴィ
キャスト
アイリス マーガレット・ロックウッド
ギルバート マイケル・レッドグレーヴ
ハルツ医師 ポール・ルーカス
家庭教師ミス・フロイ メイ・ウィッティ
キャルディコット ノーントン・ウェイン
チャーターズ ベイジル・ラドフォード
トッドハンター氏 セシル・パーカー
ドッポ氏 フィリップ・リーヴァー