ハーヴェイ・ハウスという、19世期から実際にあったレストラン・チェーン店が西部に開店し繁盛して行く中で、ウェイトレスと賭博師の恋の行方を描く西部劇ミュージカル。
製作はアーサー・フリード、監督はジョージ・シドニー。
主演はジュディ・ガーランド、相手役はジョン・ホディアク。共演はレイ・ボルジャー、ヴァージニア・オブライエン、バレエ・ダンサーのシド・チャリシー、アンジェラ・ランズベリーら。
主題歌「アチソン・トピーカ・サンタフェ鉄道で」は前年(1945年)から何人もの歌手やバンドが演奏し大ヒットしたが、映画の中ではジュディ・ガーランド、レイ・ボルジャー、ベン・カーター・マージョリー・メインら多数の合唱による8分10秒にも渡る特別バージョンを演奏して、アカデミー歌曲賞を受賞した。
あらすじ
オハイオ出身だが雑誌の「寂し屋さんクラブ」で知り合って文通の美辞麗句だけで結婚相手を決めたスーザンは、カンザスシティからサンタフェ鉄道に乗り込む。そこでハーヴェイ・ガール(レストラン「ハーヴェイ・ハウス」のウェイトレスの一行と一緒になりスーザンは意気投合する。
スーザンとハーヴェイ・ガールの行き先はアリゾナのサンドロックだ。カウボーイの町で賭博場兼飲み屋があるだけだったが、人口の急増に合わせてハーヴェイ・ハウスが進出して、以前破壊された教会も牧師が戻ってきて再建される。賭博師のネッド・トレントと治安判事パーヴィスが町の権力者だ。
そこへやって来たスーザンは早速花婿ハーツィと出会うが、自己紹介とは全く違う老人で、男性側から破談を申し込まれる。ロマンチックな手紙を代書したのはネッドだと知り、彼の賭博場に怒鳴り込む。ネッドは冗談のつもりで書いたのだが、彼女の剣幕に金を渡してオハイオへ帰りなさいと言う。しかしスーザンは今さら故郷に帰れるわけもなく、ハーヴェイ・ガールに加わる。
ハーヴェイ・ハウスのビジネス・システムは画期的で、列車が停まって休憩する時間を利用して駅前のハーヴェイ・ハウスに客を呼び込み、長旅で疲れた客を文化的に洗練されたウェイトレスが接客し、東部流の洒落た食事を提供するものだ。
ハーヴェイ・ハウス初日からネッドが偵察に来るが、肝心な肉が無くなってしまった。ライバルの悪巧みに気が付いたスーザンは二丁拳銃をおっかなビックリで構えながら、向かいの賭博場に行くと、アダムス支配人と大量の肉が拐われていた。支配人を解放し肉を取り返して帰って行くスーザンの姿に、ネッドの情婦だったショーガールのエムは憮然とする。
その夜ベランダでスーザン、アルマ、デボラの仲良し三人組は話し込んだ。寝ようとすると銃声がした。明らかに肉の報復と脅しだ。この事件で四人もハーヴェイ・ガールから辞めていった。ネッドはこの一件で怒って、ハーヴェイ・ガールが行くために教会は必要だと治安判事に宣言する。
スーザンはネッドに礼を言うために、峡谷で彼が一人になると来る場所に行く。そこでスーザンと話しているとネッドは身近なショーガールと違った魅力を感じて思わずスーザンにキスする。そしてカウボーイは命がけの仕事だから、スリルを感じるためにギャンブルをすることもわかってくれと言う。
そのとき更衣室のデボラの足元にガラガラ蛇が現れた。ネッドは蛇を撃ち殺すが、スーザンに侮蔑された目で見られてしまう。賭博場に帰った後でネッドは治安判事に絶縁宣言をする。
デボラは賭博場から聞こえる美しいピアノの音を聞き、つい覗き込んでしまう。それはピアニストのテリーの演奏であり、思わずデボラは踊ってしまう。それを見ていてエムも大きな時代の変化を感じとる。そこへスーザンがデボラを呼びに来る。ネッドがスーザンに靡いていることを知っていたので、エムはスーザンにイチャモンをつけて袋叩きにしようとする。これに対してハーヴェイ・ガール達も黙っておらず、賭博場はさながらキャットファイトの場となった。
その夜はハーヴェイ・ハウスのパーティだった。ハーヴェイ・ガールはいつもの制服と違って着飾り、お客様とダンスをする。クリス・モールもタップダンスを披露する。その夜、男性客のほとんどはハーヴェイ・ハウスにやって来た。やはり時代は変わったようだ。ネッドはスーザンに完敗宣言をして、賭博場を西部に移して再起を図ると言う。
ところがその夜、ハーヴェイ・ハウスから火が出る。急いでネッドが中に入ると治安判事とマーティが火を付けているところだった。ネッドは治安判事たちを逮捕したが、レストランは焼け落ちる。ネッドはハーヴェイ・ハウスの仮店舗に賭博場を提供し、自分は新天地を目指すつもりで一度はスーザンに別れを告げる。しかし出発直前に気が変わって居残ることにする。
一方、スーザンはてっきりネッドが乗り込んだものと思い、サンタフェ鉄道に乗ってしまう。そこでネッドに対する思いの丈を、新しい店に移るエムに打ち明け、今までのことを謝罪するから一緒に働かせてほしいとお願いする。スーザンの思いを知り、エムはスーザンと和解して急ブレーキを引いた。ネッドが列車に追いつこうと馬を飛ばして来ていた。スーザンはエムに別れを告げ、ネッドの元へ走り寄る。
音楽
“In the Valley (Where the Evening Sun Goes Down)” – ジュディ・ガーランド
“Wait and See” – アンジェラ・ランズベリー(吹替:ヴァージニア・リーズ)
「アチソン・トピーカ・サンタフェ鉄道で」–ベン・カーター、マージョリー・メイン、レイ・ボルジャー、ジュディ・ガーランドとコーラス ◎
“The Train Must Be Fed” – エドワード・アール、セリーナ・ロイル、マージョリー・メイン、ジュディ・ガーランドとコーラス ○
“Oh, You Kid” – アンジェラ・ランズベリー(吹替:ヴァージニア・リーズ)
“Wait and See (reprise) – ケニー・ベイカー
“It’s a Great Big World” – ジュディ・ガーランド、ヴァージニア・オブライエン、シド・チャリシー(吹替:マリオン・ドエンゲス)
“The Wild, Wild West” – ヴァージニア・オブライエン
“Wait and See (second reprise) – ケニー・ベイカー、シド・チャリシー(吹替:マリオン・ドエンゲス)
“Swing Your Partner Round and Round” – レイ・ボルジャー、ジュディ・ガーランド、マージョリー・メイン、シド・チャリシーとコーラス ○
“In the Valley (Where the Evening Sun Goes Down) (reprise)” – ケニー・ベイカー、ジュディ・ガーランド
雑感
主題歌はただただ圧巻だったが、韻を踏んだ早口から始まる ”Train must be fed” (お客は食事を待っている)や、そのほかの歌も非常に聞き応えがあった。見所はジュディ・ガーランド、ヴァージニア・オブライエン、アンジェラ・ランズベリーの演技とシド・チャリシーのダンスシーン。収録されたのに省略された曲も多く、完全版があれば良かったのに。
何故か戦後の日本では公開されなかったが、アメリカでは主題歌がまず1945年に先行ヒットして、翌年1月から映画もアメリカとカナダだけで400万ドルを稼ぎ出している。
ジュディ・ガーランドは当時23歳でまだ若いが、芸歴が長いため貫禄十分で、3歳年上のヴァージニア・オブライエン相手に引けを取らず、シド・チャリシーをグイグイ引っ張っているような感じがする。実はこの映画撮影の最中から初めて薬物中毒の影響が出て、撮影を11日休み40回も遅刻したと言われている。ヴァージニア・オブライエンは妊娠していたが撮影期間が長引き途中で休養に入ったため、前半のシーンにしか登場していない。
ウクライナ系アメリカ人ジョン・ホディアックは1944年ヒッチコックの「救命艇」(20世紀フォックス)でチャンスを掴み、MGMと契約を結ぶ。そして大きな役に恵まれるようになるが、1946年にこの作品に出演した頃がピークで、アン・バクスターと結婚した途端、落ち目になり1947年にパラマウントに移って脇役俳優になり若くして亡くなる。
シド・チャリシーはそれまでも「ジークフェルト・フォリーズ」でバレエ・ダンサーとしてクレジットされていたが、台詞を喋ったのはこの映画が初めてとのこと。表情をアップされることが今までなかったので、緊張していて、後の垢抜けた美人というイメージとは程遠かった。歌も残念ながら吹き替えである。
英国出身のアンジェラ・ランズベリーはもともと歌手で後にトニー賞のミュージカル主演女優賞も受賞するほどだが、ソプラノヴォイスのため世間擦れしたショーガールに相応しくないとのことで、この作品の歌声はやはりアルトの吹替(ヴァージニア・リーズ)である。実は当時20歳でガーランドより3歳年下なのだが、逆に見えるほどランズベリーも貫禄があった。何しろ最後にガーランドは列車で旅立つランズベリーに詫びを入れるのだからw。
独特なタップダンスを披露するレイ・ボルジャーはボードビリアンでブロードウェイでも有名になって映画界に参入し、「巨星ジークフェルド」で自身の役でデビューし「オズの魔法使い」で案山子役を演じている。
アメリカ初のレストラン・チェーンであるハーヴェイ・ハウスの経営母体はフレッド・ハーヴェイ・カンパニーだったが、1968年に不動産会社アムファック(現ザンテラ・パーク&リゾート)に買収されている。なお、実際のハーヴェイ・ガールは映画のように美人ばかり採用したわけではなかった。
スタッフ
監督 ジョージ・シドニー、ロバート・アルトン
製作 アーサー・フリード
台詞 ケイ・ヴァン・ライパー
脚本 エドマンド・ベロイン、ナサニエル・カーティス、ハリー・クレイン、ジェームズ・オハンロン、サムソン・ラファエルソン
原案 エレノア・グリフィン、ウィリアム・ランキン
原作 サムエル・ホプキンス・アダムス「ザ・ハーヴェイ・ガールズ」(1942)
音楽 ハリー・ウォレン
作詞 ジョニー・マーサー
作曲 レニー・ヘイトン
撮影 ジョージ・J・フォルシー
キャスト
ジュディ・ガーランド : オハイオから来た娘スーザン:ブラッドリー
ジョン・ホディアック: サンドロックの賭博師ネッド・トレント
レイ・ボルジャー: ボードビリアンのクリス・モール
アンジェラ・ランズベリー : ショーガールのエム (歌:ヴァージニア・リーズ)
プレストン・フォスター : 治安判事サム・パーヴィス
ヴァージニア・オブライエン : 友人アルマ
シド・チャリシー: 友人デボラ (歌:マリオン・ドエンゲス)
ケニー・ベイカー: ピアノ弾きテリー・オハラ
マージョリー・メイン: 料理人ソノラ・キャシディー
チル・ウィルス: 老ハーツィー
セリーナ・ロイル: ウェイトレス頭ブリス嬢
ジャック・ランバート : 悪漢マーティ・ピーターズ
バイロン・ハーヴェイ・Jr : 車掌(ハーヴェイ・ハウスの創立者フレッド・ハーヴェイの孫で、当時ハーヴェイ・ハウスの社長を勤めていた)