「インファーナル・アフェア」は、マフィアの手下が警察官として潜入し、警察官がマフィアとして潜入捜査する香港ノワールの代表作で2002年から犯罪映画三部作として公開された。
「ディパーテッド」はこれを基にした米国リメイク作品。外国映画のリメイクとして初めてアカデミー作品賞を受賞した。
製作・監督はマーティン・スコセッシがアカデミー監督賞を初受賞。
主演はマット・デイモン、レオナルド・ディカプリオ。共演はジャック・ニコルソン、マーク・ウォールバーグ。
国内向けコピーは「男は死ぬまで正体を明かせない」。
「インファナル・アフェア」を基にした作品としては、日本でも西島秀俊、香川照之が主演したテレビドラマ「ダブル・フェイス」がある。
あらすじ
小さい頃からアイリッシュ・ギャングのボス・コステロに目を掛けられてきたサリバンは警察学校を卒業し、コステロのスパイとなるために州警察本部の刑事になる。
その警察学校を首席で卒業したビリーは、州警本部でクイーナン警部とディグナム巡査部長に突然呼び出され、コステロの潜入捜査をして欲しいと言われる。そのためには刑務所に入らなければならなかった。出所したビリーはコステロに敵対する一味と抗争を起こし、コステロの信頼を勝ち取ることに成功する。
サリバンが属するエーラビー警部のチームと、ビリーが属するクイーナン警部の潜入捜査チームは別々にコステロ逮捕を目指しており、コリンはビリーのことを全く知らなかった。
サリバンはコステロに警察の捜査情報を報告しているので、全く逮捕できない。
サリバンにマドリンという恋人ができる。マドリンは優秀な心理カウンセラーで保護観察処分中のビリーの担当者だった。
コステロをついに逮捕する寸前まで行くが、邪魔が入ったことから、「州警内部にコステロが送り込んだネズミがいる」という噂が広まる。
サリバンは、エーラビーからネズミを見つけ出す任務を任される。まさに「自分探し」が仕事になった。
またコステロ派でも「自分たちの動きを警察に伝えているネズミがいる」という噂が立つ。
サリバンは、コステロの部下たちの社会保険番号を調べることで、マフィアに潜入しているネズミをあぶり出そうとする。
ビリーも社会保険番号を提出させられるが、仲間にはCITIZENという綴りをかけない仲間がいたので、ビリーは綴りを書き直してやる。
その後ふと不安を覚えたビリーはマドリンに会いに行く。彼女はサリバンと同居を決めていたが、最近の出世至上主義のサリバンに不安を感じていた。二人は愛し合うが、結局マドリンはサリバンの元に去る。
サリバンはクイーナン警部とネズミが連絡をとっているのだから、警部に内部監察課の尾行が付けるのが一番と気付く。そうとは知らないクイーナンはビリーと待ち合わせていた。
クイーナン警部が誰も行かないような廃ビルに入ったことを突き止めたサリバンはコステロに連絡し、腕の立つ部下たちを送る。
自分が袋の鼠であることを知ったクイーナン警部は、ビリーを逃し、コステロの部下によって屋上から突き落とされ、転落死する。
クイーナンの死に様を見てしまったビリーは警官隊との撃ち合いにより、射たれた仲間をアジトに連れ帰る。その場でその男はビリーにだけわかるように「裏切り者はお前だ、なぜ俺がそれを言わないかわかるか」と問うたまま死んでいく。
彼は市警本部から送り込まれたネズミだったのだ。コステロもFBIの協力者である。そして警察の犬であるビリー、さらにはビリーの知らない警察内部のスパイがいる。少なくとも四人のネズミがいたのだ。
サリバンは殉職したクイーナン警部の遺品に、彼がビリーから手に入れた「コステロがFBIの情報提供者である」という情報を目にする。もしかしたらコステロはFBIにサリバンを売ったかもしれない!
ネズミの疑いが晴れたビリーは、コステロと大きな麻薬の取引に向かう。そこにはすでに警察が待機していて、コステロ一派は包囲されてしまう。ついにコステロ一派は壊滅する。サリバンは最後に「FBIに俺を売ったか」と尋ね、売ってないことを確認してから、コステロを射殺した。
ビリーはようやく警察に戻ってくる。しかしクイーナンが殺された後、ディグナムは警察を退官していた。彼を知るものは、学校時代の同期だけだった。
そこで初めてサリバンとビリーが対面する。その時ビリーはサリバンの机の上にある封筒に目が止まる。自分が仲間のために「CITIZEN」と書いたあの封筒だった。サリバンこそが警察内のスパイだった。再びビリーは姿を消し、サリバンはビリーの記録を削除する。
ビリーはコステロから託されたサリバンとの電話記録をマドリンに託し、自分に何かあったらこれを開けろと言い残す。
そしてクイーナンが死んだあの場所で、ビリーはサリバンを殺すべく追い詰めますが、もう一人いた警察内部のスパイによってビリーが射殺される。そしてサリバンは、そんなスパイも情け容赦なく撃ち殺す。
サリバンは殉職したビリーを表彰すべきとマスコミに発表するが、マドリンはビリーから託された封筒をマスコミに流し、最後は家に帰ったところを潜んでいたディグナム巡査部長に暗殺される。
雑感
原作は香港マフィアと闇社会を描いているが、アメリカ映画版は、アイリッシュ・マフィアを生み出す人種問題を描いている。
従って単なるリメイクでなく、独自色の強いものになった。
なかなか重厚な筋書きになっていたと思う。しかもFBI、州警察本部、市警察本部が互いに連絡を取らず(手柄を独り占めしたいから)独自に潜入捜査をしている。しかも極悪人コステロがFBIのお墨付きをもらった大ネズミで、それを知った子ネズミのサリバンが怒り狂って、コステロを合法的に射殺する。コステロは最初サリバンに父子に近い感情を持っていた。しかし父子であっても、いや親子であればあるほど、骨肉の争いという名の生存競争が起きるものだ。コステロとサリバンは似たもの同士だった。
一方、コステロは身内が悪に染まりながら真っ直ぐに生きたビリーの父に敬意を持っていた。もしや自分もああいう風に行きたかったのかも知れない。
ビリーが怪しいのは誰が見てもわかる。しかしコステロは泳がせた。それどころか、コステロが殺された時の保険として弁護士を通してサリバンとの会話を録音したものをビリーに渡していたのだ。ビリーはうちの子に欲しい、よく出来た隣の素直な坊ちゃんだったのだ。
さらに市警のネズミ、州警察本部第二のネズミまで出て来て、一回見ただけでは頭が追いつかない情報量だった。
問題はどうしてこのアイデアを香港でなくハリウッドが最初に考えつかなかったのかだろう。スパイが組織に入り込むことは、年功序列を捨てたアメリカ社会に普通に見られることなのに、どうして自分の社会の告発をする作家や脚本家がいないのか。もう自分の知っている頃のハリウッドではないのだな。
スタッフ
監督 マーティン・スコセッシ
脚色 ウィリアム・モナハン
製作 ブラッド・ピット 、 ブラッド・グレイ 、 グレアム・キング
製作総指揮 ロイ・リー 、 ダグ・デイヴィソン 、 G・マック・ブラウン 、 クリスティン・ホーン 、 ジャンニ・ヌナリ
共同製作・制作 ジェセフ・ライディ
撮影 ミハエル・バルハウス
キャスト
ビリ レオナルド・ディカプリオ
コリン マット・デイモン
コステロ ジャック・ニコルソン
ディグナム マーク・ウォールバーグ
クイナン マーティン・シーン
ミスタ・フレンチ レイ・ウィンストン
マドリン ヴェラ・ファーミガ (抜擢され一躍スターダムに)
エラビ アレック・ボールドウィン
ブラウン アンソニー・アンダーソン
トルーパー・バディガン ジェームズ・バッジ・デール